第42話 伝説の雷光


「……ふむ、やっぱりそれなりに戦えるみたいだな」


 入り江の高台にて、ブルーオーシャンクラブと戦う二人の姿を見下ろしながら、配信に乗らない声で俺はそう呟いた。


 山下臨海街洞の難易度はD。そして、ボスとなるブルーオーシャンクラブは、高レベルのクラス1ジョブが五人も居れば、余裕をもって討伐できる難易度であり、クラス2ジョブである獅子雲が居るものの、たった二人では苦戦を強いられてしかるべき相手であることには間違いない。


 ただ、それを考慮した上で俺は獅子雲を評価した。


「AGIの加速――だけじゃないな。あの間合いの取り方は遠距離ジョブのモノ。剣の振りは短剣士、時折見せる腰の入り方は槍士。パリィの精度は槌士のシールドで身に付けたモノか? どっちにしろ、ただの細剣士って動きじゃない」


 細剣士はAGI特化のスキル型ジョブだ。

 全体的なステータス補正が低く、クラス2にしてはステータスの伸びが悪いため、攻撃面、防御面において他のジョブに大きく劣る。


 しかし、弱点威力補正を高める〈弱点特攻〉や攻撃時に弱点を突くことで大ダメージを与える〈ピンポイントアタック〉、そして敵の弱点を見抜く〈弱点看破〉などのスキルを使い、高いAGIを活かして高威力の一撃を繰り出すことができるのが最大の特徴だ。


 とはいえ、己も相手も激しく動く戦場では、わかっていても弱点に攻撃を当てることは難しい。そのため、かなりの高難易度ジョブと言われているが――獅子雲は見事に細剣士を扱い熟していた。


「流石は数年前から冒険者をしてるだけあるな」


 屋上での独白からわかっていたことではあるが、彼女の冒険者歴は地味に長い。聞けば、彼女の父親が亡くなってしまう前から――つまりは小中学生のころから、ダンジョンに行っていたという話だ。


 その割に細剣士のレベル21とレベルが低いのは、自分に合うジョブを探していたからなのだとか。


 確かに、クラスチェンジでジョブを変えた際、クラス2以上のジョブにチェンジする場合は、何らかの条件――例えば、そのジョブの下位に当たるジョブのレベル100などの条件を達成しなければ、ジョブチェンジできない。


 そして、なかなか自分に合ったジョブを見つけることができなかったのだろう獅子雲は、いくつものクラス1、クラス2ジョブを試しては変えていたのだと言う。


 そのおかげでかは知らないが、ステータスには表れない技量が、獅子雲の戦いからは見て取れる。それに、なんと言っても――


「〈雷光〉!!」

――gsyaa!!?


 細剣士というジョブと、獅子雲が保有する遺物由来の固有スキル〈雷光〉の相性がいい。


 おそらくは、何度もジョブを変えていたという話も、あの〈雷光〉を上手く運用できるジョブを探していたからなのだろう。


 その証拠とばかりに迸る雷が剣先から放たれれば、ブルーオーシャンクラブの動きが僅かに止まる。その隙をついて、獅子雲の放つ〈三段突き〉が青い甲殻の隙間へと叩き込まれた。


「むぅ……これでも足が千切れないとは、流石はボスの耐久力と称賛するべきですわね」

「やってることえっぐぅ……私も負けないよ!」


 固有スキル〈雷光〉。詳細は知らないが、おそらくは獅子雲が持つレイピアの切っ先から、雷属性由来の電撃を放つことができるスキルなのだろう。


 威力は高く、何よりも攻撃対象が一時的に麻痺するため、大きな隙を無理矢理作り出すことができる強力なスキルだ。


 そして、動けなくなった相手の弱点に最高火力を叩きこむ――なるほど、彼女が細剣士を選んだわけだ。


【レオちゃん強い!】

【パリィも使いこなしてるし、普通に強くてびっくり】

【今の一撃、もう少しレベル高かったら足無くなってたな】


 とまあ、コメント欄も称賛の嵐だ。


 そして、そんな獅子雲――もといレオクラウドの活躍を、ケシ子が黙って見ているわけがない。私も、と奮起した彼女の頭上に、UFOさながらの傘が姿を現せば、その攻撃はクラス1ジョブの枠に収まらない威力を発揮してブルーオーシャンクラブへと躍りかかった。


 ――giyaaaaaaaa!!!


「〈雷光〉!」

「レオちゃん、ナイスアシスト!」


 しかも、二人はチームだ。AGIが低く大ぶりなケシ子の攻撃にブルーオーシャンクラブが反応し、回避行動をしようとすれば、再度放たれた〈雷光〉の電撃によってその行動が止められる。


 止まった時間は1秒にも満たない。しかし、こと戦場における1秒はあまりにも致命的だった。


「らぁあああ!!」


 槌士ジョブスキル〈アクセルインパクト〉。前方に移動しながら放たれるハンマーの一撃は、疾走の勢いも加えられて、ただ振りかぶるだけの一撃を遥かに上回る威力を発揮する。


 更にそこに加えられるのは〈傘連万乗〉の倍増効果。おそらくは威力を倍増させたのだろうその一撃は、サンゴ礁を背負ったブルーオーシャンクラブの甲殻に罅を入れるほど。


「もういっちょ!」

「援護しますわ!」


 その戦いは決して、楽々なんて言えるようなものではない。


 それでも二人は、自らの強みを叩きつける形でブルーオーシャンクラブを圧倒していった。


「ま、こうなるよな」


 ブルーオーシャンクラブは、ステータスでいえばDEFに特化したボスモンスターだ。そのため、重要となるのは高いDEFを突破する攻撃力か、小手先――そう、ケシ子の〈傘連万乗〉や、レオクラウドの〈雷光〉を組み合わせた弱点攻撃のことだ。


 つまるところ、二人の戦闘スタイルは、もろにブルーオーシャンクラブの天敵だったわけである。


「援護の必要はなさそうだな」


 一応、準備していた拳銃を引っ込めた俺は、彼女たちの活躍を撮影することに注力するのだった――

 

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