25話 急報


あかつきてめぇ!撃ちやがったな!やり過ぎだろっ」


 偉く剣幕なДаниилダニール秋山。

 無理もない、肩を拳銃で撃たれたのだから。


「いえいえ、どういたしまして」


 嶋田暁おれはアイスコーヒーに入れたミルクをかき混ぜながら答えた。


「な、何がどういたしましてだよっ!」


「あ?お前な、あのままだったらアンドレとか言う巨人に殺されてたろうが!」


「うっ……」


 言葉に詰まるダニーにソダムは苦笑いをした。


「でも、ダニーさんが無事で良かったわ」


「暁!ソダムちゃんに免じて許してやる!

 それと……なんだ、その……Thank you」


 俺はニタリと勝ち誇った顔でアイスコーヒーで喉を湿した。


「それで?龍尾会の方はどうなった?」


「ああ、お前が3人ヤッてくれたのと、オレがキムの足を撃ちアンドレがフォローを入れたことで側近になれた。お待ちかねのの同行も決まった。5日後25:30 ここから北のはずれにある小さな村で行われる」


 ダニーの仕事はパーフェクトだった。

 流石さすがは俺の相棒だ。

 ダニー程頼り甲斐のある男は他にいない。


「それで、例の顧客リストは?」


「そこが問題だ。アンドレが持っている……」


 ダニーは困惑した面持ちで目尻を下げた。


「うーん、そりゃキツイな。余程キムの信頼を得ているようだな。あ!てか、現場でターゲットヤりゃあいいんじゃね?」


 俺の案は甘いものだった。


「オレもそう思ったが、ターゲット本人は現場には来ない。かなり用心深いな。ただ韓国には来るようだが」


 ダニーはテーブルに置いた手の指でカチカチとリズムを取り、もどかしさを表していた。


「アンドレが顧客リストを隠している場所から奪っちまうってのは?」


「残念でした。リストはUSBなのでアンドレが持ち歩いてます」


 ダニーは苦笑いするしかなかった。


「どん詰まりだな。もうアンドレを殺るしか手は無いということか……よし、ダニーとアンドレが二人でいる時に俺が奇襲をかける、隙を付いてお前ダニーが仕留めてくれ。それしか無い」


 結局こういう仕事に安全など無い。

 全てにおいてリスキーだ。

 おのれ生命いのちを賭けるしか無いのだ。


 俺たちは5日後の取り引きまでにアンドレを暗殺すべく、何度もシュミレーションを繰り返し、あらゆるパターンの仕留め方を捻り出した。


 しかし、いくらシュミレーションをしても上手くいく可能性は50/50フィフティフィフティ以下だった。


 焦りや不安ばかりが先行して、いつも以上に死を覚悟した。

 そして情けない事に、俺は仕事よりもソダムへの気持ちの方が心に巡っていた。


 死にたくない……


 この仕事を始めた時から、既に生命いのちを捨てた筈なのに……

 暗殺者としてような感情が自分自身を苦しめていた。



 取り引き前日、事態は急変した。


 ダークアイから支給されたスマホの着信音が鳴り響いた。


「スピーカーにして二人とも聞け。緊急事態だ」


 俺たちはダークアイのただならぬ雰囲気に表情もカラダも固まった。


「結論から言おう、キムとアンドレは暗殺された」


「は……?ちょ、ちょっと待てよ……」


 俺は既に頭が追いつかなくなっていた。


「黙って聞け。勿論取り引きは中止、ターゲットの日本人も姿を消した。身を隠したのか、それとも既に暗殺されたのかは分からない。つまり、我々がやる仕事は何も無くなった」


 ダニーの顔は強ばっていた。

 悔しさなのか、それとも何処かホッとしたのか……


「それと……これは推測でしかないが、こんな事を出来るのは欧州のAssassinアサシンチームだろう。これだけ規模の大きな取り引きだ、ヤツらが耳にしていても何ら不思議は無い」


「お、教えてくれ……欧州って、欧州の何処の国なんだ?」


 ダニーはという言葉に大きな反応を示した。


「やはり気になるか、Даниилダニール秋山よ」


 ダークアイがスピーカー越しに口角を上げているのが見えるように感じた。


「私はお前と縁もゆかりも無いが、敢えて伝えておく。フランスへ飛んでもAssassinチームヤツらとは


 それは静かな口調だったが、強烈な威令いれいに違いなかった。


 ダニーは震えていた。

 武者震いか、はたまた恐怖か……。


「話は以上だ、詮索は許さん。報酬はキッチリ振り込む。ではまた……縁があれば」


 ダークアイからの電話が切れた。

 俺たちは暫く黙ったまま動くことが出来なかった。







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