第71話 伝説の日差し


 クイズの結果は紅組の勝利で終わった。

 クイズの形式は早押しではなく、ホワイトボードを使った一斉回答形式で、圧倒的な実力を見せたミルチャンネルのキタが10問中9問を正解したことによって、悠々と一位の座についた。


 後ろに続いたのは白組のチーム『アストロメア』の参謀役『ウラノ』の7問正解。三位は同率でレオクラウドとアストロメアの『アルイーテ』の六問正解だった。


 結果、このミッションによって紅組は13ポイント、白組は8ポイント獲得した。


 大きなリード、というわけではないが、それでも確実な差を作ったことが重要だ。


 そして、レースタイプミッションの方も、どうやら紅組が勝ったらしい。驚くべきことに15ポイントものポイントが紅組に入っている。


 これは、ミミやルナさんたちとは別行動をとっていたミルチャンネルの二人が同時に第二群島にたどり着き、1位2位を独占することで手にした結果と言えるだろう。


 ちなみにだが、既に第二群島にたどり着いていたらしい鬼弁組はポイント配布の対象外だとか。おそらくはダンジョンボスのいる第七群島を目指しての強行軍なのだろうが、アンラッキーな奴らだ。


 撮影開始から1時間。次なるミッションが告知される中、あーしは移動しながらポイントの推移を見た。


 紅組 55ポイント

 白組 34ポイント


 早くもポイントの差がついた結果だが、この差の原因はレースシンボルの両方で好成績を収めたミルチャンネルの影響だ。


 実際、それぞれのポイントからミッションで獲得したポイントを引くと――


 紅組 27ポイント(-28ポイント)

 白組 25ポイント(-9ポイント)


 と、大きな差は付いていない。

 そしてこれからは、七つある島々の各地でミッションが発生することになるだろう。そうなれば、上位入賞が入り乱れることになる。いくらミルチャンネルが有利な下地があるとはいえ、白組に居る配信者も実力者であることに変わりなく、またミッションの出現位置によってはそもそもミルチャンネルが関われない可能性だって出てくる。


 どちらが勝つかわからない。バラエティーに重要な煽りだ。


「うーん、次のシンボルは第三群島か……」

「なら、モンスターの討伐数のレースミッションを優先するべきでしょうね」

「で、でも、立地的にあ、あーしたちも第三群島に向かった方がいい……と思います……」

「だね。第三か第四群島ならどの島にシンボルミッションが出てもすぐに行けるからね」

「ダンジョン的には広いですが、島だけで見れば小規模なダンジョンなのが救いですわ」


 次に出たシンボルは第三群島の方に在り、先ほどのレースで第二群島に急いだ連中が殺到するのは目に見えて明らかだ。


 だからこそあーしたちは、紅白対抗のモンスター討伐レースのミッションに参加することにした。もちろん、このミッションが出された時点で強制参加であるのだが、気の持ちようというモノだ。


 目標討伐数は大小問わず50体。ミッション開始時からどちらのチームの総討伐数が目標に至ることができるかというレースミッションだ。


 群島の草木をかき分けながら、素早くモンスターの発見を目指して突き進む。中途半端に森となった島の自然が足を阻むが、ステータスによって補強された身体能力を持つ冒険者たちには、その程度のギミックは多少の障害でしかない。


 問題があるとすれば――


「あっつぅ……」

「ケシ子。水分補給をしっかりと。熱中症になればロスは免れませんよ」


 このダンジョンのメインギミック『日差し』が問題だった。

 燦燦と照り付ける夏の日差しを再現したこの太陽光は、金属部品を高温にし、氷系の魔法などを弱体化するなどの効果があるが、中でも最も気を付けるべきは、この環境下で引き起こされる状態異常『熱中症』にある。


 このダンジョンだけではないが、こういった日差しの強いダンジョン固有の特殊な状態異常『熱中症』は、水分を取らずに行動をしていることで引き起こされてしまう状態異常だ。


 発症してしまえばステータスへのデバフは免れることができず、めまいから始まって悪化すればそのまま死んで第一層に戻されてしまうほど。


 水分を補給する、日差しを避けて日陰で休憩する、或いは頭などを冷やすことで予防することができ、発症しても同様の方法で治療することができるが――発症までのタイムリミットがわかりにくいため、細心の注意を払って水分補給に努めなければならない。


 特に、激しく動けば動くほどに発症リスクが高まるとも聞くため、モンスターの討伐や移動などに躍起になれば、自然と発症リスクが高くなってしまうのだ。


 実際、このダンジョンに入ってから油断したあーしは一回発症したが――マジで気分は地獄だった。

 あんな状態で戦えとかくそくらえだ。


 だからこそ、下手に無理をすることはできない。


「うーん……ちょっと休憩する?」

「無理はしないほうがいいですわね。先ほどから、私たちは動き続けてましたからね」


 第二群島にたどり着いてから十分ほどモンスターを探して歩いたあーしたちだが、いったん休憩を挟むことにした。


 レースミッション開始から討伐したモンスターの数は4体。運に恵まれずモンスターにあまり出会うことができなかったものの、それは他のチームも同様なのか、ミッション開始から30分経とうとしているというのに未だ目標討伐数の50体に紅白どちらも到達していない。


 これ、死神の奴が張り切りすぎてダンジョンのモンスターの総数が少なくなってんじゃねぇか……? そういやあいつ、クイズの時に見かけたが、なんか十体ぐらいに囲まれてたくせに、倒しもせずに走り回ってたしな。


 これ以上倒すと番組の進行に悪影響がある、とか……。


 未だモンスターの出現メカニズムについて不明な点が多いが、少なくとも倒せば少なくなることだけは間違いない以上、倒しすぎてモンスターとの遭遇率が低くなってしまう可能性は低くはない。


 まあ、モンスターで溢れているよりかはマシである以上は、ある程度間引いてくれた死神には感謝するべきなのか、それともこれが正規の遭遇率なのか。


「あ、ショーコちゃんもお水どうぞ~」

「あ、ああありがとうございます……」


 いや、あーしにとってはそんなことどうでもよくて、そんなことよりもこの引っ込み思案なあがり症気質をどうするべきかを考えた方がいいか。


 こいつらと一緒になって活動し始めて丸々二週間たつってのに、面と向かって話そうとしても全然会話できねぇ自分が情けない。

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