39.彼女はどこへ?
「ミレアーー?ミレア?」
その放課後、メイラはミレアの部屋に向かって問いかける。しかし何度叩いても大声をぶつけても、その扉が開くことはなかった。
「反応ないの?」
「あ、シーナさん。何回も呼んでいるんだけど」
音に反応して現れたのはシィルミナだ。本来であればアシルの稽古が待っているはずなのだが、彼女も気になっているのだろうか。
「鍵は?」
今にも不安が爆発してしまいそうなメイラに対して、冷静に状況を読むシィルミナ。その問いかけに対してメイラは部屋のドアノブに手を掛けた。
「あ………あいてる………」
恐る恐るではあるが、回して手前に引っ張ると、引っ掛かることはなく部屋へと通じる隙間が出来た。
「入ってみましょ」
「でも……」
メイラはドアノブから手を離して、軽く間ドアの前で不安な表情をシィルミナに向ける。勝手に部屋に入ることに対する罪悪感なのか、もし部屋にいなかったことを考えた不安なのか、それとも……。
「なんかあったらどうするつもりよ。とにかく入るわよ」
腕を組みながら、「開けなさい」と言うように顔をドアに向けて軽く振って、メイラに入るよう促した。
「は、はい」
ゆっくりと開けたからなのか、ギギギギという音を立てながらドアが完全に開き、二人は部屋の中に入る。
「ミレア!?」
ドアの先に広がったのは、広々とした空間だ。机、ベッド……とごく普通に使われている家具達が並べられているが、物が少ないのか他の部屋より広く感じられる。本棚が壁に沿って並んでいるのは彼女らしい。
急いで部屋の真ん中まで移動し、部屋の隅々まで声を振り撒く。しかし反応はなく、ミレアの姿はなかった。
ベッドにも、綺麗に折り畳まれた布団や枕が置いてあるだけで特に姿はない。
「どういうことなの?」
「ミレア……一体どこに……」
部屋の様子を見たシィルミナ。特に荒れていることもなく、普通の生活感があるがミレアの姿だけこつ然と消えている。
「もしかしら……だけど、奴らが関係しているかもしれないわね」
「奴ら?」
不安と疑問が入り混じった表情をメイラはシィルミナに向ける。
「イグヴィスよ」
「まさか。復讐の炎を掲げる者とかっていう……」
「学園が生みだしてしまった産物ね。入学早々に私も狙われたのよ。ミレアさんが狙われる可能性も十分にあるわ」
「そんなことあるわけない」と言うように、メイラは視線を落とす。あくまで“可能性”、その予想が外れてほしいと心のどこかで願っているようにも感じられる。
シィルミナは入学してから早々に狙わている。イグヴィスを装った隣国のスパイ集団という可能性もあるが、どちらにしてもアシル達が入学する前までそいつらが絡んだ事件は所々で起きていた。
しばらく二人の間に沈黙が訪れ、やがてメイラは納得してしまったかのように、「あっ」と顔を上げた。
「最近……様子がおかしかったのも……」
「奴らかもね。それか見せかけか。騒ぎを大きくしてはいけないから、密かに実行する連中だし、手段だって豊富よ。脅されていたりして誘い出されたということもあるわね」
たった1つの手掛かりがあるとすれば、普段一緒に過ごしている仲だからこそわかる“様子の変化”だろう。
『彼女に何かあったとしか思えない』とメイラは攫われた可能性が高いと感じた。
「じゃあ!シーナさんが見たって広場にっ!!!」
「待ちなさいっ!!!」
遂に不安が抑えられなくなってしまったメイラは、部屋から出ようと走り出す。ただ、すぐさまシィルミナがメイラの左手を掴みそれを阻止する。
掴まれた左手によって進むことができないメイラは、シィルミナに顔を向けた。
「いくら私たちでも、それは危険すぎるわ」
「でも!もし奴らに捕まっていたとするなら、今も……」
ミレアが危険かもしれない。そんな感情が止まることなく溢れて、メイラの心と行動を掻き回すのだ。
「そう言って考えなしに行動するのは、奴らの思う壺よ。私も狙われたの。ということは、メイラ、あなたを誘い出すためという可能性もあるのよ?」
逆に冷静さを乱すことなく、メイラを止めるシィルミナ。
「敵がどのくらいの強さで、何人いるのかもわからないところに乗り込むなんて無謀だわ」
「…………っ。どうすれば……」
立ち止まって考えてみればそうだろう。
そもそも何故ミレアを狙ったのか、ミレアに目的があるかもしれないが、仲のいいメイラを目的としている可能性もあり得る。敵が待ち構える所に正面からぶつかるのは危険。
「とりあえず、まだ決まったわけではないわ」
「そうだけど……」
「大丈夫よ。きっと」
シィルミナは優しい声でメイラに言った。彼女の肩に自身の右手を添えながら―――。
『最悪は私が乗り込んで』
“冷静”というのは、不安を隠したいだけなのか、助けたい意志の現れか……。
「……………っ!」
やり取りが繰り広げられている中、目を醒ます1人の女子生徒。
口は布のようなもので封じられ、後ろ手に縛られた手は動かしても抜けることはない。でも、両足は自由なようで、バタつかせることができるほどだ。
両腕を解放することを諦めて、そのまま背中の方へ体重を掛けると背もたれになるような壁を感じる。制服越しでも肌に伝わってくる冷たくゴツゴツした感触は、表面が平に研磨された石の壁なのだろうと彼女は認識する。
「……………」
そして目の前に広がる光景――。
倉庫なのか、天井裏まで吹き抜けた広々とした建物の中で、照明が眩しく主張をしてくる。
その空間に立つ7人ほどの人影は嘲笑うようにこちらを見ている。
真ん中にいる人物。逆光もあってか大柄なシルエットだけで、顔は見えないがこの集団の頭だろう。その男は一言言った。
『お目覚めか』
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