第30話 伝説のドロップアイテム


 モンスターを討伐した際に、討伐者とその協力者――これまたゲーム的なシステムだが、討伐せずとも、そのモンスターを攻撃したり、モンスターを攻撃した人間を補助した人間――は、二つの報酬を手に入れる。


 一つが経験値。

 冒険者の戦闘力に大きく関与するジョブのレベルを上げる要素だ。


 そしてもう一つが、中にいろいろな物品が入ったきんちゃく袋――所謂、ドロップアイテムである。


 そして、ことダンジョン探索に置いて、ドロップアイテムとは非常に重要な役割を持っている。


 ドロップアイテムの多くは、武器召喚で召喚する武器の強化に使うことができるのだ。これによって、ジョブ以外でのステータスの強化や、戦闘における手札を増やすことができる。


 先に出した俺の拳銃――『シャウトレス』も、そういった強化の一環で作り出したものだ。


 そして、さらに重要なのが――討伐報奨の存在だ。


 ダンジョンが大量発生した30年前。

 所謂世界変革アルティメットレボリューションの後、ダンジョンモンスターが地上にあふれかえる暴走現象スタンピードと呼ばれる現象が多発した。


 当然大勢の人間が犠牲となった、ダンジョンの悲劇であるが――その後、ダンジョン内部のモンスターをある程度討伐することで、暴走現象スタンピードを抑制できることが判明し、それからダンジョン内のモンスターを定期的に間引きする必要性が出て来た。


 しかし、日本だけでも当時50はあったダンジョンのすべてのモンスターを討伐することは、国家的に大きな負担となったらしい。


 そこで登場したのが、冒険者というわけだ。


 民間人に冒険者になってもらい、日常的にモンスターを討伐すれば、暴走現象は起きず、安全にダンジョンを管理することができる。


 そして冒険者を呼び込むために、政府はダンジョンモンスターを討伐した際にドロップするきんちゃく袋の袋を買い取る『討伐報奨』システムを導入したのだ。


 これにより、モンスターを討伐した際に金銭が発生。もちろん微々たるものではあるが、娯楽としてダンジョンに潜り、おまけにお金も貰えるとなれば、潜らないわけにはいかないだろう。


 袋一枚につき数円。高いところに慣れ数十円もの金額になる。もちろん難易度や、そのダンジョンに入る平均人数で買い取り価格は変動する。


 そして、俺のもつ固有スキル〈大喰らい〉は、それら討伐報奨のすべてを台無しにするスキルであるのだ。


「なんちゅー厄ネタ抱えてんだよお前ぃ……」


 友人たちの呆れた目が俺に向けられる。


「ま、そういうわけで俺は戦えない。悪いな」


 彼らダンジョン部に入らないのには理由がある。そんな理由を話して、俺はダンジョンを去ろうとした――その時。


「いやいや何言ってんの虚居。僕は友人としてお前とダンジョンに潜りたかったわけで、なにもドロップアイテムが欲しかったり経験値稼ぎをしたくてお前を呼んだわけじゃないんだけど? そこんところ、勘違いしてほしくないな」

「愛代……」


 去ろうとした俺を止めたのは愛代。彼は、なにもそんな見返りのために、俺を呼んだのではないと語る。そして、彼に続くように、他三人も口を開いた。


「だな。非佐木が居ないとつまらん」

「愛代の言う通りだい。遠慮すんなよ、虚居!」

「だね~」

「お前ら……本当に、俺はいい友人を持ったな」

「だろ!」


 なんとも素晴らしい友人がいることを知った俺は、踵を返して彼らの元に戻った。


 ただ――


「ああ、でも戦いには参加できないぞ。だって――」


 俺は彼らの背後に迫っていた七色アナグマを蹴り飛ばしながら言った。


「このレベルだと、素手でたいていのモンスター制圧できちまうから、パワーレベリングみたいになって絶対つまらねぇと思うんだよな」

「お、おう……」

「遠距離ジョブなのに蹴りで一発って……」

「なんかすごいもの見た気がするよ~……」



 ◇◆



「前に出ろ湯前!」

「あいよぃ! 援護頼んだぜ秋月!」

「りょうか~い!」


 さて、そんなわけで俺は、彼らの戦いぶりを後ろから見ている係になった。


 というのも――


『じゃあ配信のバズり方教えてよ! そしたら僕たちの趣味でしかなかったダンジョン部も、新入部員がザックザック……!!』

『いや、普通に戦い方の指南聞いた方がいいでしょ。なあ、非佐木。今度俺たちで遠征して、Aクラスダンジョンに挑みに行く予定立ててるんだけど、どうせならアドバイスくれないか?』


 部員数が足りず部活に昇格できないダンジョン部の部員獲得を目論む愛代であったが、理知的な藍井路のチョップを受けて黙らせられた。


 そうしてこうして、藍井路から頼まれた、彼らの連携の確認をすることになったのだ。


「つっても、俺は永久ソロ専の宿命を帯びてるせいで、他人との連携とかわかんねぇんだけど」


 一応、日夜配信界隈を潜っているから知識はあるが……経験がない以上、アドバイスらしいアドバイスをしてあげられる気がしないんだよなー。


 ま、明らかな連携ミスなんかは見ればわかるか。


 いや、その前に秋月の『疫病家』とかいうまじでよくわからないジョブについて調べないと……スマホスマ――


「あれ、あの人……」


 生垣と色彩にあふれた極彩街道の中で、第二層となるここに俺たち以外の人影が一つあった。どうやら、冒険者の女性が、一人でこのダンジョンに挑戦しているようだ。


 難易度Bのモンスター型ダンジョンをソロ攻略とは、なかなかに気骨のある冒険者だな。


 ただ、


「あのモンスター、あっち行くな」


 七色兎と戦っているその冒険者の背後から、息を潜めた七色蛇が近づいていた。あれは今しがた姿を現したモンスターで、彼女が戦っていた得物ではない。


 完全な死角から忍び寄る蛇に、あの冒険者は全く気づいておらず、このままでは不意打ちを受けて死んでしまうだろう。


 冒険者のマナーとして獲物の横取りはご法度だが、ああいう戦っている冒険者を横から襲撃してくるような姑息なモンスターを狩ることは、マナー上問題なかったはずだ。


 それに、二層入り口からここまでそれなりに距離がある。ここで死んでしまえば、ドロップアイテムを一層に持ち帰ることができない。


 だから――


「〈武器召喚『シャウトレス』〉」


 俺は徐に銃を召喚した。


 よく使う――というか、取り回しのいい拳銃『シャウトレス』。装弾数12発のこの銃は、何よりも射撃音がしない静音製に優れた、撃ったことがバレない銃だ。


 ああいうやつを、密かに狩ることに優れている。


「BANG――」


 放たれる銃弾は無音。火薬が爆ぜ、銃身を通り、空気が爆発して、弾が風を切る。そのすべてから音が失われた、叫び無き攻撃シャウトレスが、七色蛇を貫いた。


「っ!?」


 ただ、すべてが無音のこの銃も、獲物が倒れる音だけは消すことができない。


 背後でどさりと倒れた大蛇に対して、冒険者の少女はぎょっと目を見開いている。

 そして、その大蛇についた銃創を見て――それから、俺の銃を見られた。音を消してまで静かに狩ったはずなのに、なぜバレたのか。


「……ん?」


 戦っていた兎の首を狩った冒険者。彼女は消えていく兎の亡骸から落ちたアイテムすら無視して、ただならぬ様子で俺の方へと近づいてきた。


 あ。なにか、トラブルの予感が――


「あなた、死にたいのかしら?」


 彼女は手に持ったレイピアの切っ先を俺の首に沿えて、そう言い放ったのだった。


 

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