18話 自問自答
「もしもし、ひかり?」
「うん、そうだよ!パパ明日帰って来る?お爺ちゃんには会えた?」
俺はひかりの問いに戸惑った。
しかし、嘘はダメだ。
ただ、言える範囲で答え、話を突っ込まれたら全てを話そう。
「目黒さんには会えたよ。でもね、酷い怪我を負っているんだ。入院しているからパパが付き添いをしようと思ってる。後3~4日待っててくれないか?」
俺はらしくも無く胸をドキドキさせて返事を待った。
何故なら、ひかりは暫く沈黙しているのだ。
「……分かった。いいよ、パパ。でも絶対絶対帰って来てね!ひかり……寂しい、もう独りにはなりたくないよ」
ひかりの声は少し震えていた。
寂しさと怖さ、そして何かを悟ったような返事に聴こえた。
「絶対に帰る!目黒さんと一緒に!約束する!」
ひかりと固く約束を交わすと、チョンさんに電話を代わって貰った。ひかりをもう少しだけ面倒を見て欲しいとお願いして、スマホへ向かって頭を下げた。
チョンさんは快く引き受けてくれた。
財布を覗くと、
俺は街の監視カメラから避け、牛丼屋で夕飯を済ますと車中で夜を明かした。
翌日は銭湯へ行き汗を流し、UNI○LOで着替えを購入した。
しかし参った。
あの現場にいた俺は重要参考人……しかも逃走した。
そして
今は奴からの連絡を待つ事しか出来ない。
俺はもどかしい気持ちを抑え、秋山からの連絡と目黒さんの回復を待った。
そんな時ひかりからL○NEがきた。
『ひかりはパパよりもパパの事を知ったのだ。イヒヒッ』
おいおい、どうなっているんだ?
一体どういう意味なんだ?
もう分からない事だらけでパニックになりそうだぜ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
他の高層ビル群に引けを取らない立派な警視庁本部庁舎……
事件のあった繁華街に設置してある監視カメラ映像の解析が行われていた。
そこへ警視庁長官の
こんな事は初めてかもしれない。
分析班の者たちはアタフタと椅子から立ち上がり敬礼をした。
「そんなに背筋を伸ばさなくていい。作業を続けてくれ」
早速、分析官のひとりが勝又に報告した。
「実は、つい先程ひとつの画像を鮮明化する事が出来ました。服装や体型、二人の警官の証言から、恐らくコイツが重要参考人と思われます」
勝又は映像を見入った。
分析官は勝又の口元が引き攣ったのを見逃さなかった。
暫くの間画像と睨めっこをすると、大きく息を吐いた。
「解析ご苦労様だった。だが、コイツは参考人にも容疑者にも
「え?う、打ち切りって……
分析官は開いた口が塞がらない。
「そう思って貰っても構わないが、被害者は裏社会の人間だ。イザコザがあったのは間違い無い。これ以上我々が介入しても無駄ということだ」
勝又は
太い眉毛がまるで繋がったかように見える。
そして、相手を制するような強い目ヂカラで分析官を丸め込んだ。
それから二日経った……
目黒さんの様子を伺いに行くと、意識が戻り身体中に繋がれた
俺に気が付くといつもの笑顔で
「よう!武村くん、心配掛けたな」
目黒さんは目尻に皺を作って苦笑いをした。
「ひかりも心配してますよ。どれくらいで動けそうですか?」
「……それよりも、ヤツに会ったのかね?」
目黒さんの目つきが代わった。
「は、はい。言い難いのですが、萩原さんに助けて頂いて……」
伏せ目がちな俺を見て、目黒さんは直ぐに察した。
「萩原は強かったろ?!……最期はどう逝った?」
「はい。彼は自分よりも目黒さんの事を最期まで気にかけていました。それと、彼に頼まれて俺が看取りました」
暫くの沈黙の後
「そうか、それはご苦労だったの。ありがとう」
目黒さんは悲しそうな作り笑顔をみせた。
「それから、もうひとつ……目黒さんに輸血をしたのは秋山という男です。ヤツとどういう関係なんです?」
「ハッハッハ、自分で殺そうとして輸血するとは
目黒さんはサイドテーブルからペットボトルのお茶を手に取り口にした。
「このお茶もヤツに貰ったんじゃ。お近付きの印だそうじゃ。面白いじゃろ?」
「あの……目黒さん、ひとつ伺ってもいいですか?と言うか、教えてください。アナタは昔……5年以上前から俺の事を知っているのでしょうか?」
俺は限界だった。
記憶が無いとは恐ろしい……自分が何者なのか、どんな人間なのかどうしても知りたかった。
「ああ、知っとる」
目黒さんはひと言答えただけだった。
「そうですか……俺、どうしても過去が知りたいんです!教えて頂け……」
「馬鹿者!!
俺は初めて目黒さんに怒鳴られた。
そして、何も反論出来なかった。
確かに自分の過去だとしても、他人から聞いても他人事にしか思えない……。
俺は……馬鹿だ。
「ワシは後二日もすれば動ける。その間にどうしたら良いかゆっくり考えるといい。ただ……ヤツはそんな時間もくれないだろうが……」
目黒さんは、必ず秋山から連絡が来ると俺に伝えると直ぐに眠りについた。
きっと無理をしていた。
俺に心配を掛けまいと元気に振る舞っていたのだろう。
俺は何をしていいのかも分からず、車へ戻った。
俺は一体何者なんだ?
出るのはため息ばかりだった。
そんな時、ひかりから着信があった。
「もしもし、ひかり。どうしたんだい?」
「ハハッ、パパって感じだね……武村君だっけ?」
俺は全身の毛穴が開いたような寒気に襲われた。電話口から聞こえたのは、ひかりの声ではなかった。
「秋山ぁ!!ひかりをどうしたっ?何かあったら……」
「何かあったら?……殺す、かね?フフッ」
クッソ!
本当に訳が分からねぇ!
ダメだ、冷静になれ!
今俺に出来る事……いや、やるべき事は状況を判断して、ひかりを救う事だ!
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