【フリー台本】サラリとは読めなさそうな諸々

菜梨タレ蔵

ピーターパンの街

紙芝居のおじさんが、月灯りの下、大きな箱を引いて町外れの野原に現れた。

丑三つ時、鳴らないはずの鐘が二つなる。

するとどうした事やら、わらわらと子供達が集まって来ておじさんの前に座る。

紙芝居が始まるかと思いきや、箱の中には小さなステージ。

三拍子の音楽に合わせて踊るのは指人形達。

レースのチュチュに錦の着物、フェルトの山高帽、そしてシルクのドレス。

子供達は目を閉じたまま、音楽に合わせて身体を揺らす。

うっかり目が覚めて、自分は何故外にいるのかと泣き出しちゃったのは魚屋のしょうちゃん。

しょうちゃんにつられて、他の子供たちも目を覚ます。

さぁ大騒ぎ、てんやわんやになってしまった。

おじさんは慌てて二つ手を叩いた。

するとお人形がステージを降りてきて特別な子守唄を歌う。

虚ろな、夢の中にいるような不思議なメロディー。

しょうちゃんは泣くのをやめて、再び眠りの中。

他の子達も次々と目を閉じる。

なかなか眠らない子は、大きなお人形がやって来てお口を塞ぐ。

するといつの間にか静かになる。


月が西に大きく傾いて、厚い雲に隠れた。

光がなくなったら、それが合図。

音楽が徐々に小さくなると指人形達は子供達一人一人の元へ。

指人形の数が子供の人数に対して足りなかったみたい。

仕方ないよ、そういう事もある。

紙芝居のおじさんはため息を着くと木の椅子を軋ませ、タバコに火をつけた。

このタバコの煙もまた、不思議な匂い。

タバコだけどタールの臭いはしないんだ。

焼けると言うより芽吹くような匂いかな。

指人形は次々と子供達の小さな指へ。

大きいものは手にカポリとはまる。

もっと大きいものは子どもの頭へ。

しょうちゃんなんて、丸呑みされちゃったよ。


月がもう一度顔を出すと、野原にはなにも無くなっていた。

紙芝居のおじさんも、ステージの箱も、指人形も、そして子供達もいない。

何処へ行ってしまったのだろうとフクロウが滑空する。

あのタバコの匂いだけ、野原の片隅の汚れた山高帽から匂ってきた。


翌朝、しょうちゃんの『おはよう』という声が聞こえてきた。

魚屋のおじさんとおばさんはびっくりしたんだって。

しょうちゃんって子は毎朝なかなか起きれなくて、おばさんをやきもきさせる子だったから。

それにお店のお手伝いもしてくれるようになった。

昨日まで魚が生臭いから嫌だって、お願いしても絶対手伝ってくれなかったのに。

まるで人が変わったみたい。

この町の大人達はそう言ってゲラゲラ笑っていた。

子供が何人か昨夜(ゆうべ)から居なくなったみたいだけど、大丈夫。

この街ではそんな事、日常茶飯事。まぁそんなもんだよ。


野原の片隅にあった山高帽がすっかりボロボロになって土に還った頃、この街からは子ども以外居なくなってしまった。

おかしいね、大人はどこに行ったんだろう。

満月の夜、月灯りの下、野原に大きなテントが立った。

中では賑やかな音楽!人形達が無邪気に踊っている。

丑三つ時、鳴らないはずの鐘が二度なる。

しょうちゃんは煙草に火をつけ煙を吐いた。

この街にはもう、子供達しかいない。


\\\ END \\\









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