第46話 伝説のリベンジ
「あぁ~……ついに来てしまったぁ……」
【ケシ子ちゃん滅茶苦茶顔青いけどどしたん?】
【トラウマと向き合う時が来たか】
【ついにこの時が……!】
「大丈夫ですの、ケシ子」
「うん、大丈夫……なはず! ここまで来たら落ち込んでられないし、ちゃっちゃっと行っちゃうよ!」
さてさて、今回俺たちがやってきたのは彩雲ダンジョンこと、難易度Bクラスダンジョンの『極彩街道』。俺たちの住む町にあるダンジョンであり、ケシ子チャンネル初配信の場となり、そしてダンジョンというモノの厳しさをケシ子に教えたトラウマの場所である。
そう、今回の配信はそのリベンジに当たる内容なのだ――
「ま、別の目的もあるけどな」
いつも通り、配信冒頭をケシ子とレオクラウドの二人に任せた俺は、配信機材の準備をしつつ今回の配信の目的を整理した。
今回の配信は、『リベンジ! 新たな仲間を引き連れて、今度こそ勝つぞ極彩街道!』というタイトルから見て取れるように、初心者のころに俺の策略にまんまとかかって苦い思いをしたケシ子のリベンジマッチだ。
しかし、それは表向きの理由。
実は裏の理由がいくつかある。そのうちの一つは、実力の確認だ。以前、横浜ダンジョンのボスを試金石にして確かめた二人の実力だが、結果は俺の予想を超えるものだった。
それこそ、難易度Cクラスを飛び越えてBクラスに挑んでいいと思えるものだったのだ。
ダンジョン配信は、必ずしもそうであるわけではないが、高難易度のダンジョンを舞台にした配信程、再生数を稼ぐことができる傾向がある。
簡単に言えば、高い難易度に挑戦している人間を見たい層が、そのまま再生数に上乗せされるからだ。
だから、俺は駆け足で難易度Bダンジョンの攻略に乗り出たのだ。今回の配信でどれだけの階層を進むことができるのか、で今後の立ち振る舞いが――ダンジョンの攻略を中心とした配信活動をするのか、それとも別の何かで再生数を稼ぐかが決まる。
ああ、それと――
「さってと、〈術槌士〉の力を見せてあげよう!」
ケシ子はクラス1ジョブ〈槌士〉から、クラス2ジョブの〈術槌士〉にジョブチェンジを果たした。
〈術槌士〉は、通常派生――〈槌士〉のレベルを100にするだけでクラスチェンジできるジョブであり、同じ通常派生の〈重槌士〉や〈軽槌士〉と比べてSTR補正が低くなるものの、魔法という手札を獲得した〈槌士〉である。
ちなみに、現在のケシ子のステータスはこんな感じだ。
名:廉隅芥 (表示名切り替え:『ケシ子』)
齢:16
〇ジョブ
クラス2ジョブ〈術槌士〉Lv.7
補正値
STR補正:D (+パワーブーストD)
VIT補正:E
MP補正:E
AGI補正:-F
〇ステータス
〇所有スキル
-ジョブスキル
〈武器召喚〉〈アースクラッシュ〉〈パワーブースト(D)〉〈土魔法:中級〉〈風魔法:初級〉〈レジスト:ウィンド(小)〉〈レジスト:アース(小)〉〈シールド〉
-固有スキル
〈豪運〉〈傘連万乗〉
STRやVITなどのステータス補正が下がった代わりに、MPが上昇し、土魔法の威力が上がったうえ、新たに風魔法を使えるようになった。
余談だが、術系のジョブはクラス2ならば、メインの(ケシ子の場合は土属性魔法)とは別に、魔法使い派生なら二属性、他のジョブの派生ならば一属性の魔法の初級を扱えるようになる。
覚えられる魔法は選択でき、ケシ子は小回りが利くからという理由で風魔法を選択した。
結論で行ってしまえば、言い方こそ悪いが器用貧乏になった、といったところか。ただし、STRこそ下がったがケシ子には〈傘連万乗〉があるため、いくらでも攻撃力を盛ることができるのでデメリットがあまり苦にならないのだ。
さて、そんな思惑が難易度Bのダンジョンに通用するのかといえば――
「レオちゃん! 牽制お願い!」
「わかりましたわ!」
「ナイスひるみ! やぁあああああ!!」
これが案外通用していた。
極彩街道に入っていきなり登場したのは『七色ウォンバット』という、極彩街道の名に恥じない極彩色のウォンバットである。
素早い身のこなしが特徴的なモンスターであるが、AGIに特化した細剣士に就くレオクラウドが〈雷光〉を駆使し七色ウォンバットの行動を制限。動きが鈍くなったところを、〈傘連万乗〉の二倍効果が乗った一撃でケシ子がとどめを刺す。
見事な連携によって、苦戦を強いられることなく一匹目のモンスターを討伐したのだった。
「わ、わぁ! やった!」
「ナイスですわー!」
【おー! おめ!】
【初配信から一か月半でここまでやるか】
【固有スキルも相まって低レベルのクラス2ジョブの強さじゃないよね二人とも】
コメント欄の言う通り、固有スキルのおかげで二人は本来の低レベルのクラス2ジョブよりも一段上の強さを持っている。そこにケシ子は類まれなるセンスを、レオクラウドは様々なジョブを経て得た経験を加えることで、完璧な連携を取っていた。
難易度Bと言えば、クラス2ジョブでもレベル50以降の強さを持つ冒険者が五人いて初めて攻略のめどが立つダンジョンである。
もちろん、その難易度はボスを含めての難易度であるが――たった二人でここまで余裕をもって倒せるとなると話は変わってくる。
この感じならば、コラボも視野に入れてもいいのかもしれない。
とにもかくにも――
「ふむ、流石はケシ子とレオクラウドだ」
【スパルタクスパイセンがデレた!?】
【すごい貴重なものを見ている気がする】
「この調子なら今日だけで10層まで行けそうだな」
【かと思ったらこれだよ!】
【相変わらずの鬼畜で安心した】
余談だが、極彩街道は全47層。つまり、10層進んだところで全体の25%にも至らなかったりする。
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