第26話 伝説の遺物


 難易度D『八王子山林道』

 電車を使って八王子まで来た俺は、芥と合流してから八王子にあるダンジョンへと入場するのだった。


「今までに比べてすごい広いねここ」

「そうだな。ま、だからこそ今日来たんだけど」


 日曜日となる本日。休日ということもあって娯楽に飢えている人間も多いだろうが、残念ながら本日のケシ子はオフモードだ。


 ただ――


「そういえばさー、なんか電車でちょっと視線感じたんだよね! ダンジョン用の服じゃないのに!」

「ほほう、それは嬉しい報せだな」

「えぇ……私ちょっと怖かったんだけど」


 昨日の配信の反響はすさまじいものだった。それこそ、ダンジョン系のまとめサイトに取り上げられるわ、バズッターのトレンドに乗るわ、果てには動画サイトの急上昇ランキングに飛び入り参加で三位を記録するバズに至ったのである。


 あれから一日経った現在、動画の再生数は〈47万再生〉、〈4200good〉を獲得し、ケシ子チャンネルの登録者は大台の一万を超えて〈13964人〉となった。

 これはもう、中堅ダンジョン配信者を名乗っていいレベル。電車の中で彼女に注目が集まったのも、バズッターなどに乗せられた顔写真のせいだろう。


 ちなみに、配信とは別に切り抜き動画と呼ばれる、配信内容の要点をまとめた動画も投稿しており、そっちの方も既に20万を超えて今もなお伸び続けている。


 余談だが、配信が終わった直後に切り抜きが完了していて、後は字幕編集を入れるだけの動画が軍曹から送られてきてびっくりしたんだよな……。やっぱり、あの人の見る目は違うというか……こう、金の匂いのするところに敏感というか……。


 まあ、ともかくケシ子のことは今はいい。このバズを足掛かりに次へと伸ばしていく必要はあるだろうが――それよりも重要なことが一つある。


「っと、ここら辺でいいか」

「うん、見えるあたりに人も居ないし問題無さそう」


 俺たちが来たこの難易度D『八王子山林道』は、地下にあるというのに、大きな山を登る林道をベースにしてできたダンジョンとなっている。ややギミックよりのバランス型であり、その広大な敷地内は地図もなしに歩けば迷子になってしまうほど。


 それはつまり、ダンジョンに人が集まる休日であっても、人気のない穴場が多いということでもある。


「んじゃ、遺物のお試しといこうか」

「あいあいさー!」


 俺たちがここに来た理由。それは、先日芥が獲得した遺物――『唐笠連番長』というユニークモンスターを討伐したことで獲得した〈傘連万乗〉というスキルの試し打ちをするためであった。


 遺物とは、ダンジョンで発見される特別なアイテムのこと。ユニークモンスターを倒した場合にも獲得することができ、それらは固有スキルとしてステータスに組み込まれ、持ち主に特別な力を与えてくれるのだ。


 それらはスキルの発動によってその姿を現し、特に戦闘において役に立つ道具として振舞う。


「行くよ、〈傘連万乗〉!」


 芥がそう声を上げれば、おそらくは彼女にだけ聞こえるアナウンスが流れ、続き彼女の上――10メートル上に謎の物体が現れる。


「唐笠、だな」

「唐笠だね」


 さて、そこに現れたのは小さな円盤。朱色を中心として黒色の線が均等に走るそれは、名前通りに開いた唐笠のようにも見える仕上がりだ。


 おそらくは、これが彼女の新たなスキル〈傘連万乗〉なのだろう。


「芥。遺物系の固有スキルはステータスから能力を確認できる、ちょっと見てみろ」

「え、そうなんだ。じゃあなんで元から持ってた固有スキルはこうか確認できないんだろ……」

「そういうもんだと理解するしかないな。ほら、家電製品には説明書が付いてるけど、人間の手足には説明書なんてないだろ」

「あー、うん。まあ、そうだけど……なんか納得いかないなぁ……」


 固有スキルの中でも、先天的に所有していたものに説明はない。何とも理不尽な仕様なのだが、先ほど芥にも伝えた通り、生まれ持った肉体に説明書がないのと同じように、先天性の固有スキルにも説明がないのはある意味当たり前というの通説だ。


 まあ、そんな通説がその通りであるかのように、先天性の固有スキルの所有者たちは、どういうわけかその使い方をなんとなく理解しているのだから仕方がない。


 芥だって、無意識のうちに〈豪運〉というスキルを使いこなしているのかもしれないし、してないのかもしれない。


「えっとね……なんか、対象の力を倍にするらしい」

「対象の決定方法とかは書いてないのか?」

「あの宙に浮いてる唐笠の周囲十メートルの好きなモノだってさ」

「ふーん……」


 そういえば、あの唐笠連番長とかいうモンスターは、二つの攻撃を――芥風に言うなら、周囲のモノすべてを押しつぶす重力攻撃と、前方のモノすべてを消し飛ばす音波ビームを使っていた。


 ユニークモンスターは大抵の場合、何らかの固有スキルを保有している。それが一つだけの奴も居れば、複数持ちの奴いるが、たいていの場合はそのスキルを軸に戦いを展開していくのだ。


 そして、ユニークモンスター由来の遺物にもそれらスキルの特徴は色濃く反映される。


 なので、〈傘連万乗〉の効果から逆算すれば、重力攻撃は重力の力を増加させた範囲攻撃、音波ビームは(おそらくは)声を増加させた集中攻撃なのだろう。


 となると――おそらく、このスキルは彼女にとっても切り札になりえるスキルとなるはずだ。


 俺の想像通りなら、槌士の高いSTR《パワー》から放たれる攻撃を強化することができるとすれば、それはかなりの武器になる。文字通りの一撃必殺になるやもしれない。それに、クールタイムはあるだろうが、倍にできる力に指定はないともなれば汎用性も高いだろう。


 今後のダンジョン攻略においても、力強い味方になること間違いなしだ。


 ――返済計画に、ダンジョン攻略も視野に入れてもいいかもしれないな。


 ま、そんな夢は一先ず措いて――


「よし、じゃあ芥」

「なに~?」

「ちょっくら戦うか。俺をモンスターだと思って殴りかかって来い」

「えぇ!?」

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