40.捕われ少女の抵抗
『来ますかね?ボス』
町外れにある今はもう使われていない倉庫にて、数人の男たちが話をしていた。
「とりあえず誘い出すことには成功しましたね」
「あぁ、上手く行ったな」
「後はあいつの仲のいい生徒が来るのを待つとするか」
シィルミナが予想をしていた通り、“イグヴィス”を装った隣国からの侵入者達によって、ミレアは攫われてしまったらしい。
彼女は倉庫を支える柱に背中を預ける。柱に繋がれてしまった両手のおかげで、足が自由でも立つことはできない。
「…………っ!」
気づけば話が終わったのか、それとも話の標的がこっちになったのか、男達はこちらに視線を向ける。
「しっかし、いいやつを選びましたねボス」
「たまたまだ」
ボスと呼ばれる人物は、他の男達とは違って置かれた椅子にずっと座っていた。何かを待っているかのように……。
「こいつで
1人の男が手に握るのは包丁より刃渡りの長い刃物だ。ただし、その刃物には神経毒が塗られている。証拠に、刃先から紫色に濁った水滴が地面へと落ちる。
「………」
ミレアは睨みつけるように、その男に視線をぶつけた。口は塞がれているため声を発しても意味がないため、鋭い視線で抗議するしかできないのだ。
「ん………?何だその目は」
男達が笑おうが、怒ろうが、彼女にとっては関係のないことだ。動じることなく、ひたすらに睨みつけるミレア。
「くっ………」
近づいてきた男は、彼女の髪の毛を掴んで引っ張り、自分の元へと顔を引き寄せる。
「チッ!!イライラする目をしやがってっ!!!」
「ん゛ん゛っ!!」
それでも、睨み続けたミレア。そんな彼女に怒りが限界に達した男は、ミレアの頬を右手を振り上げて叩く。
バチッ!!という音が倉庫の中に響き、衝撃で彼女の顔は上半身と共に崩れた。赤くなった頬に一筋の涙が光る。
「う……」
それでも男の怒りは収まらない。
すかさず彼女の髪の毛を掴むと、先程と同じ体勢に無理やり身体を戻させる。
「まだそんな目をするか!」
涙目になりながらも、折れない意志を持つかのように、鋭い視線が弱まることはない。その目を見て今度は握りしめた拳を振り上げようとする男。
「おいおい、その辺にしとかないと駄目っすよ」
見ていた他の男、ニヤニヤと笑いながら怒りを漏らす男へと近づく。
「うるせぇ!こいつっ!」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ!!!!」
それでも止まることはない。振り上げた拳は角度を変えて、今度は顔ではなく腹部に向けて振るわれた。
さすがの痛みにミレアは声にならない悲鳴を上げ、地面に身体を預ける。痛みに耐えるように目を閉じて足をバタつかせて
「だいたいお前らのイカれた国のおかげで、俺らは居場所を失ったんだよ」
怒鳴る男に対して、痛みが収まったのか倒れながらも涙溢れる目を向けた。
「おい、なんかいったらどうなんだ?」
男はまたしても髪の毛を掴んで身体を起こさせると、今度は口を塞いでいた布を外した。
「知ら……ない」
流石に答えづらいのか、顔を背けながらミレアはそう答えた。
「なぁ゛んだとっ!!!」
「きゃっ!!!」
再び拳を握りしめる男。また殴られるという恐怖が彼女を襲った。
「おーおー、かわいい声出るじゃねえか」
怒りの感情を通り越して楽しくなってきたのか、男は拳を下ろすと、今度は不気味に笑った。
「結局こいつどうするんですかねぇ?」
後ろから見ていた男がボスと思われる人物に問い掛ける。
「用済みですかい?ボス」
「そいつは餌として使っただけだ。多少壊してもいいが、程々にな」
ボスから許可が出たのか、ミレアの目の前にいる男は彼女に向けて笑い、他の男達がじりじりと集まってきた。
「な、なに?」
「許可が出たんなら、遠慮なく」
「へへへ、やっちゃいますか」
身動きの取れない彼女の周りに集まる男達。
何かを察して逃げようと、足を動かしたり縛られた両手を動かすが逃げることはできない。
「おい、押さえろ」
「いやぁ!!!」
男達の手が彼女の顔や肩に迫って来た。捕まりたくないと身を捩りながら暴れるが、男達の力にはとても敵わない。
「おっと」
唯一自由な両足を使って、目の前にしゃがむ男に向けて蹴りを繰り出す。
「暴れない暴れない」
しかし、それも太ももやふくらはぎを他の男に掴まれてしまい、彼女の身体は完全に抵抗できなくなってしまった。
「いやぁぁぁ!!!!やめっ!!!」
バチバチッと、制服の上着が引っ張られて悲鳴の音を出した。
「落ち着けって、もう痛いことはしねぇぜ」
という声と共に、先ほどの男の人差し指がミレアの頬を撫でて、やがては唇に触れる。
次の瞬間――――。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ〜〜!!!!!!」
彼女は男達の一瞬の隙を突いて、唇に触れた指に噛み付いた。ゴリッという音と共に、歯型が付いた指に血が滲んだ。
「おぃ、てぇめぇぇぇ!!!!!」
「ん゛ん゛っ!!!」
怒りが爆発した男は、彼女の顎を覆うように掴むと、先程まで口を塞いでいた布を取り出して、彼女の口を塞いだ。
そのまま彼女に馬乗りになるようにして、腹部の上に腰を下ろす男。
「残念だなぁ、俺を怒らせなきゃ優しくしてやろってのによ!!!」
「………っ!!!?」
今度は覆い被せるように、彼女の顔を掴んだ男は、そのまま顔を柱に押し付ける。
次に後ろから取り出してきた血の流れる右手。
そこには先程の刃物が握られていた。
「ん゛ん゛ん゛っ!!!!」
顔を掴んだ左手の親指と人差し指を上手く利用して、彼女の左目を無理やり開かせる男。
「ん゛ん゛ん゛〜〜〜!!!!!!」
足を動かそうにも男達に押されらていて動かせない。馬乗りになられて上半身もまともに動かせない。
動かせるのは“眼球”のみだ……。
眼球を動かして、周りの男達に視線を向けると、こちらを見てニヤニヤと笑ってみているだけ。
「ちょっと、痛い目見てもらおうかぁ。あはははっ!!!」
瞼を閉じることのできない、
「ん゛ん゛んっ!!!んーーーー!!!!」
防がれた口から漏れるのは、残念ながら声にならない声だけ。柱に押し付けられた顔は動かせず、じりじりと刃先が迫ってくる。
『やめてやめてやめてやめてやめてやめてっ!!!!』
心の中で叫んだとしても、自身の口から漏れるのは声にはならなず、迫る刃先を止めることはできない。
『やだやだやだっ!!!!』
刃先を見つめると、流れ集まってきた神経毒の紫色の雫が大きくなってきて左右に揺れ始めた。
「ん゛ん゛〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
今にも落ちてきそうな雫が、眼球の前に迫った時――――。
バンッ!!!!という音と共に、倉庫の扉が開く。
間一髪のところで刃先は狙いを変え、落ちそうだった雫は、制服の肩に落ちる。
「なんだてめぇは!!!」
開かれた倉庫の入り口。そこには照明に照らされて輝く剣を握った剣士の姿があった。
「………………ちょうどいいな」
状況を見れば、ミレアを囲む男達が4人。頭と思われる椅子に座った人物が葉巻の煙を漂わせ、残りが立ってただ見ていた。
扉を開けた人物はそんな状況を理解すると、男たちの集団に向けて言った。
「木と戯れるのは飽きたんだ。俺の相手してくれよ」
剣士は、彼女を囲んでいる男達に剣先を向けた――。
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