19話 会食
「まあ落ち着いてくれよ、武村君。ひかりちゃんに危害など加えちゃいない。
かなり危険な男だ……。
「あ、もしもしパパ?」
ヤツの言った通り、ひかりは至って普通の話し方だ。
「ひかり!何もされてないか?チョンさんは無事か?」
俺はひとり焦っている。
「え?全然何もないよぉ。大丈夫!またおじさんに代わるね」
「と、言う感じさ。安心したかい?武村君」
「一体どういうつもりだ?何故、居場所を特定出来た?」
恐ろしい……まるで心の読めない男に、俺は恐怖すら覚えていた。
「何故って?まあ、とりあえず今から言う場所へ来てくれ。話はそれからだ」
電話を切ると、俺は直ぐに行動した。
確かに鬼気迫る感じでは無さそうだが……
俺は怯えているのか……?
クソッ!情けないぜっ!
俺は妙な
秋山が指定した場所は、都会の中心的な街にありながら、ポツンと1軒レトロな建物……ここか。
『ハンバーグの店 片倉』
益々分からない……ここで一体何をしようと言うのか?
俺は店のドアを開けた。
チリンッと、昔ながらの呼び鈴が鳴った。
カウンター席6つに、4人掛けのテーブル席が二つ。
小さな店だ。
「あ!パパが来た!」
「えっ?」
なんとひかりが居るではないか!
俺は飛びついて来たひかりをハグすると焦る気持ちがスーッと無くなった。
2~3日会っていないだけでこんなにも愛おしいなんて。
「やあ、よく来てくれたね」
白いハットとロングコートをハンガーに掛け、大きなカラダで微笑むダニール秋山。
「武村さん……」
秋山の隣に座っている女性が、俺に声を掛けてきた。
「チョ、チョンさんまで?!」
おいおいどうなってる?
秋山……何のつもりだ?
こんな事で油断させる気か?
「まあ、武村君も一緒にどうぞ。ここは私の行きつけでね、ハンバーグが最高に美味いんだ。ね?片倉さん」
秋山はカウンターにいる白髪のじいさんに声を掛けた。
「パパも一緒に食べようよ!とっても美味しいよ!」
ひかりは嬉しそうにハンバーグを頬張った。
俺は下手に動かず、秋山の指示に従い席に着いた。
ものの5分ほどでハンバーグが出された。
鉄板の上でじゅうじゅうと音を立て、食欲をそそる匂いが充満していた。
「さあ、まずは食べてみてよ。味は保証するよ」
秋山は何の邪気も無い顔で微笑んだ。
ここの所、ろくな物を口にしていなかった俺は有難くハンバーグを頂くことにした。
「う、美味い……」
「だろ?!お嬢ちゃんも気に入ってくれたんだ」
俺は余りの美味さにペロリと平らげた。
紙ナプキンで口を拭くと早速尋ねた。
「まず最初に礼を言う。目黒さんを助けてくれてありがとう。
悔しかったが、皆の手前きちんと礼は尽くした。
「さて、ここからはガラリと変わる。順を追って聞かせてくれ。始めに、何故目黒さんとヤリ合い、そして助けた?」
俺は真っ直ぐな目で秋山をロックした。
表情や声の変化など、ひとつ残らず感じ取り見逃さない……。
「目黒さんは伝説の男ダークアイだ。私は業界ナンバーワンを手にしたい。その為にはヤラなければいけない相手だったまでだ。
秋山はしてやったりの顔で口元を緩めた。
「助けた理由……それは、勝負がつかなかったからだ。彼は私の勝ちだと言ったが、あのご老体であの強さは身が縮む思いだったよ。私があの歳でアレだけの強さを保つ自信は無い、そして私も傷を負わされた。勝負はドローさ。だから助けたまでだ」
秋山は丁寧に、突っ込みようの無い回答をしてきた。動揺も無い。事実を述べているとしか思えない。
「では、何故ひかりとチョンさんに接触出来た?何処からの情報だ?」
「ぷっ!クハハハッ!本当に面白いな!」
秋山は腹を抱えて笑った。
「何がおかしい?!」
俺は少し声を荒げた。
「愚問だ、今の質問は愚問だという事だよ。ソダムちゃんと私、そしてキミは旧知の仲だ。私は普通にソダムに連絡をして、久々の再会に夕食を共にしている。何処の情報も何も無いのさ。今のは笑わせて貰ったよ」
な、なんだとっ!!
俺たち3人が知り合い?!
秋山はともかくチョンさんまで!?
「どうした?武村君、焦りが見えるぞ」
秋山はニヤリと口角を上げた。
「あ、あの武村さんごめんなさい!私、隠してたつもりは無くて……貴方が私の事を分かっていなかったようだったので……」
「そ、そうなんですね。それは本当に失礼しました!謝るのは俺の方です!」
俺は立ち上がり、チョンさんに頭を下げた。
「武村君……いや、
!!!
な、なんだって!?
ダメだ……記憶が戻るどころか混乱が混乱している。
「あー!ダニーさん、それはひかりが言うってお約束したのにぃ!」
「あ!そうだったね、ごめんよお嬢ちゃん」
膨れたひかりに秋山はドギマギして謝った。
チョンさんは俯いたままピクリとも動かなくなった。
「まあ、私が教えられるのはここまでだ。後は自分でなんとかしろ、暁」
お、俺は嶋田暁という名で、チョンさんは婚約者で、秋山は共通の知り合い?……ダ、ダメだ、整理がつかない……ここから逃げ出したいくらいだ。
「あ、お嬢ちゃん!先程のお詫びにデザートもご馳走するよ。片倉さん、アレを頼む。人数分だ」
片倉と言う店の男がガラスの器に入ったバニラアイスを運んで来た。
「ねぇ、ソダムちゃん。デザートって何が運ばれてきたの?」
ひかりはワクワクを押さえきれない様子で、チョンさんに尋ねた。
「バニラアイスよ、とっても美味しそう」
チョンさんはひかりに微笑みかけた。
「わぁーい!アイス大好き!ダニーさんありがとう」
「ハハッ、喜んで貰えて嬉しいよ。さあ、召し上がれ。暁もどうぞ」
秋山は笑いを堪えながら俺にスプーンを渡してきた。
俺は完全に秋山のレールへ乗せられていた。
バニラアイスを口にした俺たちは、深い眠りに堕ちた。
「悪いな、暁。別に取って食おうってワケじゃ無い。私はただ……」
!!!
「ダニーさん、これはどういうことなの?」
「お、お嬢ちゃん……どうして?」
ひかりは大好きなアイスを口にしていなかった。
秋山は意表を突かれ、額から汗が流れた。
「ひかりはね、弱視だから他の感覚に優れているの。バニラの香りの中に、薬のような匂いが混じってた。だから食べなかったのよ。ダニーさんは何をする気なの?」
秋山は上を向き、ひとつ息を吐いた。
「参ったな、こんな優秀な人間が目の前にいたとは。でも勘違いしないでくれ。私は皆をどうにかするワケでは無いんだ」
秋山はひかりに信じて貰おうと
「分かった……じゃあ、教えてダニーさん」
ひかりは臆すること無く秋山と対峙した。
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