第47話 伝説のマーケティング
―kieeeeeee!!!
極彩街道第4層。相も変わらず生垣の中に道が続くダンジョンの中に、甲高い叫声がこだまする。
その声の主は極彩色に彩られた孔雀こと、七色孔雀。まったくもって安直が過ぎるネーミングであるが、その口から
そんな孔雀の声を聞いてトラウマが刺激されたのだろうケシ子が、勢いよくその場から飛びのいて難を逃れたところで戦いは始まった。
「ぎりっぎり! あっぶなーい!」
「ケシ子! 魔法で援護をお願いしますわ!」
「あいあいさ!
術槌士ともなれば、補助的な魔法だけではなく攻撃魔法だって活用する。新たなる力を手に入れたケシ子が空に指を差せば、術槌士となって潤沢となったMPからなる魔法が発動する。
その名も初級風魔法〈ウィンドウカッター〉。無論、土魔法にも攻撃手段はあるものの、土に比べて速度に特化した〈ウィンドウカッター〉を選択したのはナイス判断だ。
なにせ、これは本命の攻撃ではなく、あくまでも牽制。七色孔雀の意識を少しでも逸らせることができれば十分。
なぜなら――
「〈雷光〉! 」
〈ウィンドウカッター〉に七色孔雀が気を取られたその隙に、間合いを詰めるのはレオクラウド。ダメ押しとばかりに〈雷光〉を迸らせて七色孔雀に先制攻撃を仕掛けた上で、麻痺して数秒遅れたその動きに対してスキルを叩きこんでいく――
「〈ピンポイントアタック〉!!」
弱点を穿った時に高い威力を発揮するスキル〈ピンポイントアタック〉は、細剣士固有のジョブスキルだ。弱点を狙って攻撃することで、高い一撃をお見舞いする。
「〈三連突き〉!」
続く追い足で繰り出されるのは〈三連突き〉。こちらは槍士系統や拳士系統などの突きを多用するジョブによくみられるジョブスキルで、素早い三連撃を相手にお見舞いする。
スキルの補正によって普通に突くよりも素早く攻撃ができ、今のように追撃を仕掛ける際や、とっさの隙をつくのに便利なスキルである。
ただし、このダンジョンの難易度はBクラス。しかも、強力なモンスターが現れるモンスター型のダンジョンだ。
レオクラウドのスキルを利用した巧みな連撃を耐えきった七色孔雀が、次は自分の番だとばかりに鳩胸のようにのど袋を膨らませて、音波攻撃を繰り出した――
「
しかし、その攻撃は突然現れた土壁に足元を掬われ、明後日の方向に飛んで行ってしまう。
他でもない、ケシ子が発動した土魔法の〈土壁〉の応用である。
「ラスト! 〈アースクラッシュ〉!!」
「〈スパイラルスピア〉!!」
そして、体勢を崩した七色孔雀に対して振るわれるのは、お互いに最大威力を誇る必殺技系のスキル〈アースクラッシュ〉と〈スパイラルスピア〉である。
これには流石の七色孔雀もひとたまりもない。なにせ、七色孔雀のステータスは攻撃特化。防御面にはそこまで秀でていないのだ。
そうして、連携のもと葬り去れらた七色孔雀のドロップアイテムを回収したところで、ふぅとケシ子が一息ついた。
「つーかーれーたー!!」
バッと両腕を上げて伸びをした後、ぐでーっと地面に座り込むケシ子。流石にだらしないとは思いつつも、一応周囲の警戒をしているので不問としよう。
配信開始から一時間。モンスター型のダンジョンに相応しい連戦続きて疲弊するのも仕方ない。とはいえ、今のところ一度も一層に帰還してないのだから大したものだ。
……ああ、そうだ。こういう時にちょうどいいな。
『よし来た二人とも差し入れだ』
「ねぇ、レオちゃん。なんかカメラマンさんのテンションおかしくない?」
「ですわね。ちょっと気持ち悪いですわー……」
『おいおいひどい扱いだな……』
【まあ今までのテンションを考えれば】
【スパルタクスパイセンだし……】
【こういう時って何企んでるかわからなくて怖いよね】
『コメントもひどい扱いだな』
声を入れて差し入れがあること言ってみれば、なんて反応を返しやがるこいつら。ともかく、俺は自分がカメラに映らない様にレオクラウドに来てもらい、差し入れを渡した。
「ジュースですの?」
「ブラストエナジー……あ、最近流行りのエナドリだね!」
「ほーん、ですわ……どれどれ」
カシュッと炭酸の抜ける音共にブラストエナジーを開けたレオクラウドは、何のためらいもなくブラストエナジーに口を付ける。体に悪いものではないので当たり前なのだが。
「……何とも言えない味ですわー。ラムネですわ?」
「ラムネ瓶って私飲んだことないんだよね。でもソーダに近い感じて結構さっぱりしてるねー」
【これは……ステマ!?】
【いやダイマだろこれ】
この際、ステマかダイマかは措いておくとして、マーケティングであることは確かだ。
ブラストエナジー。大手企業が開発したエナジードリンクであり、『魂を爆裂させろ』をキャッチコピーに開発された『アドベントフロンティア社』の製品である。
もちろん、アドベントフロンティア社とは俺たち彩雲プランテーションのスポンサーであり、叢雁が代表を務める会社なのだ。
いうなれば、この配信はご覧の提供でお送りいたしていますというわけだ。
その代わりとして、俺たちはスポンサーの商品をそれとなく使い、マーケティングをしていく。実際配信機材の半分以上は彼らに融通してもらったものであるし、お返しとして彼らの商品を紹介するわけだ。
『調子はどうだ二人とも』
「む! むむむ……なんか元気な気がする!」
「疲れが取れた、というよりも意識が明瞭になった感じですわね」
【さすがはパイセンマーケティングを忘れない】
【これ効果あるのか……? とりあえず投げ銭しとこ〈1000円〉】
「あー、スパちゃありがとう! 効果はすごいよ! もう目バキバキ!」
「なんか体によくなさそうですわ……」
とにもかくにも、マーケティングを挟んでからも配信は続き、極彩街道の攻略は進んでいった。
向こう二度の全滅を挟んでたどり着いたのは第五層。時間にして二時間半もの探索の結果であった。
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