18.小さきもの
「そうだ……そうだよ……」
アシルは急いで自室へと戻る。
今までの考えになかった発想。大きなきっかけに繋がる可能性のあるヒントを得た彼は、とにかく急ぐのだ。何故なら沈む前にしなければならないから。
「太陽が出ているうちにっ!!!」
今まで行ってきた彼の研究には、水や火についての形状変化や熱エネルギー、さらに生物や鉱物が発光すること、地面に存在するエネルギーの調査といった様々なことを行ってきた。
そんな中で、考えるのことのなかったのは太陽光。太陽は想像を絶するほどの莫大なエネルギーを放っており、それが地球に降り注いでいる。大地はそれに照らされ、植物は太陽光で光合成をする。
「莫大な太陽のエネルギー………これは何かあるんじゃないか?」
太陽に近づけば近づくほどに、温度は上がってゆく。地球には様々な条件が揃ったことによってそのエネルギーが小さく、そして分散して今の環境となっている。
では、それを集めてみたらどうなるのか。
その考えを思いついたアシル。
「太陽の光を集める……どうしよう……」
アシルは自室の研究道具を見る。
そこには基本構成がガラスでできた道具が、多く並んでいる。さらに……、
「鏡か?」
まず彼は、手鏡サイズの小さな鏡をいくつか手に取る。
「鏡の反射で集めてみるか」
夕日は少しずつではあるが、傾いていく。時間をかけてしまっては太陽の光が届かなくなってしまう。
彼は急いで自室を飛び出し、寮の裏手の人気がない場所へと向かう。
鏡は光を反射する。そこでアシルは鏡を3枚ほど、3箇所に少し離して並べて、太陽光をそれぞれの中心に向けて反射させる。
「駄目か……」
三角形の頂点位置になるように並べては見たが、一点に集めることは難しかった。
何よりも“夕日”というまで太陽が傾いているため、何処か1箇所は太陽光を反射しない。
「これだとただ反射させているだけになる………」
ただ反射させて集めるだけだと、自然界で何か変化が起きていてもおかしくない。鏡を使うことや何かに太陽光が反射することなど簡単に起こり得る。ということは、
「ただ反射させてるだけじゃなくて、もっと力を倍増させるような……一点に集中的に……」
ふと、アシルは夕日を見上げる。
すると、その視界の端に眩しい光が映り込んだ。
「あ、ガラスかっ!!!」
それは寮の窓ガラスに太陽光が反射したものであった。ガラスは反射ではなく、太陽光を透過させることができる。
この世界でのキョゾウ機やガラスの使用には、禁忌とも言われる禁止事項が存在した。
それが、“レンズとして使用されるガラスで、太陽を見てはいけない。”というものだ。
その昔、ガラスを使って太陽を拡大して見ようとした研究者が、失明してしまう事故が起きたという。
普段、何気なく見ている太陽光、眩しいと見上げる太陽の力を倍増させてしまう力を持つのがガラス。
アシルは物体を拡大して見るためのガラスを取ってきて、早速それを用いて太陽光を操り始める。
「ん〜、こうか?」
ガラスを取ってくる際に、たまたま近くにあった石も一緒に持ってきていた。石は地面に存在するエネルギーを調査する際に使ったものだ。その意味は、透過させた光をわかりやすくするためだ。
ガラスの角度を少しずつ変えて、うまくその石に光が映るように調整する。
「光を映すことは出来ても……、倍増はしてなさそうな……」
そこで、キョゾウ機でピントを合わせるのと同じように、角度ではなく、太陽・ガラス・石との距離を微調整してみる。
「光が細くなった?」
石とガラスとの距離を少し遠くしたところ、透過される光は細くなっていき、一定を超えるとまた大きくなり今度は大きくなりすぎて消えてしまった。
彼は、その光が一番細くなったところが、キョゾウ機でのピントが合った状態だと考え、その状態を維持して、その様子を観察してみる。
その時であった………。
「何っ!?煙だと」
まるで石が焼けているかのように、煙が発生していた。
「これが太陽エネルギーなのか?」
さらにもう片手でガラスを構え、2つのガラスで一点に集めた太陽の放射エネルギーを重ね合わせる。
「石が燃えているのか?」
放射エネルギーが集中した箇所を見ると、表面が黒く焦げていることに気がつく。
「でも、これでは何も起こらないようだな」
結局、それ以上の変化が起こる様子はなく、彼は思った。
「石を燃やしているだけなのか」
やがて夕日は沈み、太陽光は大地からその姿を消してしまった。
アシルはきっかけを掴んだかに思ったが、手掛かりとなることはなかったと自室へと戻り、落ち込んだ。
「はぁ……、駄目なのか……」
ふと、立て掛けてある木製の剣に視線を向ける。
彼の中ではいつの間にか、「シーナに一撃を入れたい」という感情が芽生えていた。
一日を振り返り、シーナとの稽古のことについて振り返るアシル。
「あっ………」
気づくと、また無意識に剣に手を伸ばしていた。
そのことに気づくと、咄嗟に手を下げて不思議そうにその手を観察する。
「どうかしてるな……全く」
寝るにはまだ早い時間。夕食にも早いため、少し休憩しようと椅子の背もたれに身を任せる。
目の前の机には、先程使ったガラスと鏡、そして一部が焦げた石があった。
「焦げ……ているよな。石を燃やすと黒くなるんだな」
その結果に少し興味を持ったアシルは、キョゾウ機を使用してその表面を観察してみることにしたのだ。
―――――それが、始まりとも知らずに。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
部屋の中に大きな叫び声が響き渡る。
彼がキョゾウ機を覗いた時。
そこには彼の想像とは全く異なった、予想外の光景が広がっていた。
驚いて立ち上がり、少しキョゾウ機から距離を置くような彼らしくない動揺の仕方。
理由は……、
「なっ……なななななんだ!?焦げてるだけじゃないのか?い、生き物?いや、煙が出ていたのに生き物?そんなありえない……でも」
“何か動くものが存在した――――。”彼の見た世界にはひとつではない、いくつかの動く物体の姿がキョゾウ機の小さな世界に映し出されていた。
「そ……そんなわけ……」
彼は恐る恐るキョゾウ機をもう一度覗き込む。
やはり何かが動いていた。
キョゾウ機の超高倍率で見ても小さく見えるその物体は、おそらく微小粒子なのだろう。
しかし、今までこんなものを彼は見たことはなかった。読んだ文献にも、熱エネルギーを調べた際に焦げた物を同じように観察したが、そんなもの見たことはなかった。
「こいつ………何故動いている?表面が焦げているように見えているのはこいつか?いや、表面はたしかに焦げている。でもそれよりもこいつは黒い……」
黒い表面の上でも目立つ、さらに黒色をした微小粒子。その黒色はまるで全てを引き込んでいるようにも思えた。
「調べてみるか」
肉眼で見ることはできない微小粒子。
その後、アシルはその微小粒子について文献やキョゾウ機での観察で調べてみたが、正体は掴めなかった。
稽古の疲労もあり、アシルは研究を次の日続けることにして、夢の世界へと向かった。
しかし………、
「なんだと!?」
次の日――――。
アシルが再びキョゾウ機を覗き込むと、その微小粒子の姿はなかった……。
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