茶色の小瓶

その瓶にはラベルがなく、その中身が何であるかは開けてみないと分からないようだ。


私はそれを家の地下倉庫で見つけた。

母に頼まれ、期限切れになった非常食などを整理していたのだ。

『茶色の小瓶』という歌を小学生の時に歌ったが、正にそれであった。

あの歌の通りであれば、この中には洋酒が入っている。

私は蓋を開け、匂いを嗅いだ。


…なんだこれは、鼻に刺さるような臭いだ。

洋酒のそれでは無い、そこだけはハッキリしている。

ではこれは一体なんだろう。

私は瓶があったところの近くを漁った。


梅干しの漬かった大きな瓶、使わない食器類、餅つき機、運動会などで使う大きめの弁当箱。

そういった物が比較的整頓されて置いてある中、奥の一角だけが鬱々と埃を被っている。

小瓶はそこに隠されるようにあった。


溜まった埃のその奥に手を突っ込むと、ノートのような物が出てきた。

一度濡れてしまったかのように、全体的に酷く波打っている。

ろく』表紙には墨で一文字。

緊張と期待を混ぜながらめくる。

…あぁこれは。


私はその中の一文を見つけるととじて迷いなくゴミ袋に入れた。

茶色の小瓶も一緒に。


小瓶の中身が知られてはいけなかったものだと分かった。

この小瓶の中身で何を成されたのか、それがこの帳面には書いてあった。

誰が何のためにここに置いたのだろう。

帳面には『明治』と書いてある。

父や母の年代よりも上の世代の事。

二人は知っていたのだろうか?

知っていてこのままにしていたのだろうか?


翌日、主に倉庫を管理する母に尋ねると「知らない」と言っていた。

嘘をついている風ではなかった。

「あそこには一升瓶しか置いてないはずよ。」


私は再び地下倉庫に入った。

奥を覗くとあの茶色の小瓶があった。

捨てたはずなのに、またあった。

少し奥にあの帳面もある。


…これはどういう事なのだろう。

背中がひやりと冷たくなった。

帳面を捲る、ここに何か理由があるかもしれないと思った。


『父、酒乱にて母を打つ。』

『母、家を出る。』

『姉が売られていく。』

『私もいづれ、』


そこで止まった後の記録が、私が見た

『毒をもって天誅を下す。』である。


誰かがこの小瓶の中身で自分の父親を…。

それが何故現代になって私の前に現れたのか。

分からない。

私の父は酒乱ではないし、愛妻家だ。

母を殴る事は決して無い。


何故?


私は瓶の蓋を開けた。

するとあの、鼻に刺さるような臭いとは違う匂いがした。

洋酒、ブランデーの香りである。


茶色の小瓶は魔法の小瓶、あの歌は確かそんな歌詞だった。

…まさかね、きっと全部気のせいだ。

そう片付け、私は再びゴミ袋に小瓶と帳面を入れた。

非常食は殆ど賞味期限が切れていた。

買い足ししなければと母に伝えよう。





@@@ END @@@







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る