第43話 伝説の武器
「レベルが100になったよ!」
ケシ子がそう言ったのは、ブルーオーシャンクラブを撃破した後、第一層に戻ってからの話だった。
「おめでとう。初のジョブチェンジは配信でやるか?」
「んにゃ、ひーくんに話聞いてもらいながらやりたいな」
「了解」
レベル100。それは、ジョブの成長限界であり、そのジョブのポテンシャルを最大限に引き出すことができるレベルの到達したという証である。
そして、次なるジョブへと手を伸ばす切符だ。
「そう言えば、廉隅芥はクラス1ジョブでしたわね。それにしては、攻撃の威力が高すぎると思うのですが?」
「固有スキルのおかげだよー。それを言えば、なずなちゃんの〈雷光〉、すごいずっこいよあれ! わーたーしーも、ほーしーいー!」
「ふふん、これは私に許された特権よ! そう、神が言っているのだわ、私にダンジョンを攻略しろと!」
「おお、すごーい!」
そして、戦いを経て二人も打ち解けられたようだ。お互いにブルーオーシャンクラブとの戦いを振り返りながら、キャッキャッキャッキャッと姦しく話している。
とりあえず、仲がよさそうで何よりだ。
「ま、とりあえずジョブチェンジだな。それと、『武器強化』についても話しておこうと思う」
「武器強化?」
「え、ちょっと待ってくださいまし。まさか、今の今まで武器強化をしてなかったなんて……」
「そのまさかだよ」
「噂に違わぬ鬼畜ぶりですわね虚居非佐木!?」
さて、非難にも似た獅子雲の驚愕は措いておくとして。
「ね、ねぇひーくん」
「なんだ芥?」
「えっと、もしかしてなんか隠してた……?」
「隠してないぞ? 言ってないだけで」
「それ隠してたってやつだよねぇ!? ひーくん!?」
流石の芥も、事の重大さ――というか、俺が言わなかったことの重要度を、獅子雲の驚愕から読み取ったらしい。
ああ、正直に白状しようじゃないか。そう――
「ふっ……その通りだ芥。お前には、ずっと縛りプレイをしてもらっていた!」
「縛りプレイ……!」
「そう、ただ普通にやるだけじゃあ、芥は成長しない。だからこそ、知らないということを利用して俺は芥を縛り付けていたんだよ!」
「そ、そんな! いったいいつの間に、どこを縛ってたの! さ、流石の私もドン引きだよ! えっち!」
開き直る俺。赤面する芥。そんな二人の様子を見ていた獅子雲が一言。
「ここまで見事なすれ違いは初めて見ましたわー」
◇◆
縛りプレイ。それは、自分の行動を意図的に制限し、枷を課すことで、立ちはだかる試練をより高いものにするというマゾヒズムを感じさせる行為であるが、決してそれは体を縄を使って縛り付けて身動きを制限するSMプレイではない。断じてだ。
そのことを一通り芥に説明し終えたところで、改めて俺は芥に武器強化の説明をした。
「とりあえずステータス画面を開いてくれ」
「う、うん。わかった」
危うく幼馴染から変態の称号を与えられかねなかった事実に冷や汗をかいた俺だったが、なんとか最悪の事態を回避することに成功してから一息ついて、とりあえずステータス画面の表示を促した。
ステータス画面。これもまたゲームゲームしたシステムで、俺に促されるがままにステータス画面を開いた芥の前に、SFチックに空中投影された青いタッチパネルが出現した。
余談だが、この第一層――ステータスクリスタルが設置されたこの階層内では、冒険者として登録した後ならいつでもどこでも開いて内容を確認することができる。
ついでに言えば、ステータス画面から獲得したドロップアイテムを保存することで管理することもできる。
そして――
「ステータス画面の右上にハンマーのマークがあるだろ。それ開いて武器強化をするんだよ」
タッチパネルの右上に表示されるハンマーマーク。これこそが、主な素材の活用方法である武器強化だ。
「ジョブを選択して、ジョブ武器一覧を開いてくれ。んで、作成じゃなくて強化――そうそうそっちそっち」
「うわぁ、なんか滅茶苦茶書いてある……頭痛くなりそう」
「勉強はそこまで不得意じゃなかっただろお前」
ラジコンの如く芥を操作してたどり着いた武器強化画面。そこには、いつも芥が使っているハンマーの全体図が表示されている。
そして、それぞれの部位に強化可能の文字が表示された。
「ここと、あと成田の方でもそこそこモンスターを倒してたからまとまった素材があるな。特にブルーオーシャンクラブの素材もあってある程度強化できそうだ」
「これ、強化するとどうなるのさ」
「威力補正と属性付与、ステータス追加……それと場合によっては特殊効果とか特殊仕様とか、まあとにかくカスタムの幅は広いな」
要するに、素材を消費することで、その素材の元となるモンスターの力を引き継いだ武器を作ることができたり、武器を強化することができたりするのである!
例えば――ブルーオーシャンクラブの素材を用いて作ることができる、青珊瑚の柄という強化がある。芥のハンマーの柄の部分の強化であるが、DEF+50という馬鹿にできない効果がある。
他にも、魔法的な効果を持たせたり、変形による機能追加だったりと、出来ることは様々だ。
「つまり、本当だったらこの強化で更に強い状態でさっきの青い蟹さんとかに挑めた……ってこと?」
「そう言うことになりますわね」
「ちょっとひーくんどういうこと!?」
「いやー、ほら。おかげでステータス頼りの戦い方にはなってないだろ、ほんと」
「もー!!!!」
第一層に、芥の怒りがこだまする。
……これは、帰りに何か奢って機嫌を取らないといけないパターンだな。最近できたらしいシュークリーム専門店とやらに行ってやるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます