第67話 伝説の話し合い
「それじゃあ本番始まりまーす!」
「はーい!」
オープニング撮影後の最終ミーティングが終わり、ようやく本番が始まる。ダンジョンの第一層となる浜辺をスタート地点にして、派手な横断幕が設置されていた。
人気が無いダンジョンだとは聞いていたが、こんなもんを設置する余裕まである程とはな。
ともかく――
「スタート!」
スタッフのスターターピストルの音によって、一泊二日のサバイバルは始まったのだった。
「よーし、じゃあみんな集合!」
始まってすぐに集合の合図を掛けたのは、他でもないミミ。もちろん、これに従わない理由もないため、紅組のメンバーは全員ミミの下に集まった。
それとは別に、白組はスタート地点から離れていく。とはいえ、事前に取り決めでもしていたのだろうか、移動しつつも会話をしているところから、お互いに相手の作戦を聞かない様に気を使った結果なのだろう。
ともかくとして、総勢12人の配信者たちが一堂に会し、今回のサバイバルについての戦略を話し合う。
今回のサバイバルで最も重要になってくるのは、睡眠の問題だろう。今回の企画は夜通し行われるタイプの企画であり、夜の時間の活動も撮影の内容に含まれるからだ。
というか、夜の時間だろうと容赦なくモンスターが襲ってくるため、睡魔に首筋を撫でられようが、油断なんてできない。
しかし、如何にフレッシュな高校生といえど、睡眠不足で二日目を迎えることはできないのもまた事実。そこで紅組リーダーミミによって提案されたのが、ローテーションで見張りを立てるというモノだった。
「夜になったら、三人のグループを四つ作ろうよ。もちろん、いつものチームのメンバーとは別々でさ」
彼女が提案したのは、一グループ三人のグループを四つ作り、二時間ごとに見張りを立てる。
ちなみに普通のダンジョンでいうモンスターのいない安全地帯こと第一層は利用できないが、テントなどは支給されるため、気分はまるでキャンプといったところだな。
そんなこともあってか、和気藹々とした雰囲気の中でミミの提案した見張りローテーションは採用された。
それから、サバイバルでのポイントの稼ぎ方についてだが――
「やっぱり、モンスターを倒してもポイントを得られる以上は、慣れた人と一緒に行動した方がいいと思うんだよね」
「確かに、ミミさんたちと比べると私たちは足手まといですしね」
「いやいやいや! そう言うわけじゃないんだけど……」
「でも強いチームがたくさんポイントを稼げるようにするってのは同意だ」
それからポイント稼ぎは、慣れた連携ができる従来の配信チームのメンバーで行動した方がいいという話がミミの口から出されて、皮肉気に一人の女の人が同意した。
彼女は『ダンジョン工房チャンネル』のハバキ。あーしの一つ上。その後、追随するようにハバキの言葉に同意したのが、『桜木高校ダンジョン部』のアグニという男子。あーしと同い年。
どちらも10万人以上のチャンネル登録者を誇る有名ダンジョン配信者。ただ、両者ともに戦闘力でいえばミルチャンネルに一歩も二歩も及ばない実力でしかなく、だからこそ二人はモンスター討伐によるポイントを稼ぐためには、強い人は強い人と組むべきだ、というミミの言葉を後押しした。
「あ、私たちも異論ありません!」
「そう、でもでも、ミッションのことがあるからミルチャンネルは二人と三人で二手に分かれようと思うんだよね」
「まあ、その方が賢明ですね」
「だな」
モンスターを討伐するにも、やはりバラけた方が効率がいい。そうした理由から、一それぞれのチームで手分けしてモンスター討伐のポイントを稼ぐ方針が定まった。
「とりあえず、ミッションが通知されたら近場の人で集合ね。遠いと思ったら、ミッション諦めてもいいから」
そう言いながら、ミミがスマホを見せる。
というのも、サバイバル中に発生したミッションは、基本的に各自のスマホへと通知されるからだ。
ミッションは個々人で参加することができるサバイバル中のミニゲームのようなもので、勝つことによるポイントが獲得でき、獲得したポイントは勝利者のチームに与えられる。
ミッションの形式は二種類に分けられ、特定の地点で開催されるシンボルタイプと、特定の条件達成を早い者勝ちで求められるレースタイプの二種類だ。
どちらも結果の順位でポイントが与えられることになっている。
そして、紅白どちらかの総合ポイントが高い方が優勝というわけだ。
ちなみに、モンスター討伐とミッションのポイントの目安は大体こんな感じ。
『モンスター討伐』
・ダンジョン内の平均的なモンスター(1ポイント)
・ダンジョン内の強力なモンスター(3ポイント)
・ダンジョンボス(20ポイント)
『ミッション達成』
・シンボルタイプ(一位10ポイント 二位5ポイント 三位3ポイント)
・レースタイプ(一位10ポイント 二位5ポイント 三位1ポイント)
ダンジョンボスが比較的高い得点を稼げるようにも見えるが、実際は罠。特別ルールとして、死んでジョブクリスタルのある広場に戻ってしまった場合、一時間の待機をしなければならないことになっている。
今回のサバイバルは全日程を通しても24時間もないため、下手にダンジョンボスと戦って死んでしまえば、大幅なロスとなるだろう。
それに、配信者としてはちまちまとモンスターを討伐し続けるだけではだめだ。テレビの見どころは、やはりミッションの達成にあり、そこにどれだけ関われるかが、自分たちへの注目度を上げる起点となる。
「それじゃあみんな頑張ってねー!」
そうして私が現状を把握している間に、大まかな作戦会議が終わり、四チームそれぞれがモンスター討伐のポイントを稼ぐために行動を開始しまう。
「……あーしにどこまでできるかな」
急いで装備入れの中に読んでいたモンスター討伐のポイントリストを突っ込んだあーしは、遅れた足取りを取り戻すように小走りで、あーしを待つケシ子たちの元へと向かうのだった。
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