20話 失望

 ひかりはДаниилダニール秋山の運転する車の助手席に乗っていた。

 後部座席には眠っているソダムと嶋田暁。


「それで?どうしてダニーさんはパパと戦いたいの?」


 ひかりは不思議そうに尋ねた。


「うーん……男っていうのは単純に強い者に憧れるのさ。嬢ちゃんの男友達もそうじゃないかい?」


「うーん、確かに戦いごっこしてるぅ」


「ハハッ、そうだろ。何故パパなのか?っていうと……あかつきが日本で一番強いからさ」


 秋山は真剣な目で話を進めた。


「おじさんは今フランスに住んでいるのだが、世界は広い……暁より強い奴らがゴロゴロといるんだ。だったら俺は日本一になってフランスに戻る、そう決めたのさ」


 秋山は申し訳なげにひかりを見た。


「そうなんだぁ?でもパパは戦わないよ。今は弱いし、農家屋さんだから。ひかりには分かるんだ。ダニーさんは良い人だよ、皆で仲良くしようよ?」


 ひかりはまるで子犬が甘えるような顔で秋山を見た。

 秋山はそんなひかりを見て、胸がズキンと痛んだ。


「おじさんは馬鹿だからね、嬢ちゃんに会って初めて分かったんだ。一番強いのは、ひかりちゃん……キミだ。それは力とかでは無く、人間としてだ」


 ひかりは首を傾げた。

 まだ理解をするには幼すぎるのだ。


「嬢ちゃん、誰にも言っていないおじさんの秘密を教えよう。それとお願いがひとつある……頼まれてくれないだろうか?」


 秋山はなんとも言い難い笑みを浮かべた。



「うっ……痛っ……」


 武村オレは激しい頭痛で目が覚めた。

 隣りにはひかりとチョンさんが。

 なんとも言えない表情で秋山を見ていた。

 どうやら、ここはビルの屋上のようだ。


「やっとお目覚めかい?


 秋山は俺を挑発するように言った。


「何故俺に固執する?少なからず敵対してるようには思えない……」


「……流石さすがに頭にきてるぜ。目覚めるのも一番最後、良い人ヅラして戦いたくない、記憶は戻りません。ガッカリしたよ、暁」


 秋山は怒りを抑え鋭い眼光で俺を睨みつけている。


ちなみに嬢ちゃんは大好きなバニラアイスに口を付けなかったぞ。お前は間抜けヅラ美味うまそうに食べやがって……」


 ひかりが……


 秋山の言う通りだ、俺はなんて間抜けなんだ。

 もしも眠らされている隙にひかりが……


 俺はガクガクと震え上がった。

 そして自分に腹が立った……はらわたが煮えくり返るほどに。


 そして、俺は覚悟を決めた。


「秋山、正直今の俺では相手にならないだろう。しかし、チョンさんとひかりを見逃してくれるなら正々堂々戦う。勿論……命懸けだ」


 長いがやけにだ。


 秋山も、チョンさんも、ひかりも微動だにせず、口も開かない。


 秋山は大きく息を吐いた。

 そして俺の目を見て、口角を上げた。


「もう遅い……遅すぎだ。そんな腑抜けたお前に興味は無くなった。だが、ひとつやるべき事が出来た。恐れるべきはお前では無い、近い将来で間違いなく覇権をとるだろう人物……嬢ちゃん、悪いな」


 !!!


 秋山はひかりに銃口を向けた。

 そして、何の躊躇ちゅうちょも無く引き金トリガーを引いた。


「や、やめっ……!!!!」



 俺は全てがスローモーションに見えた。


 秋山の銃口からは硝煙しょうえんが立ちのぼ


 チョンさんは目を丸くして口元を押さえている


 放たれた弾丸はスパイラルしながら俺の横を通り過ぎた


 そして……


 そして……



 弾丸はひかりの胸に命中……


 ひかりはその衝撃で背後の壁に激突した……


 胸元からおびただしい量の血が噴き出し、口からも出血……


 そのまま前屈みに倒れ込むと……


 その小さなカラダはピクリとも動かなくなった。


 チョンさんが直ぐに駆け寄ってひかりを抱きかかえた。



 俺は……俺は……こんなに小さな命さえ守れないのか……?


 目の前に……手の届きそうな距離なのに


 俺は守ることが出来なかった……


 ああ……目が霞む


 段々と気を失っていくのが、自分でも分かった。


 ひかり……


 ひかり……


 ひかり……



 俺は真っ暗な闇に堕ちたように、何も見えない、何も感じなくなっていた。














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