第18話 伝説の遠征
―ステータス開示
名:廉隅芥
齢:16
〇ジョブ
〈槌士〉Lv.42
補正値
STR補正:C
VIT補正:D
AGI補正:-F
〇ステータス
〇所有スキル
-ジョブスキル
〈武器召喚〉〈アースクラッシュ〉〈ハイパワースイング〉〈パワーブースト(D)〉〈土魔法:初級〉〈レジスト:インパクト(小)〉〈シールド〉
-固有スキル
〈豪運〉
「やっぱりソロの成長率は早いな」
「二週間で40レベってそんなに早いの?」
「まあクラス1ジョブのレベルは上がりやすいからな。それに討伐時の参加人数でレベルを上げる経験値は分散される。四人参加したら単純に四分割ってわけじゃないけど、」
電車の中でノートに写した芥のステータスを見ながら話す俺たちは、神奈川を飛び出て千葉にまで遠征に来ていた。
目的は成田に出現した難易度Cクラスのダンジョン『成田雨林庭園』への遠征。遠征とは、本来の活動地点を離れて、遠方の地に配信をしに行くことを言う。
つまり、今回俺たちは、神奈川を出て遥々やって来た千葉の『成田雨林庭園』に配信に来たわけだ。
目的は一つ。成田雨林庭園に出現していると思われる『ユニークモンスター』と遭遇するため――というわけではなく、単純に休日ということもあって、一つ上の難易度を体感するために遠征に来た感じだ。
まあ、それは表向きの理由なんだけど。
少なくとも、芥や固定リスナーたちにはそう伝えている。ただし、協力者――例のカンフル剤を務めてくれた人には、違う話を通していた。
「む」
電車で並んで座っていたところに、ポケットから微かに感じられるバイブレーション。急いで確認してみれば、件の人からの連絡であった。
『件名:ぺろぺろぺろ
相変わらず陰キン氏の情報網はすごいぺろね。感心しちゃうぺろ。
確かに成田雨林はギミックの影響もあって人が少ないし、そのくせ視界不良で見通しが効かないから、ユニークモンスターが出現してても騒ぎにはならないぺろ。ただ、それをバズッターのつぶやきから見つけ出すなんて僕のぺろぺろセンサーにも勝るとも劣らない嗅覚ぺろ。
とにかく、配信はしっかりと観測してるぺろから、安心してほしいぺろ。何かが起きたときには、それこそ炎上レベルの拡散の腕を見せてやるぺろ。
もちろん、見つけられる前提の話だ。期待はしてるよ』
「メール?」
「ああ、お世話になってる知り合いからな」
「ふーん」
お世話になってる知り合い。いや本当に、滅茶苦茶世話になっている知り合いだ。例のカメラもこの人からのもらい物。もちろん、タダではない。この協力だってそうだ。
彼は、俺を見込んで投資してくれているのだ。
だからこそ、俺は答えなければならない。
ユニークモンスター。それは、極稀にダンジョンに出現する、そのダンジョンのレベルにそぐわない能力を有したモンスターのことだ。所謂、ダンジョン内に現れるイレギュラー。しかしその確率は生物の突然変異のようなもので、普段生きていてお目にかかれるようなものではない。
この三十年でも、国内目撃数は100件にも届いていないのだから、その希少さはわかるだろう。
ちなみに、そのうちの一件は那覇ダンジョンに現れたステータスに固定値デバフを掛けてくるスキュラであった。難易度Fという最低難易度ダンジョンでありながら、そもそものステータスが低い初心者を相手に固定値でステータスを下げてくるなんて悪辣なことをしていたらしい。
結果、検証板の連中に玩具にされたわけだけど、まあ自業自得だ。
そして、このユニークモンスターと遭遇し、配信に移すことができればまず間違いなくバズる。少なくとも、ユニークモンスターを追いかける人間と、その人間を追いかける連中の目には止まる。そこで配信の再生数を伸ばすことができれば、配信サイトの仕様によって、『おすすめの配信』という項目に配信が乗りやすくなるのだ。
そこから新規客層を獲得できれば万々歳。上手くいけば、急上昇ランキングに乗り、その知名度を飛躍的に上げることができるだろう。
――すべては、いるかどうかもわからない、希少性MAXのユニークモンスターと出会えれば、の話だが。
ただ、俺は信じている。
芥を――芥の持つスキル〈豪運〉の力を。
それが豪運という名を持つのならば、この時この瞬間こそ発揮されるべきだ、と。
「うわー凄い雨だよ」
「もうがっつりと梅雨の季節だからな」
六月に入った曇り空を見上げながら、俺たちは目的のダンジョンを目指すのだった。
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