28.魔法という世界へ
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
生成された魔素を前に、アシルは実験道具が並べられた机に拳をぶつける。
ガタンという音とともに、机の上にある道具たちが跳ねる。
本の上に置いてあった、父親の部屋で見つけた水晶細工品が、衝撃で机の上に転がる。
「どうすれば……………どうすればいいんだ!」
俯く彼は、今までの事を頭の中で整理する――。
太陽のエネルギーを凝縮させることによって生まれた微小粒子。衝突反応から生じた魔素。魔素の不安定な性質は全てを取り込もうとしてしまう。
全てを―――。
『魔素は、安定するための何かを求めている?』
魔素は、何かを求めていた。不安定であるからこそ、安定化するための何かを求めていることに違いない。
「…………………………」
そんな魔素に、手を伸ばすことはなく、ぼーっと眺めるだけのアシル。
クロスやキョゾウ機に魔素が入り込んでしまうと道具が使えなくなってしまうため、
行き場所を求めた魔素は……………、
「あっ!…………………………」
ゆっくりと漂っていた魔素は、アシルの目の前を横切り、急になにかに吸い寄せられるように加速し……………。
「ま……………てっ!!!」
机の上に転がった水晶細工に吸い込まれるように消えてゆく。あまりの予想外の出来事に、アシルは止めることが間に合わず、その光景を見ているだけとなってしまった。
だが、それが彼の閉ざされた道を切り開くこととなったのだ。
「うぁっ!!?」
魔素が取り込まれた水晶細工の水晶部分。
パキンッ!!!という高い悲鳴を上げながら、水晶は割れてしまった。
しかし、その寸前にアシルは見ていた。
『少し?……………光った?』
魔素を取り込んだ水晶が光ったのを、アシルは見逃さなかった。
『耐えられなかった?まるで許容を超えたように…………………………』
ただ割れただけではない。光を帯びた水晶は、小刻みに震えて割れてしまったのだ。
それはつまり許容を突破したから耐えきれずに割れてしまったことの暗示であった。
たしかに細工品に埋め込まれている水晶は小さい。だからこそ、魔素を取り込みすぎたと考えられるのではないだろうか。
「水晶に魔素を取り込ませると……何か起きるんじゃないか?」
見えた光。
アシルの魔法研究は、ついに魔力の生成に成功しようとしていた――――。
「これならどうだ?」
次の日のこと。
アシルは稽古を早めに終わりにしてもらい、街中で大きめの水晶をいくつか入手してきたのだ。
細工品とは違って、手に握れるほどの大きさを選んできた。
「こいつに魔素を……」
水晶を机の上に置いて、その近くで魔素を生成する。
すると、魔素は水晶に吸い寄せられて、中へと消えてゆくのだ。取り込まれれば取り込まれるほど、水晶は光を帯びて中心から綺麗な発光をしてみせた。
「綺麗だ…………」
輝く水晶――――。
今回は割れることなく輝きを放っているところを見ると、前回の細工品は許容量が少なかったことがわかる。
「安定??しているのか?」
光輝く中心を見ると、吸い込まれそうなほどに綺麗だが、手に握っても、叩いても、振っても、変化する様子はなかった。
光をも取り込む性質を持っているはずの魔素が、水晶に取り込まれた途端に綺麗な発光を見せていることからすると、安定していることは間違いないだろう。
「握っても何もなしか…………」
水晶を手に握ると、そこから魔力が手に伝わってくる。
なんて、おとぎ話のようなことは起こらなかった。
そんな中で、彼が考えたのは……、
「割ってみたら……」
水晶を割ってみたらどうなるか。
中に封じられた魔素が放たれることは間違いないだろう。
「よし、魔素を作ろう」
水晶を割ろうと考えたときに、多くの場合がハンマーの様な物で叩き割ったり、ぶつけたりを考えるだろう。
しかし、彼は違う考えをした。
『普通に割ってしまったら、魔素は空気中に散って終わりだろう』
という予測をしたのだ。
せっかくの安定したと思われる魔素を、有効に利用できるようにするために、
「フッ!!!!」
彼は魔素を右手に取り込ませ、力が増幅した手で水晶を握ったのだ。
こうすることで、水晶を割ることができ、さらに手の中で割ることで放出された魔素を体内に取り込めるのではないかと。
「………………おお……」
結果として、彼は正解だった―――。
割れた水晶の隙間から放出された魔素、いや魔力は、アシルの右腕に消えてゆく。同時に彼は、何か力のようなものが右腕から全身に伝わっていくことが実感できた。
だが、それでは不十分であることに、彼は気づいていない。
魔素は不安定で、制御することが不可能な状態、魔力の暴走状態であるため、左手に取り込めば左手にのみ即時効果が発揮される。水晶に収まることによって安定化し、魔素は完成形である魔力というものに変化する。左手や右手と何処から取り込んでも全身の血流に乗って伝わり、すべてが強化される。
ただ、今のアシルには魔力を溜め込む領域もなければ、魔力を完全に操ることのできる演算領域も存在しない。
現状溜め込めないため、魔力を取り込んでから一定時間しか使うことはできない。彼が魔力を使いたい時は、今のように魔素で手を強化して水晶を割り、取り込む過程を毎回踏まなければならないのである。
魔法を生み出すことが、魔法を使えるようになるということに繋がるわけではない。
生み出したことに成功しても、彼は人類が未体験の物質・事象に順応しなければならない。もし、順応することが出来なければ、その際は死も免れないだろう……。
「ま……………まさか」
力が増していく感覚―――。
何か、感じたことのないエネルギーが湧き出てくる感覚―――。
「これ……は……」
彼は思う。「これが、これこそが魔法だ」と……。
喜びのあまりに、割れた水晶を拳に握った右腕を天井に向かって突き上げる。
「やってやったぞっ!!!!!」と、叫ぼうとした瞬間だった。
「うぐっ!?……………な……ん…だっ……、目の前がゆが……で……………ぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」
視界が突然歪み、クラクラと頭が回るような……………、すーっと意識が遠くなっていくアシル。力が抜けるように彼の身体は崩れ落ちて、机に当たりながら、床へと倒れてゆく。
ガラスが割れる音、椅子が倒れる音、そしてドンッ!!という鈍い音が、アシルの部屋に響いたのだった……。
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