第72話 伝説の確認


 サバイバル開始から4時間が経過してから、事態は動き出した。


 現在時刻17時24分。撮影開始が13時であり、夕食の時刻が迫ってきたところで、第一群島にて特別ミッションの指導が告知された。


「特別ミッション?」

「説明聞いてませんでしたのケシ子。ポイント以外の景品がもらえるシンボルミッションのことですわよ」

「そういえばそんなものもあった気がする~……あぁ! ごはん貰える奴だ!」


 第四群島にてミッションを終えたばかりのあーしたちのスマホに映し出されたミッションは、特別ミッションと銘打たれた文字通り特別なシンボルミッションだ。


 サバイバル中に三回行われる、食事を掛けた特別なミッションであり、開始一時間前から通知され、全員が参加できる。


 このミッションの勝敗で、今日の夕食は決まるのだ。あーしたちも女子とはいえ食べ盛りのお年頃。できるのならばおいしく食べられるものが配給されることが望ましいが――


『特別ミッション発生!』

『第一群島に全員集合!』

 場所―第一群島

 内容―今日の夕食決定、水泳勝負!

 参加人数―全員


「水泳、か……」

「とりあえず、全員参加だしちゃっちゃと行こっか」


 そういえば水着持参って撮影前に言われてたよな。これってそういう意味だったのか。



 ◇◆


 ミッションの通知から三十分。第四群島からまっすぐ第一群島へとあーしたちは移動した。それからしばらく待ってみれば、続々と第一群島の海岸線へと配信者が集まってくる。


 そうして第一群島の海岸線に24人の配信者たちが集結した。もちろん、白組の鬼弁組も紅組のミルチャンネルの面々も居る。


「みなさーん! あちらの更衣室で水着に着替えてくださーい!」


 おそらくこの特別ミッションは、番組でも目玉のイベントなのだろう。しかし、水着か。一応、薄着だろうとENDがあれば肉体的には頑強になれるのがステータスというモノだが――肌を曝すのには少し抵抗があるんだよな。


 だめだ、深く考えると恥ずかしさで足が止まっちまう!!

 べ、別のことを考えるんだ……!


 ……しかし、よくすぐに集まったもんだなこいつら。第一群島とか東京湾ダンジョンの端も端なのだが――いや、事前説明で第一群島でミッションがあるって報せられてたんだから、それに備えて移動してて当然か。


「よっ、久しぶり」


 更衣室の順番待ちついでに適当なことを考えていると、思いもよらない人間から声がかかった。


「あ、ひーくん」

「久しぶりというには早すぎますよ、カメラマン」

「あ、やば。そうだったそうだった。カメラマン、だったね。でも、今回の撮影の人が別でいるのに、カメラマンって言うのも不思議な気分」

「別に俺はスパルタクスでもいいぞ」

「それ、気に入っていますの……?」


 声をかけて来たのは死神――こと虚居非佐木だ。思えば、ここは第一群島の中に在るスタート地点付近の浜辺。ダンジョン内唯一の安全地帯だから、モンスターに襲われる心配もないわけだ。


 流石に更衣室は、絶対にモンスターに襲われないところを選んだか。まあおかげで、シンボルミッションの設営を護衛する仕事から死神は離れることができて、こうした撮影の合間に話しかけてくるだけの時間が取れたようだ。


「調子はどうだ?」

「んーまあ大丈夫って感じ」

「いたって平穏ですわね。地道にポイントを稼いで、地道に出番を作る……いつも通りですわ」

「一応、こっちも裏方として見てる分には見ているが、問題はなさそうだったし頑張れよ」

「うん、応援ありがと」

「ふふん、見事な活躍を期待していてくださいまし」


 死神は二人と話した後に、遅れて私の方にも目を向けた。


「大丈夫か?」

「……問題ない」

「ま、そうだよな。そっちの心配はしてなかった」

「はぁ!? お前、あーしだって女の子だぞおい! 心配ぐらいしろやコラァ!!」


 どうしてこう、こいつの前だと素の自分が出せるのか。わからない。わからないけど――

 

「そんぐらいの声が出るなら大丈夫だ」

「そうかよ」

「……頑張れよ、ショーコ」

「おうよ」


 こいつの傍は、なんか安心できる。でも、頼り続けることはできない。死神にばかり迷惑をかけ続けることなんてできない。


「っと、ショーコちゃん! 更衣室空いたから行こー!」

「あ、は、はい……」


 任せられたんだ。こいつに、初めて。


 あの時から。ここまで来るのに、どれだけかかったことか。期待されて、信用されて、だからその期待に信用に応えて、あーしは――


「……期待してろよ、死神」

「ああ、待ってるさ」


 あーしは、あいつの隣に立つんだ。ずっとずっと、見えない程遠くにいたはずのあいつの背中が見えたから。


 期待していると、その手を差し伸べてくれたのだから。


 立ち止まってるわけには、いかないんだ――


「ショーコちゃーん!」

「す、すいません! 今行きます!」


 だから、少しでも。


 先に進むんだ。

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