23話 知らない自分


 ここか……


 真っ赤な看板……如何いかにも韓国料理屋らしい。

 絶対に辛い料理が出てくるのだろう。


 中へ入るとチョンさんが席を立ち手を振ってきた。


「お待ちしてました。どうぞ座って下さい」


 チョンさんはにこやかに出迎えてくれた。


「あ、私 オススメのものを適当に頼んじゃいました」


「ああ、全然構わないよ。どうせ分からないから」


 俺は慣れない愛想笑いをした。


(困ったな……ダニー以外の人間と話をするなんて……こう言う時はどうすればいいんだ?)


「あ、あの今日は誘ってくれてありがとう」


 俺はとりあえずお礼を述べた。


「そんな!とんでもないです!私が助けて頂いたのですから!」


 チョンさんは小さく両手を振ってアタフタした。


「私の祖母の教えなんです。恩を受けたら冷めない内に必ず返しなさいって」


 チョンさんは恥ずかしそうに笑った。

 それにしても、やはりとても綺麗な女性だ。


 暫くして、料理が運ばれてきた。

 想像通り、赤い料理ばかりで区別も着かない。


「あの、嶋田さん何か飲まれます?ビールとか?」


「いや、アルコールはちょっと……。烏龍茶を頂くよ」


 いつ、何が起こるか分からない。

 俺たちの業界は飲酒する者は少ない。


「では、いただきまーす……う、うまっ!」


「これはタッカルビと言います。良かったぁ、気に入って頂けて」


 俺は人目もはばからず、ガツガツと食べた。

 それを見てチョンさんは微笑んでいた。


「ところで嶋田さんはご旅行ですか?」


「はっ?俺があんな男と旅行するワケ無いでしょ!仕事ですよ」


 俺は口の中をご飯いっぱいにしたまま否定した。


「そうなんですね?お二人は何のお仕事ですか?」


「うーん、ちょっと寄って……」


 チョンさんは、不思議そうにそっと耳を傾けた。


「実は……俺たちは殺し屋です」


 俺は、チョンさんに小声で耳打ちした。


「フフフッ、嶋田さんは面白い方なんですね」


「え?面白い?」


 チョンさんと俺は顔を見合わせた。


「……えっと、ほ、本当にですか?冗談では無く」


「そうですけど?……あっ!怖いですよね!?すみません、気が利かなくて。安心して下さい、何もしませんよ!」


 そう……俺はバカなのだ。


「いえ、別に怖くは無いのですが、もしも私が敵だったら大変な事に……」


 チョンさんは少し驚いただけで、普通に俺の心配をしてきた。

 彼女も変わった女性だ。


「俺、分かるんですよ。相手が同業者だとか、敵意を持っているとか、殺気とか……」


「へぇー、それは凄いですね!」


 チョンさんは何故か感心してきた。


「あの、お友達というか、同僚の方は?」


「アイツはДаниилダニール秋山。まあ、俺のに強いです」


 俺は饒舌じょうぜつに色々な話をした。

 こんな事は今までに無かった。

 彼女が聞き上手なのか、まるで彼女の魔法にでもかかったようだった……。


 食事が終わり店の外へ出た。

 俺はチョンさんに改めてお礼を述べた。


「あの……チョンさん」


「はい?何でしょうか?」


「今日はご馳走になったので、明日は俺に奢らせて貰えない……かな?」


 俺は自分自身に驚いた。

 俺はこんなセリフを吐く人間だったか?

 何を言ってるんだ、一体……。


 チョンさんは驚いた様子だったが、嬉しそうに赤面して頷いた。


 こうして、チョンさんと俺はチョコチョコと会うようになっていった。


 それからひと月も経つと、お互い大切な存在ひとになっていた。


 俺みたいな暗殺者が、弱点になるような大切な存在を作るのは間違っているかもしれない。

 しかし、俺には自信がある。

 どんな事からも、絶対に守ってみせる。



 それから暫くして俺はダニーに、チョンさん……ソダムを紹介した。


「おいおい冗談だろ?何を考えているんだ、|あかつき?」


「まあ、何とかなるさ。それに仕事をサボっている訳でも無い」


「ソダムちゃん、アンタもだ!オレ達の仕事を理解わかっているいるのだろう?!」


「はい」


 ソダムはにこやかに返事をした。


 ダニーは目をつぶり天を仰いだ。



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