第37話 伝説のユニット
突如として泣き出してしまった獅子雲を宥めた俺は、俺の提案に欠かせない重要人物である芥も屋上へと呼び出した。
彼女がまだ下校していなかったのは運がよかった。
「ひーくんのことだから、また何か変なことしてると思ってたけど……流石に女の子を泣かせてるとなると、私も見過ごせないなー」
「誤解だ誤解。いや誤解じゃないかもしれないが……大した問題じゃないから芥が気にすることじゃない」
「ほんとに~?」
未だ頬に涙の跡が残る獅子雲を見て、それからここ最近の俺と獅子雲の関係を鑑みた上で、俺を白い目で見てきた幼馴染へと言い訳を済ませたところで、改めて俺はここに芥を呼び出した理由を――
俺たちがいま行っている活動の内容を、獅子雲に説明した。
「つ、つまり……廉隅芥さんの借金を返済するために、配信活動を行っていらっしゃると」
「ああ、そういうことだ。ちなみに登録者は現在2万人の新進気鋭冒険者だ」
「それはすごいですわね……」
ただ、やはりというかなんというか、俺の仕込みがあったとはいえ、配信界隈での芥の快進撃を聞いた獅子雲は少々凹んでいた。
同じ活動者として思うところでもあったのだろう。それこそ、一年前から始めていたのに、なんてな。
まあでも、獅子雲は運が悪かっただけだと俺は思うけど。
「それで、どうしてそのことを私に?」
「さっき言っただろ? アイドルやろうって」
「なっ……!!」
改めて告げた俺の言葉に、彼女はわかりやすく目を見開いて反応した。
そして、動揺をそのままに彼女は疑問をぶつけて来た。
「それは、その……私も、廉隅芥さんのように配信業に勤しむ、ということでして?」
「その通りだ。というよりも、配信者じゃなくてアイドルになってもらう。それはもう苛酷な特訓の先で、人気者としてがっぽがっぽ稼いでもらうような、トップランクの大スターにな。あ、拒否権は無しな。アイドルをやる。それが、俺が決闘で勝ち取った報酬だから」
「……そんなこと、出来るわけ――」
できるわけがない。ああ、そうだろうな。普通なら、の話だ。
芥の背負う借金は10億円。普通なら、一生働いたところで返しきれない大金だ。だから、普通の手順なんて使ってられねぇんだ。
「とにもかくにも、獅子雲。何も俺は何の当てもなくやってるわけじゃない。少なくとも、お前の才能を――すばらしさを買っているんだよ」
さて、ここからが俺の腕の見せどころだ。
自信とは意図して身につけることが難しいパーソナルの一つである。それを獅子雲は、例え自分がどれほどの実力を持っていようとも、それが自分の得意分野であるかのようにふるまうことができる素質がある。
鳴かず飛ばずの一年を過ごしたらしい獅子雲だが、俺からすれば配信者の素質しか感じられない。是非とも、俺が目論む計画に欲しい人材である。
だからこそ、ここはなんとしてでも彼女をその気にさせて、ダンジョンアイドルの道を歩んでもらわなくては……!!
「いいか、獅子雲」
「な、なんですの?」
「俺は何も無計画に、そして無謀に返済を目論んでいるわけじゃない。見ろ、この芥の容姿を。あどけない笑顔の中に秘められた太陽のような陽気を。これほどまでに人好きのする笑顔を振りまく兵器のような女を見て、好感を覚えないわけがないだろう」
「ちょ、ひーくん!? そ、そんなこと言って……もうっ!」
実際、芥は美少女と言って過言ではない容姿をしている。少なくとも、芥の持つ幼さを交えた朗らかなその笑顔は、万人を魅了する純朴なオーラを放っている。それに、毎日食べているものの栄養が局所的に集まっていることもあって、スタイルだって悪くない。
そんな芥を――俺の言葉に恥ずかしさを覚えたのか、顔を赤くしながらぽこぽこと俺のことを叩いてくる芥を見て、獅子雲も「た、確かに……!」と納得の言葉を零していた。
「そして獅子雲……俺はお前に、芥と同じ魅力を感じているんだ!」
「「な、なんですって!?」」
「……なんで芥も驚いてるんだよ」
「え、いや……ひーくんってそう言うのが好きなのか、って思って」
俺の言葉に獅子雲と共に驚きを示しつつ、なにやら半眼になって獅子雲と自分のことを見比べる芥は一先ず措いておくとして。
獅子雲が魅力的であることは、間違いなく俺の本心である。
「獅子雲は配信者として声もビジュアルも申し分ないほどに高得点だ! それこそ、美少女と言っても申し分ないほどにはな!」
「――!!」
「そして何よりも、その挑戦心は称賛に値する素晴らしいものだ! ルールを知らずとも意欲的に挑戦し、一度や二度の敗北でもへこたれないその心は感嘆を覚えてしまう! そう、これは他ならない配信者としての才能だ!」
「ふ、ふふんっ! 当たり前ですわ! これでも私は、冒険者である父様を超えるために鍛えてきましたの……ともすれば、才能の一つや二つ、持ち合わせていて当たり前ですわ!」
才能ってのは鍛錬でどうにかなるものではないとは思うが――まあ、とにもかくにも、
「そんな獅子雲だからこそ、俺は勧誘をしたい! そう、芥とユニットを組み、アイドルとしてダンジョン配信業界にその名を轟かせる勧誘をな!」
「なんと大それた野望でしょうか……そして、そんな大望にこそ私の力は必要不可欠なのは当然のこと――ならばその話、受けて差し上げますわ!」
やはり、前向きというかお調子者というか――先ほどのマントルの奥深くまで沈んでいってしまいそうな雰囲気はどこへやら。復活した獅子雲は、張り裂けんばかりの声を上げて、俺の差し出した手を握った。
「貴方に私を扱いこなせるかしら?」
「いいぜ、任せろよ。なんたって俺は伝説だからな。誰もが知る、トップランカーにしてやるさ」
こうして、俺は獅子雲を仲間へと引き入れることに成功したのだった。
……しかし、本当にちょろいなこいつ。ちょっと心配になってくるレベルなんだけど。
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