第66話 伝説の撮影


「こんにちはー! ミルチャンネルのミミです! 紅組として頑張ります!」

「白組の三月誠也だぜ! 白組を率いる男として、恥じない活躍を期待してくれよな!」


 各組のリーダーによる選手宣誓(のような自己紹介)を冷めた目で見ていたあーしは、熱中症対策に冷やした頭で特番のオープニングの撮影をしていた。


 あーしというのは、他でもない引きこもりの白保間未若沙――いや、ここではショーコと名乗った方がいいか。ともかく、あーしはあーしに求められた仕事をやるだけだが――


「どもー! 彩雲プランテーションのケシ子です!」

「レオクラウドですわ」

「しっ……しょ、ショーコ……です……」


 ああもう! カメラとか人前とかあーしはすごい苦手なんだよもおおおおおおおおお!!!!!


 ッチ、撮影終わったら死神の奴をサンドバックにして憂さ晴らししてやる!


「ふぅー、緊張したー!」

「とりあえず、ショーコも問題なく挨拶できて一安心、といったところですわね」

「う、うるさい……」

「ま、こうして意見ができるようになっただけ、成長とみることもできますが、本当に彼女は必要なのでしょうか?」

「ちょっと、レオちゃん! 流石にそれは――」

「い、いい、です……ケシ子……さん……事実、ですから……」


 ……ああ、もう!


 なんであーしはあいつの前以外だとこうなっちまうんだよ!


「……いや、理由なんてわかりきってる、か」

「何か言った?」

「い、いえ、なんでもありません……」

「そ、そうなんだ」


 はっきり言って、あーしの存在は彩雲プランテーションというグループを壊しかねない劇毒だ。


 見ての通り、会話すらもままならないほどのあがり症……。ただでさえ、入ったばかりで連携もまともに取れないというのに、こんな調子じゃあ活躍することなんてできない。


 ただ……あいつに任された以上は、やり遂げないといけない。


「それじゃあ、改めてルールを確認するよ!」


 あーしが一人覚悟を決めている間にも、撮影はどんどんと進んでいく。

 音頭を取るのは、紅組のリーダー南向麦……もといミミ。今回の撮影で、死神が最も警戒している人物であり、そしてここにあーしが招集された理由であり、彩雲プランテーションがこの撮影に参加した理由。


 大手配信サイトMeTubeチャンネル登録者数46万人を超える、超人気学生ダンジョン配信者。


 これからの二日間。あーしたち彩雲プランテーションは、


 まあ、それはともかくとして。

 オープニングの撮影が終わってから、本番が始まる前の最終ミーティングの中で、段取りを確認するスタッフの声を聞き流しつつ、私は改めて今回の番組の大まかな流れが書かれた紙に目を通した。


 番組名【今話題の学生配信者たち大集合。夏の無人島ダンジョンサバイバル!!】

 企画内容を大まかに要約すれば、東京湾ダンジョンを舞台にした一泊二日のサバイバル企画だ。


 紅組と白組に分かれて得点を競い合う形式であり、ポイントの獲得は主にモンスターの討伐とミッションのクリアの二種類に分けられる。


 モンスターの討伐は事前に配られている配点リストを参考にして、この東京湾ダンジョンに出現するモンスターを討伐することでポイントが獲得でき、そしてミッションは、企画開始から一定時間ごと出現するミッションを達成することでポイントを獲得することができる。

 

 最終的にはこのポイントの大小で紅白の勝敗を決める、といった内容だ。


 参加メンバーは、紅白それぞれに12名ずつ。

 それぞれにそこそこ有名な学生ダンジョン配信グループを四つずつ配置した形だ。


 中でもミルチャンネルの知名度と実力は頭一つ抜けた形であるが……違和感が無いように調整されているな。


 ミルチャンネルの実力が10だとすれば、他の紅組の実力は4~7ぐらい。ちなみにあーしたち彩雲プランテーションはぶっちぎりの最下位の4だ。


 なお、この実力は戦闘力だけではなく、テレビ映りを加味した配信者としての実力である。


 そして相手となる白組のリーダー『鬼弁組きべんぐみ』は9ほど。ただしメンバーは3人。メンバーが5人であるミルチャンネルと比べれば、手数も手札も大きく劣ることは間違いなし。そしてそれをカバーできる実力者は白組にはいない。


 巧妙に配役されているが……こうして各グループの実力を紐解いていけば、この番組がミルチャンネルの独壇場であることは火を見るよりも明らかだな。


 そして、企画内容はミルチャンネルの最高再生数を記録したダンジョンサバイバル企画。奴らの得意分野――どう考えても、裏でミルチャンネルを売り出そうとする金の匂いが感じるなぁ……。


 ただ、そこまで露骨な裏交渉はしてないな。そりゃそうだ、今回の出演者は、配信者と言えど全員が学生。裏で賄賂を渡して、ミルチャンネルに活躍の場を明け渡すにしても、その動きが露骨すぎては取れ高としては使えない。


 だからこそ、こうしてミルチャンネルが正面からぶつかれば勝てる相手ばかりを用意して、その活躍を引き立てようってことか。


 んで、あいつはその活躍の場を、彩雲プランテーションが横から掻っ攫おうと画策したわけだ。


 確かに、ミルチャンネルの活躍の場を彩雲プランテーションが横取りすることができれば、自然と注目を集めることができる。


 失敗すれば大きく後退するかもしれないが、成功すれば一気にチャンネル登録者を伸ばすことができる挑戦だな。


 チャンネル登録者は配信者にとって戦闘力と同等の意味を持つ。テレビ――それもゴールデンタイムで使われるかもしれない夏特番ともなれば、大きくその数字を伸ばすこともできるだろう。


 まったく、あの男は彩雲プランテーションを有名にして何を企んでいるんだか。借金の話は聞いちゃいるが……あーしには、全然返済計画の全貌が見えやしねぇ。


 ともかく……


「そう、上手くいきそうにないけどな」


 死神が何をなすにしても、まずはここで勝たなければならない。

 その上で、あーしたちが超えるべき関門は多くある。


 圧倒的に配信者として実力不足の中、自分たちのキャラクターを不快感なくアピールする。

 初見も同様のダンジョンで、モンスターを討伐するだけではなく、ミッションに多く参加することで多くの見せ場を作る。

 それらを、21人の同業他社を押しのけて行わなければならない。


 箇条書きにするだけでも、なかなかな内容だ。


 それに何よりも――


 


「ったく、無理難題を押し付けられたもんだな」


 どこまでも広がる青空を見上げながら、あーしをここに連れて来た死神にあーしは毒づいた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る