第63話 伝説の切り替え
「それじゃあ今日はここまでかな。みんなお疲れ~!」
【乙】
【乙~!】
【お疲れ様~】
一時間半ほどの配信時間を経て、ケシ子の締めの挨拶によって配信が締めくくられる。それから、俺がエンドロールを流しつつ適当なところで配信を切って、めでたく本日の配信は終了だ。
「むぅ~……つ、疲れたぁ~!」
「色々ありましたけれど、一先ずは何とかなりそうですわね」
配信が終わったことで、ケシ子は芥へと、レオクラウドは獅子雲へと切り替わる。
もちろん、性格が変わったとか容姿が変わったとかそう言うわけではなく、気分的な何かしか変わらない。
ただし、一人違う人間がいたようだが。
「……」
無言で俺を睨みつけるのは、ショーコこと白保間未若沙。それはもう鬼の形相で俺を睨みつけており、その顔は死にそうなほど真っ赤に染まっている。
まあ、引きこもりだったあいつを引っ張ってこんな場に出したのは俺だしな。ここは甘んじて受け入れてやるとしよう。
「え、えっと未若沙ちゃん?」
「………………」
未若沙と交友でも深めようとしたのか話しかける芥。しかし、そんな芥の気遣いなど知ったこっちゃない(多分気づいていない)と、未若沙はこちらを睨みつけたままに近づいてきて――
「ふんっ!!」
「未若沙ちゃん!?」
俺の腹に拳を見舞った。
しかし、現在未若沙は低レベルのクラス3ジョブ。しかもSTRに高いマイナス補正のついた後衛ジョブである。その程度の拳で俺のDEFを貫通できるはずもなく――
「痛ぇってー!! 相変わらずお前は後衛ジョブのくせに硬すぎなんだよ!! いい加減にしろ!!」
――逆に未若沙の拳を傷める結果となっしまった。
「まあ自分もずるい固有スキルだとは思ってる」
「だったらそれあーしにくれよぉ! もうそうなったら、ダンジョン攻略報酬で荒稼ぎしてやるってのに!!」
「み、未若沙ちゃん……?」
「あぁ……!? あ……」
人の前に立つ羞恥心よりも、俺への文句が勝った様子の未若沙は、いつもの調子で俺に詰め寄って来た。しかし、そんないつもの未若沙を知らない芥は、信じられないものを見るように未若沙の名前を呼んだ。
その事実に気づいたのだろう未若沙は、芥と目を合わせて数秒固まってから――
「ひゃ、ひゃ、ぴぃいいいい!!!」
なんとも言えない奇声を上げて、俺の後ろに隠れてしまった。
「見方が変わりますわねー、彼女」
「ま、未若沙はこんな奴だが、悪い奴じゃないからよろしくしてやってくれ。慣れればお前らにもこんな感じの態度になると思うから、その時までの辛抱だ」
「え、それっていいこと……なのかな……?」
まあ、確かに慣れたら慣れたで暴力暴言当たり前みたいな態度の人間は歓迎し辛いだろうけど、悪い奴ではないことだけは信じてほしい。本当に。
「よ、よろひく……お、おねがいしまひゅ……」
今の今までずっと引きこもっていた未若沙が、今回の件には前向きに協力してくれているわけだし、同年代の友人を増やす機会を経て未若沙も変わるかもしれない。
そんなか細い希望を乗せて、新メンバーを交えた配信は幕を閉じたのであった。
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