第21話 伝説のユニークモンスター
ユニークモンスター。
それは、本来そこに居るはずのない異常。そして、本来はあり得ないはずの異常。ダンジョン内部に築かれた生態系や特徴をガン無視したそのモンスターは、多くがダンジョンに設置されたクリスタルに記載されるダンジョンごとの難易度を大きく超えた強さをしている。
もちろん、それに合った見返りだって存在するが――それはあくまでも、倒せたときの話だ。
「……ぎりっぎり!」
消失した地面を見ながら、綱渡りのような――いや、それ以上に分の悪い賭けに勝ったことを理解したケシ子は、明らかに先ほどまで対峙してきたモンスターたちとは格の違う戦闘力を有した唐笠を睨みつけた。
【なにあれ!?】
【うっわ地面消えてる……】
【明らかに難易度Cで出てくるような奴じゃないんだけど】
【まさか……こいつユニークモンスターか!?】
「……ユニークモンスター?」
唐笠の登場には、流石のコメント欄も騒然としている。なにせ、今の今まで雨に霧に身を隠して闇討ちを狙ってきたような、戦略的な卑怯者たちの戦いの中で、唐笠は一人真正面からケシ子に近づき、見てわかる即死攻撃を仕掛けてきたのだから。
ユニークモンスターという言葉を知らなかったケシ子は、コメント欄に流れたその単語を拾った。
『ユニークモンスター。普通じゃ出現しないようなやばい敵のことだ。まあ、貴重な経験だと思って当たって砕けろケシ子』
「相変わらず鬼畜ぅ!? ……うん、でもわかった。私頑張る。だから、見ててね」
頑張るといったケシ子は思う。
(ひーくん、多分わかっててここに来させたよね)
ケシ子の魅力をよく理解しており、その上でその魅力がダンジョン配信に活用できるものであることを非佐木が知っていたように、ケシ子もまた幼馴染として、非佐木に対して一種の信用のような理解を持っていた。
何時かのあの日。幼き自分の手を引いて、何でも知っている先輩風を吹かせながら勇気づけてくれたあの少年のことを、ケシ子は昔から想っていたから。
だから、今日の遠征にも何か意味があると思ってた。
だから、だから――
(当たって砕けるつもりで、でも砕けちゃダメ。これはひーくんが用意してくれた配信の見せ場。さっきの言葉だって、多分本心は隠してる。ひーくんなら――)
非佐木なら、当たってぶち壊すつもりで行け、と言ってくれると、彼女は理解していた。
(なら、砕けない。負けない。あの唐笠お化けは、ここで絶対に倒す!)
ハンマーを強く握りしめて、霧に紛れる唐笠を睨む彼女が覚悟を決めたところで、戦場に変化が生じた。
消えた地面が、再び元に戻ったのである。
「……地面が戻った? ってことは、重力とかを操って、地面ごと空間を押しつぶした、とかそういうわけじゃない? いや、でも結果が同じなら、重力でもいい、のかな?」
【能力わっかんねー!】
【とりあえず頑張ってケシ子ちゃん!】
【ユニークモンスターと聞いて。って視界悪ゥ!?】
【初見】
「あ、初見さんいらっしゃい! チャンネル登録してってね!」
【宣伝してる場合か!】
加速するコメント欄を眺めながら、唐笠に対する対策を考えるケシ子。先ほどの攻撃――地面ごと周辺空間を押しつぶしたあれは、唐笠の立つ足場を除いた360度全方位を対象とした即死攻撃のようにしか見えなかった。
対策、或いはその秘密を暴かずに闇雲に突撃したところで、もう一度放たれたあの範囲攻撃を受けて死んでしまう結果になりかねない。
となると――
「距離が詰められないなら遠距離攻撃!」
渾身の〈ハイパワースイング〉を使って彼女が狙ったのは路傍の石ころ。足でけるにはちょうどいい大きさのそれめがけてハンマーが振られれば、まるでゴルフのように石ころが唐笠目がけて飛んでいった。
【まさか槌士が遠距離攻撃とな!?】
【卑怯! だがそこがいい!】
【ソロでダンジョン攻略とか今時珍しいな】
まさかの攻撃に騒めくコメント欄。しかし、ケシ子の意識は、特殊なコンタクトレンズの視界に映るコメント欄よりも――
「鈴の音……?」
チリンと聞こえて来た鈴の音に気を取られていた。
雨音の中に僅かに紛れるその音は、ともすれば砂漠の中に落ちた米粒のように些細な主張しかしない奥ゆかしさ。しかし、ケシ子の――芥の耳は、その音を聞き逃さなかった。
そしてまたもや感じる悪寒。過去にここまでわかりやすい嫌な予感を感じたことがないケシ子は、急いで後ろに――いや、横に退いた。
その瞬間、唐笠の閉じられた傘が開いた。中から現れたのは――一つ目の子供。古き時代の寺の坊主を思わせる身なりの子供が、顔のど真ん中にある巨大な一つ目を飛来する石へと向けてみれば、
わぁ! と。或いは、ドンっ! と。空気が震え、石が砕け散った。
「なにあれなにあれ!」
何をしたのかわからない。しかし、悪寒を感じて横に移動したケシ子のなんと幸運なことか。豪運なことか。先ほどまでケシ子の居た空間は、おそらくは飛ばされた石を砕いた攻撃の余波と思われる衝撃に当てられて、地面ごと抉れていた。
明らかな脅威を目にして、そしてそれを寸でのところで回避した自分を見て、そして――その攻撃をした唐笠を見て。
「……これなら、近づける?」
ケシ子は作戦を思いついた。
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