24話 側近

 およそ2ヶ月後……



 心地よいクーラー


 冷たいアイスコーヒー


 綺麗な


 あー、このカフェ……


何もかもが



「おいっ……お前話聞いてねぇな?あかつきさんよ?」


 目の前でダニーが湿気シケた顔で俺を見てくる。


 これは唯一……


「よしっ!さあ、仕事仕事!で、どんな話だった?ダニー君」


「やっぱり聞いてねぇじゃねぇかっ!」


 静かな店員にダニーの叫び声が響き渡った。


「あー、恥ずかしっ……」


 ダニーは歯ぎしりをしながら、もう一度説明してきた……いや、してくれた。


 明日の正午、ようやくマフィアのBOSSと対面出来るようになった入会希望の殺し屋(ダニー)。

 どんな面談かは不明だが、そこにはBOSS直属の配下が4人……コイツらはかなり

 そしてその4人の中でも段違いに強い『アンドレ』という男がいる。

 ソイツには要注意だ。


「て事で何とか龍尾会に入会して、顧客リストを奪ってくる」


「OK!じゃあ俺はの時の為に近くで待機しておくよ」


「ああ、頼んだぜ」



 翌日、ダニーオレは龍尾会のBOSS キムの部屋に居た。


 革のソファーにもたれ掛かるふくよかなカラダの男がBOSSのキム。

 その周りに居る4人が側近。


 中でも異様な気を放つのが、一番左側に居る男『アンドレ』。

 確かにコイツはヤバいな、だが他の3人も決して弱くは無いぞ。


「秋山と言ったか……この業界には何年いる?」


 キムが葉巻を咥えながら口を開いた。


「はい、6年になります」


「ふーん。で、何故ウチを選んだ?」


(何だよこれ、就職の面接かよっ)


「それは龍尾会ここが一番デカい組織だからだ。日本でも知られている」


「ほぅ。まあ御託ごたくはもういいか。正直ウチは人が有り余っている。お前は末端の歩兵など相手にならない程強いそうだな?」


「そうですね、悪いが散々暴れさせてもらった。会の人数減らしましたよ」


「ブハハハッ!よし、ワシの側近になりたいなら、この4人の内からひとり殺れ。そしたら交代で採用してやる。おい、誰か相手してやれ」


 キムは口から煙を吐き出し口角を上げた。


「BOSS、私で良ければ……」


 ひとりの男が手を挙げた。


 アンドレだ。


(くっ……コイツはマズイ事になったぞ。勝てるか?いけるのか、オレ?)


 アンドレは2メートルを越す筋肉質の大男だ。

 それにも関わらず器用にナイフを使いこなす厄介な相手だ。


 弱気を見抜かれるのはマズイ。

 オレは虚勢を張ってアンドレと対峙した。


 アンドレが物凄い殺気を放ったその時だった。


 扉とは真逆の窓ガラスが大きな音を立て粉々に飛び散った。


 ロープに掴まり窓から侵入して来た黒づくめの男は、あっという間に側近の3人を撃ち殺した。


 そして素早くキムの後ろへ回り込み首を左腕で締め上げた。


「動くなよ」


 黒づくめの男はアンドレとオレに殺気を放っている。


 黒づくめ……てか、

 予定と違うぞ。

 何故入って来た……


 アンドレとオレは暁へ銃口を向けたまま微動だにせず、動きを注視した。


「くっ、貴様!何者だ?」


「黙ってろ、豚」


 暁はキムの言葉など聞こうとはしない。

 するとアンドレが野太い声で尋ねた。


「何者かはいい。要件を聞こう。それとBOSSを解放しろ」


 アンドレはチラリとオレを見た。

 間違いない、疑われている。


 もそれに気付いた。


 パンッ!


「ぐぁっ!」


 黒づくめの男はオレの肩に弾をぶち込んだ。

 オレは拳銃を床の上に落とし、肩を押さえた。


(暁の野郎、撃ちやがった!やり過ぎだろ、クソッ)


「そっちのは黙って見てろ。そこのデカいの、お前が一番強いな。交渉はお前としてやる。ただし、妙な動きをしたらこの豚に穴が空く」


 黒づくめの男はキムのこめかみに銃口を押し付けた。


「要件は簡単だ。顧客リストが欲しい。だが、どうせこの事務所には置いてないんだろ?お前がリストを用意するまでこの豚をさらっておく」


 アンドレは口をつぐんで考えた。


 しかし、オレはアンドレより先に動いた。

 落とした拳銃を拾い上げると、キムの足に弾をぶち込んだ。


「ぐわぁっ!この野郎!どういうつもりだ!」


 キムはオレを睨みつけた。

 だが、そんな事は気にせず黒づくめの男に話しかけた。


「さあ、どうする?拐うのは無理になったぞ?殺して逃げるか?」


「……チッ、お前を甘く見た。任務失敗だ、おとなしく帰るとしよう」


 黒づくめの男はキムに銃口を突き付けたまま、窓に近づいた。

 そしてキムを蹴り飛ばすと同時に窓から飛び、逃げて行った。


「おい、新人!お前スパイか!よくもワシを撃ったな!」


 豚が鳴くのをさえぎり、アンドレが口を開いた。


「BOSS、違います。奴は貴方を拐うと言った。しかしBOSSが足に痛手を負ったら、動けず拐うのは難しい。コイツの判断は間違いではありません」


 流石アンドレさんだ、見事にオレの行動を理解している……そして、まんまと黒ずくめの男あかつきの罠にハマってくれた。


この事で、オレは見事にキム側近となる事が出来た。


まあ、暁のおかげだが……。



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