第50話 伝説の暴走現象
ダンジョン一層。
それは、ある種の境界線だ。
ここから下は危険地帯であり、覚悟のある人間だけが先に進めという境界線なのだ。
逆説的に言えば、この境界線を踏み越えない限り安全が確保されているということでもある。
ただし、この話には例外があった。
それこそが
ダンジョンが出現した三十年前は、まだ
それから、世界的な調査によって精力的に探索が行われているダンジョンでは、
ただし、完全に0になったわけではない。30年経った今でもダンジョンの数は増加しており、手つかずで未発見のまま放置された結果、
ただ――
「おい、なんでモンスターがこんなところに居るんだよ!」
彩雲ダンジョンこと、難易度Bクラスダンジョンである〈極彩街道〉はそれら
極彩街道は都市部に近い住宅街に設置されたダンジョンであり、自然と学生を中心とした利用者が多く訪れることになる。
利用者が多いということは、ダンジョンのモンスターが多く討伐されるということだ。だというのに、なぜモンスターがダンジョンの外に?
いや、そんなことよりも――
「皆様、何を呆けているつもりですの!? 〈武器召喚〉〈雷光〉!!」
住宅地に現れたモンスターに対して、驚きのあまり呆けていた三人を置いて、獅子雲がいち早く己の相棒である細剣を抜いた。
ダンジョンの外であろうと、スキルは問題なく使用することができる。それを使って人や建造物などを傷つけることができないだけで、モンスターに対しては有効だ。
人間に対するスキルの効果こそ知らなかった獅子雲であったが、この時ばかりは迅速に動き、街中に現れた七色孔雀へと〈雷光〉を放った。
「モンスターが街中に居るということは、これは
「――! そ、そうだ。獅子雲さんの言う通りだ。〈武器召喚〉!」
獅子雲が警告した通り、どんな理由があろうとモンスターが外に出た時点で
そして、暴走現象によって引き起こされる悲劇というモノを、獅子雲は誰よりもよく知っていた。
「廉隅芥! あなたは逃げても構いません……なんたって、ここはダンジョンの外。命の保証はできかねますわ」
暴走現象は人を殺す災害だ。本来であれば、死を帳消しにするダンジョンのシステムも、こと地上となっては機能しない。
だからこそ、獅子雲は足手まといになりかねない芥に退避を促した。ただ――
「……ごめん、なずなちゃん。その話聞けないかも」
芥には、微塵もここから逃げるつもりなどなかった。
「暴走現象ってことは、人が死んじゃうってことだよね。もちろん、Bクラスのモンスターに襲い掛かられたら、冒険者の私もただじゃすまないかもしれないけど――」
そう言いながら、彼女は辺りを見渡した。
ここは彩雲町の一角。その住宅街の奥地にある場所だ。それはつまり、ここがモンスターであふれかえれば、周辺に住む人たちはなすすべもなく殺されてしまう。
だって、誰しもがダンジョンに潜っているわけではないから――
(私が冒険者になった時のことが懐かしい。だからこそ、私はここで立ち上がらなくちゃいけないんだ)
懐かしい初配信の記憶。近場だからと騙されて連れてこられた極彩街道で、ステータスの恩恵にあやかりながらも、何もさせてもらえずにモンスターに蹂躙され続けた苦い記憶。
あれがもし、
たとえ自分がBクラスのモンスターを何体と立て続けに相手できないのだとしても、出会い頭に辞世の句すらも説けない人がいる手前、逃げ出すわけにはいかないだろう。
そう、芥は思ったのだ。
「――っ、十六夜! 急ぎで藍井路たちの連絡と、それと二人の援護を頼んだ!」
「うん、わかった!」
彼女たちの実力を配信を通してよく知っていた愛代は、せめて彼女たちが大けがを負わない様にと、二人の援護を秋月に頼んだ。
「僕は単独で動く。役割分担だ」
「……気を付けてね」
「新入部員が入ってくるまで、死ねるわけがないよ」
そう言って両刀の短剣を構える愛代の背後には、首を斬り落とされた七色孔雀が崩れ落ちていた。
愛代の恐ろしく速い行動に獅子雲は目を瞬かせ、そして単独行動を申し出た愛代が、その方が都合がいいのだと瞬間的に覚った。
そして――
「いい! 第一に自分たちの安全よ! 誰かを助けるために戦うのはいいけれど、それで死んじゃったら承知しませんわ!」
「うん……無理をしない程度に、私頑張るよ!」
獅子雲と芥の覚悟が決まったその時、遠くの方から悲鳴が聞こえて来た。
悲劇は、まだ始まったばっかりだ。
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