7.反抗勢力
「決闘って………」
彼女の言葉の意味と、剣先を向けられたことに驚いて、アシルは動揺する。
「そのまんまの意味よ?」
「いや………だって」
「見習い、って言い訳するんでしょ?」
自分では言い訳をしたつもりはない。けれど他人からすれば言い訳だ。事実、彼女との差は歴然なのだから。
「言い訳……じゃ」
「言い訳よ。弱いから弱いからって盾を張って自分の弱さから逃げている人なんて腐っていくだけ」
「………………」
何も言い返すことはできなかった。剣術の世界で剣を捨て、何も守ることのできない人間なんて腐っているという考えは、アシル自身わかっていた。わかっているのだが…………。
『俺じゃ、何も変えられない。強くなれっこない』
そういう逃げ道で、自分を押し殺してしまっているアシル。
「でも、私の前で逃げることは許さない」
彼女の眼差しは本気だった。
今にも、向けた剣先がアシルの
アシルはその視線から目を逸らすことができず、息をするのも忘れてしまうような感覚に飲み込まれていく。
「なんでそこまで俺なんかに………」
強烈な眼差しに引き込まれそうなアシルから、咄嗟に出た一言。
見習い、見習いと弱者として扱われて避けられている自分に対して、強く美しいシィルミナがアシルにそこまで感情を向けるのか。
「……………それは、あなたはまだ知らなくていいこと……………頭にきたから、弱いものいじめをしたいだけよ」
問うと、彼女の眼差しと表情は弱まり、アシルから目を逸らした。咄嗟なのか、出てきた一言は『弱いものいじめ』だった。
それを聞くとアシルは笑うようにしてシィルミナに言った。
「性格悪いな」
「あら、お褒めに預かり光栄だわ」
シィルミナも答える。
先程の殺気混じりの空気から一転、不気味な微笑みをした両者は心の中で思う。
『馬鹿ね』
『馬鹿だな』
と――――。
「逃げないわよね」
「そもそも逃げたって無駄だろ?後ろから刺されそうだ」
「それで済むとでも?」
シィルミナは、アシルに向けていた剣をゆっくりと下げて、自分の腰へと収めていく。
カチャンという収まった音を聞いて、アシルは安心をしたのか、肩の力を抜いた。
「はぁ………わかった、逃げないよ。それよりあれはどうするんだ?」
アシルは彼女の背後で気絶している人影を指差す。
「あれ……?あぁ、あいつは騎士軍に突き出すわ。然るべき罰を受けてもらう」
『あえて殺さない』という意味合いの含まれた彼女の言葉。
「悪いことを考える生徒もいるんだな」
「ふふっ、あいつは
シィルミナはこの場になって初めて、アシルに向けて笑顔を見せた。
「なっ………違うのか?」
制服は間違いなくこの学園のもの。それを見れば生徒であると思ってもおかしくはないだろう。ただし、変装だという考え方はアシルの頭の中にはなかった。
「えぇ、あいつはイグヴィスの一員ね」
「イグヴィス?」
聞き慣れない言葉が出てくる。一員ということは組織なのだろう。
「あなた、何も知らないのね。いい?ここは王国でも屈指の学園だけど、全員が入学・卒業できるわけじゃない。力を認められなかったら入学はできないし、入学しても問題を起こせば除名、剣士として認められずに不安のまま卒業なんて人もいるの」
剣術が何よりも優先される。だからこそ、色々な立場の人間が学園に存在し、考え方も数多だ。
全員が全員、真面目というわけではなく、裏では卑劣なことを考えたりする者もいる。
「やつらは、貴族じゃなくても剣術さえ認められれば入れてしまう、この学園の悪い部分が生み出してしまった産物よ」
貴族だからと優越感に浸る者、剣術さえ認められれば何でもいいという者。
そんな連中は時に争い、時に事件を起こすのだ。
奴らは自分達をこう呼ぶ、『我々は復讐の炎を掲げる者、イグヴィスだ』と――――。
「自分の力が認められずに不満を持つ者、除名となって不満を持つ者、一等剣士になれなくて騎士軍へ入れず、他の道を選ぶしかなくなってしまった者。全員が不満を持つわけじゃないけれど、そういう人たちが集まってできた反抗勢力」
「学園側は自分たちの学園の反抗勢力を放置しているのか?」
「いえ、正確にはこの学園に反抗しているわけじゃない。王国自体に反抗しているのよ。狙われるのはこの学園だけじゃないってこと」
王国に存在する剣術学園はここだけではない。他にも存在する。どの学園でも同じように事件は起きてしまう。そうして正当な剣術の道から外れてしまった者たちの中で、国に恨みを持った人たちが集まったのがイグヴィスの一員となるのだ。
「そんな……」
「それだけなら………まだ騎士軍が対処できる。でも、厄介なことに違う奴らも紛れて騒動を起こしているわ」
「違う奴ら?」
王国での反抗勢力。それを巧みに利用して、国に復讐しようと計画する勢力が1つ…………。
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