第13話 伝説の追い込み
また負けた。
今度は背中に花を背負ったアナグマみたいなモンスターが出てきて、たった一撃で武器ごと吹き飛ばされて終わり。
武器を振ることなく、スキルも使えず、何もできずに一層へと叩き戻された。
でも――
「次ィ!」
ちょっとだけ、楽しくなってきた。
楽しくなってきたから、怖くもなくなった。
『ケシ子』
「なに、カメラマンさん!」
『喜べ。視聴者百人超えたぞ』
「えぇ!?」
え、ちょっと待って百人も私のことみてるの!? ――いや、見てくれてるんだ。
だったら――ちょっとだけじゃない。
「次は絶対に倒す!」
すごい楽しくなってきた。
だから、次こそは――画面の向こうにいる人たちに、私がやられるだけじゃない姿を見せないと!
そんな勇み足で向かった先に現れたのは、最初の亀でも、その次の孔雀でもなければ、二回目に私を倒した兎でもない、ともすればタコでもアナグマでもないモンスター。
その姿はビー玉みたいに丸く鮮やかで、宝石のような煌めきで七色に光る、極彩街道にぴったりな姿をした――虫だった。
「む、虫かぁ……」
一応、年頃の女子としては虫は苦手だけど、わーきゃーと騒ぐほどではない。……んだけど、苦手なものは苦手だ。
その姿はカナブンとかカブトムシのような甲虫のようにも見えるが、羽は無く、どちらかといえばダンゴムシのような節足動物のように足がいっぱいある。
「うげぇ……」
い、いけない。笑顔笑顔。でも、ああいう足がたくさんあるタイプの虫って本当に苦手なんだよなぁ……。
なんて言うんだろう。こう、ああいうわしゃわしゃ動いてるの見ると、あれが自分の体に這ってきたら、なんて寒気のする妄想が頭をよぎっちゃうんだよね。
「さーて、どうやって倒そうかな~……」
ただ、出会ったからには戦わなければならない。別にそういうルールがあるわけじゃないけど、もしテレビに出てる冒険者が、出会ったモンスターに背を向けて逃げだしたら、しらけてしまうから。
だから私は逃げ出さない。だから私は立ち向かう。
「てやー!」
いつも通りの〈アースクラッシュ〉が炸裂する。だけど、なんと真横に突然加速した七色虫は上からの攻撃を避けて、わしゃわしゃと無数に生える節足を動かして私から距離を取った。
やっぱり早い。というか、ここにいるモンスターは、あの殻に閉じこもって一切身動きを取らなかった亀以外、全員私より早かった。
だからここまでは想定済み。そして、ここからは未知の領域――
―KIAAAAAA!!
どこからどうやって声を出しているのかわからないけど、金切り声のような気味の悪い音が七色虫から威嚇のように発される。そして、ソレと同時に大きな――バレーボール大の何かが七色虫から吐き出された。
「あれ絶対食らったらやばい奴!」
緑色をしたそれは、見るからに危険が危ない危惧するべき攻撃だ。というか、モンスターが何か変なことをしてきたら、それは避けるべき危険信号だって、今までの死で私は経験してきた。だから、私は全力で回避に専念した。
重いし〈武器召喚〉で手元に戻せるハンマーを手放して、向かって左側に大きく飛んだ。そうすれば、さっきまで私がいた場所に、緑色のそれが着弾した。
「うわぁ、どろどろに溶けてる……やっぱりあれ、受けたらまずい奴だった」
おそらくは、酸弾とか溶解液とか、それっぽい名前があるのだろうその攻撃は、僅かながらも着弾した地面を焼き焦がしていた。あれが人体に当たったとしたら――ゾッとする。
「でもよかった。動きは早いけど、あの妙な弾は明らかに遅い……問題は、どうやって足止めをするかかな?」
いや、最も根本的な問題として、私の攻撃が効くかどうか、か。どうにかして足止めができたとして、七色亀の時のように、あの虫独特の光沢を放つ殻に弾かれてしまったら、それで終わりだ。
じゃあ、どうしたら――
『ケシ子』
「なに!」
『もうすぐ時間だ』
「え、もう!?」
時間、というのは配信の終わりが迫っているということだ。事前に私たちは、配信時間を一時間と決めている。というのも、学生の身で八時を過ぎて外出するのは、常識的に行けないことだろうという理由から。
『下手したら都条例パンチが出てくるからな……ここ神奈川だけど』
なんてひーくんはよくわからないことを言ってたけど、確かに守った方がいいことだと私は思った。そんなタイムリミットが迫っているのだという。
このままじゃ、私は負けっぱなしで配信を閉じなければいけない。それだけは――悔しい。
『そうだな。いいことを教えてやる』
「……?」
『そいつの弱点は腹だ。あとは自分で考えろ』
「……わかった。ありがとう」
迫るタイムリミットの中で、ひーくんからのばされた救いの手――というには、あまりにも雑だけど。でも、おかげで私は見つけられた。
勝つことのできる道筋を――
「頑張る!」
自分を鼓舞して武器を再召喚した私は、ハンマーの頭を下げて手を前に突き出した。
まずは確認だ。
「
発動したのは土属性の魔法。ウサギに突き破られた、正方形の土の壁だ。私が発動させた土の壁は、七色虫のすぐ横に出現する。
その瞬間、七色虫は壁が現れた方向とは逆の方向へと移動する。それからまた緑色の酸弾が飛んできたからあわてて避けたけど、想像通りの行動パターンに思わずニヤリと悪い顔が出てしまった。
だから――ここからが、私の作戦の始まりだ。
「
連続して私は土壁を発動する。発動した先から、壁から逃げるように七色虫が逃げるものだから、更に私はその行く手を塞ぐように土壁を発動し続ける――
「
そして、乱立した土壁は、ついに小さな囲いを戦場に作り上げた。それは、七色虫を取り囲む鳥かごだ。
……相手は虫なのに、鳥かごとはこれ如何に。
いや、そんなことはどうでもよくて、肝心なのは七色虫が逃げ道を塞ぎ切ったこと。魔法を使うのには
十何枚とも出現した土壁が取り囲む中で、狼狽える七色虫。そんな彼の腹の下めがけて、私は――
「
魔法を――土の壁を出現させた。地面からせりあがる土の壁は、七色虫を上空へと押し上げるように出現する。それはつまり、七色虫が空を飛んだってこと。
そして、空を飛んで落ちてくる七色虫が――
「ひっくり返った!」
運よく? 七色虫は、私の目論見通りに殻を下に、そして腹を上にしてひっくり返った状態で地面に落ちて来た。
これが狙い。これが作戦。だから私は、どっかに放ってしまったハンマーを手元に再召喚して、振り上げた。
「〈アースクラッシュ〉!!」
気合を入れるために声に出して、技名を叫ぶ。振り下ろされたハンマーは、確かに七色虫の腹に命中した。
―KIEEEEE……
潰れ消えてしまうような声は、多分断末魔。うっすらと消えていく七色虫の体と共に、地面には小袋が一つ、消えてしまった七色虫と入れ替わる様に置かれていた。
「……勝った? 勝った! やったぁああ!!!」
勝利を確信した私が声を上げて喜んだその時――
―kue
「……」
―keiaAAAAAAAAAAAAA!!
「ちょ、なんでこんな時にぃいいい!!」
すぐ近くにいた七色の孔雀の、改めて受けてもよくわからない攻撃によって、私は一層へと戻されてしまうのだった。
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