第29話 伝説のドナドナ


「おらっ! キリキリ歩けぇ!」

「蹴るな蹴るな。なんだよ愛代めじろいったいどうしたんだそのテンションは」

「ほら、冨田月は初めて非佐木とダンジョンに行けるからテンションが上がってるんだよ」

「一年からの付き合いだけど、お前忙しそうで全然ダンジョンとか行けなかったからな~」

「カラオケとかゲーセンとかでいいだろそういうの」

「いやいやいや。カラオケもゲーセンも行ったことあるでしょい? ここは一つ、大バズりした配信術を一挙伝授してもらいたいところなんだわい」


 休日明けて月曜日。先日の配信のおかげで、学校中の噂の人となった芥であり、それはもう大騒ぎになった。


 やはり若者の拡散力は電光石火。クラスの外からも、芥の顔を見ようとする人間が何人かいた。更には、クラスメイト達からは俺がカメラマンであることも筒抜けであった。


 まあ、芥が俺に誘われて冒険者を始めたといった手前、バレないはずもない。


 そうしてこうして激動の一日が終わった後であったが、俺と芥はそれぞれの友人にドナドナと運ばれることとなった。


 そんなわけで訪れたのは、我らが彩雲町が誇る彩雲ダンジョンこと、『極彩街道』である。


 難易度Bに当たるモンスター型のダンジョンではあるが、どうやら彼らは、部活動として日々このダンジョンに潜ってレベルを上げているらしい。


『ふっふっふ……今日こそは一緒にダンジョンに来てもらうぞ虚居ィ!!』


 と、愛代以下三名に連行された俺は、普段の付き合いの悪さもあって、今日一日はケシ子チャンネルの配信を休憩し、遊ぶ日とした。


 まあ、この二週間、芥を拘束し続けていたわけだからな。芥だって、友達と遊びたいはずだし、ちょうどいいだろう。


「そんなわけで、愉快なメンバーを紹介するよ! まずは僕! 虚居の親友と名高い愛代冨田月だぁ!」


 愉快なメンバーその1。愛代冨田月。

 クラス3ジョブの『潜伏者』で、妙にテンションが高い糸目のっぽ。


藍井路あいいろ十色といろ


 愉快なメンバーその2は、藍井路十色。クラス3の『五色術士』とかいう謎のジョブについているチビ。


湯前ゆのまえ之前のまえだい。いや、知ってるだろうけど、一応な」


 愉快なメンバーその3は、湯前之前。クラス2の『重槍士』につく伊達男。


「以下同文~!」

「サボるな秋月」

「えーだって今更じゃん」


 んで、最後の愉快なメンバーその4は、秋月あきづき十六夜いざよい。『疫病神』とかいう何とも不吉なクラス3ジョブにつくめんどくさがり屋。


「あー……虚居非佐木だ。ま、知っての通りだ」

「俺ら冒険者としての非佐木のことなんにもしらないんだがぃ?」

「ってか、テンション上がってるところ悪いけど、俺は戦わないぞ」

「えぇー! なんでさなんでさ! 虚居とダンジョン来るの楽しみにしてたのにー!」


 最後に俺が名乗りを上げたが、知っての通り、四人は俺のことを何も知らない。もちろん、十年前の俺のことなど尚更だ。


「いやいや、これには深いわけがあるんだよ、愛代。とりあえず、二層に行くぞ」

「あれ? 二層?」

「実を言えば俺は二層までしか極彩街道に来たことないんだよ。さ、入った入った」


 さて、俺はさっそくとばかりに俺が戦わない理由を――今の今まで、彼らに交じってダンジョンに潜らなかった理由を説明するために、二層に続く階段を下りた。


「それで、なんで戦わないんだよ~。もしや非佐木て弱い?」

「一言多いぞ秋月。口頭で説明するよりも、見てもらった方が早いと思ったからだ」

「それって、虚居が強すぎるから……とか?」

「まあそれもあるが……それよりも重大な問題が一つあるだ」


 俺の後ろを付ける秋月と藍井路がそんなことを訊いてくるが、本当に見た方が早いのでちょっと待ってほしい。


 そんなわけでやって来た極彩街道。前に来たのは、ケシ子地獄の初配信の時だ。


 相も変わらず目が痛くなるような色彩にあふれたこのダンジョン。生垣の迷宮に向かって無造作に歩いていれば、すぐにダンジョン固有のモンスター――七色甲虫に出会った。


「〈武器召喚『シャウトレス』〉」


 そして、すぐさまその自慢の外骨格に風穴が空いて倒される。


 もちろん、それを成したのは俺が召喚した武器『シャウトレス』だ。自分の武器に名前つけてることには触れないでほしい。なんせ、名前を付けないと武器召喚で使い分けれないし、この中二病的な名前は作った最初期から設定されてたものだから。


「うっわ、お前銃士系統かい」

「随分渋いチョイスだね~。もしかしてM?」

「一言多いぞ秋月」


 俺が銃士系統のジョブであることに反応する愛代。その横では、相変わらず一言多い秋月が余計なことを言っていた。


 ともかく、だ。


「ほら、よく見ろあれを。ドロップアイテム、落ちてないだろ」

「あ、ほんとだ」


 はてさてそうして、俺が彼らの輪に混ざってダンジョンに潜らない最大の問題点が露になる。


 弱点関係なく打ち抜かれ息絶えた七色甲虫が、倒された証拠として、すべてのダンジョンモンスターがそうであるように、霧になって消えていく。


 しかし、在るはずのものが――存在すべきものが、そこにはなかった。


「俺の固有スキル〈大喰らい〉は、ドロップアイテムを削除しちまうんだよ。それに、本来であれば共有されるはずの共闘経験値も全部吸い取っちまうんだ。つまり、俺と一緒に戦う限り、戦闘報酬は何もない。ドロップアイテムもなければ、レベルが上がることもないんだ」


 生まれつきのソロ冒険者。


 芥が冒険者としてダンジョンに潜る前から〈豪運〉というスキルを取得していたように、俺はこの〈大喰らい〉というスキルを持っていたせいで、誰ともチームを組むことができなかったのだ。



☆――――★


本編じゃ説明しきれない色々説明するための少年Xによる補足コーナー


・『潜伏者』

 剣士系統短剣士派生クラス3ジョブ。

 隠密行動に特化した特性を持っていて、一時的に自分の幻影を設置するスキル〈影分身〉や、死角からの攻撃を強化できる〈急襲〉などのスキルを持っている。

 短剣士は元々AGIに優れたジョブであるため、取り回しやすく愛代は遊撃兼妨害役として、このジョブを活かしている。


・『五色術士』

 魔法使い系統特殊派生クラス3ジョブ。

 魔法使いにおける火、水、風、土、雷の五属性の初級魔法を使うことに特化したジョブ。それぞれの属性に特化したクラス2ジョブをレベル100にすることで解放されるらしい。

 五属性を使うことができるようだが、中級以上の魔法が使えないなんて制限があるため、キワモノ扱いされているジョブでもある。


・『重槍士』

 槍士系統クラス2ジョブ。

 槍を使うことができる槍士をレベル100にすることで解放されるクラス2ジョブであり、若干のAGI下降補正があるものの、STRとDEFが高く、前衛としての性能が上昇する。

 聞けば、湯前は元は盾士系列のクラス3ジョブを使っていたらしいが、攻撃力が欲しくなったのでレベル上げ中らしい。


・『疫病家』

 呪術士系列毒使い特殊派生クラス3ジョブ。

 特にデバフを与えることを得意とする呪術士系列のジョブであり、スキルによる特殊デバフ以外の攻撃手段がほぼない特殊過ぎるジョブ。その中でも疫病家は、特殊デバフを感染という方法で広域に分散させることが得意なのだとか。

 戦っているところを見ても、陰湿だという言葉しか思い浮かばないやばさ。正直言って、存在することすら知らなかったレベルで希少なジョブともいえる。

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