第14話 伝説の同級生


―ステータス開示

名:廉隅芥

齢:16


〇ジョブ

 〈槌士〉Lv.14

 補正値

 STR補正:D

 VIT補正:D

 AGI補正:-F


〇ステータス

STR:71

DEX技術:50

AGI速度:40

VIT耐久力:70

DEF装甲:50

POW精神力:92

MP魔力:53

LUC幸運:■■■


〇所有スキル

 -ジョブスキル

〈武器召喚〉〈アースクラッシュ〉〈ハイパワースイング〉〈土魔法:初級〉〈レジスト:インパクト(小)〉〈シールド〉

 -固有スキル

 〈豪運〉


「一体倒したにしては、随分とレベルが上がってるが……まあ、ソロ討伐だしこんなもんか」


 初配信の翌日。昼休みの時間を使って、俺はノートに写した芥のステータスをながめていた。


「ねぇねぇ、このシールドってどんな効果なの?」

「こいつは必殺技系のスキルと同じ、発動にクールタイムが必要なタイプのスキルだ。人によっちゃ発動アクション系スキルって呼んでる。んで、発動すると短時間の間に一度だけ相手の攻撃を防ぐシールドを張ってくれるんだ」

「本当にゲームみたいだねぇ……」

「世界中にできたダンジョンは、世界を裏で牛耳ぎゅうじってる闇の金持ち共が、人間でプレイするゲームだった――なんて陰謀論の話でもするか?」

「難しい話はやめてぇ……」


 そして、椅子を寄せて俺の机で弁当箱を広げているのは、先日配信者デビューしたばかりの芥である。


 極彩街道のモンスターと死闘を繰り広げたというのに、平然と学校に通っているのは、すべてダンジョンの仕様によるものだ。


 ダンジョンで受けた傷は、ダンジョン内を出ると治る。これもまた不可思議な機能だが、そうなっているのだから、詳細な説明を求められても困る。


 実際、ステータスなんて表記だけで実際の人間の身体機能が強化されているのだから、多少の疲れや擦り傷切り傷が治る程度、些細な話だろう。


 それと、現在のケシ子チャンネルの登録者は『314人』だ。新人にしては好調な滑り出し。やはり、途中で入れたカンフル剤がよく効いていたようで、見込み通りそれなりの登録者を入れ込むことができている。


 やはり宣伝力……このネット社会において、誰よりも優れた宣伝をしたものこそが上に登ることができるのだ……ッ!!


 ちなみに初配信の再生回数は『823再生』だ。まあ、配信画面を一度開いただけでも『1再生』と記録されるこの時代、約三分の一に登録ボタンを押させたケシ子の魅力には頭が下る。


 にしても――


「相変わらず、食う量おかしいだろお前」

「いやいやいや。ひーくん、こういう時は気合を入れてたくさん食べておかないといけないんだよ。働かざるもの食うべからずだよ」

「それを言うなら腹が減っては戦はできぬ、だろ?」


 俺の机の上に積み上げられた重箱のようなお弁当箱の段は実に六段。現在、彼女が手に持っているものも含めれば、その数は実に七段となる。


 二段ほど白米に埋もれた弁当箱があったはずなのに、十分と経たずに彼女はペロリと平らげて満足気だ。そして、食後のデザートに購買の焼きそばパンを三つも食べ始めている始末である。


 相変わらずの大食漢。女だけど。平らげたカロリーが、果たして運動エネルギーに代わるのかはさておくとして、その脅威的な胃袋は実に健康的で、見ている分には爽快感さえ感じられる。


 普段はクラスも違えば交友関係も違うので、こうして彼女のお弁当を見るのも久しぶりだ。


 だからだろうか。俺の友人もたくさん居るというのに、クラスの中から孤立してしまったように感じるのは。

 いやまて、なんでクラスメイト共は俺たち二人からそれとなく距離を取ってるんだよ、おい。


愛代めじろォ!」

「ハイハイ何かな虚居うつろい?」


 俺の呼びかけに応じて現れたのは、クラスメイトの一人である愛代めじろ冨田月ふだつきだ。のっぽな背丈にへらへらとした糸目のひょうきんものってのが、彼のもっぱらのイメージであり、そして正しい彼の風評だ。


 そんな彼に俺はく。


「なんだよこの授業参観の親子みたいな距離感のクラスメイトは。お前ならなんか知ってるだろ」

「知ってるも何も、これは話題の二人の時間を大切にしてあげようと、僕たちが気を払った結果だよ」

「むしろこっちが気を遣うぞ、これ」


 改めてあたりを見渡してみれば、少なくとも席二つ分を空けて俺たちの周りには誰も居ない。誰もかれもが教室の端の方に身を寄せて、のんべんだらりと会話に興じているかと思えば、密やかにこちらをチラ見している始末だ。


 逆にやりづらいってーの。


「にしても、廉隅れんぐうさんとお昼ごはんって珍しいね。あ、初めまして。僕は愛代冨田月っていうよ」

「はじっ、(もぐもぐ)初めまして、愛代くん。わ、(もそもそ)わたしは……(ごくんっ)……私は廉隅芥。よろしくね」


 そういえば、愛代と芥は初対面か。芥とは九年、愛代とは一年の付き合いだが、思えば高校でこうして芥と一緒に昼食を取ったのは初めてのことか。


 というか、高校に入ってから芥とは少しだけ疎遠になっていたのも事実だ。こういう時に俺を頼ってくれた芥からの信用を、俺は喜ぶべきなのだろう。


「さて、挨拶も疑問もそろそろに。何の話してたのさ、二人とも?」

「あー……」


 ……まあ、話してもいいか。


「ダンジョンについてだよ。芥がダンジョンデビューしたから、その話をしてたんだ」

「へー、そうなんだ。レベルは?」

「クラス1が14。駆け出しもいいところだよ」

「本当に正真正銘の初心者だ。ってか、虚居! 君は僕たちにダンジョンに行ってることを黙ってたよね! まったく、仲良し五人組の絆に亀裂が入るところだったよ!」

「悪い悪い。いつも仲良くしてくれて、本当に助かってるよ。しかし、お前、昨日のあれ見てたのかよ」

「見てようと見てなくても、生徒の危険行為に先生がカンカンで学校中の噂になってるぐらいさ」

「んじゃなんで俺が呼び出されてないんだよ」

「容疑者が複数いるからね。それにそもそも、ダンジョンでも配信でも有名じゃない虚居が屋上から飛び降りたなんて、直接見でもしない限り誰も信じないよ」

「お前は直接見たいんだな」


 どうやら、俺が屋上から飛び降りたのがあまり騒ぎになっていなかったのは、直接見た当人(おそらくその中でも俺の知人に限られる)以外が、俺が飛び降りたという話を信じなかったのが原因のようだ。


 それもそうだ。大昔の少年X以来、俺はダンジョンになんて一度も入ってない。せいぜいが、ダンジョン攻略の配信者を追っかけるぐらいだ。


「あれ、愛代さんもダンジョン行ってるの?」

「神奈川でダンジョンに行ったことのない学生の方が少ないぐらいだよ、廉隅さん。そして、僕はその中でもかなり上澄みの方に居る!」

「上澄みっつっても、部活にも所属せずダンジョン攻略ばっかりやってる暇人集団だけどな」

「うるさいな! 人数も顧問も居ないから部活として認められてないだけだやい! まあそもそも、運動部が専門でダンジョンチーム組んでる時点で、こっちに人が集まらないことはわかってたんだけどね……」


 余談だが、30年前と運動部の様相は大きく変わっている。何しろ、ダンジョンの攻略度合いで身体能力が大きく変わるのだ。そのため、ダンジョンの挑戦そのものが、トレーニングの一環として取り入れられるほどで、更には冒険者用のルールがあるほどだ。


 今でこそ超人鉄人勢揃いのオリンピックだって、俺が生まれる前にはダンジョンによる身体能力の格差のおかげで、廃止になりかけていたとかいないとか。


 今でこそ高地トレーニングのような特殊なトレーニングの一環として認められているが、まだまだちょっとした問題はなっているらしい。


 閑話休題。


 そんなわけで、運動部に入ればダンジョントレーニングができる手前、ダンジョン攻略ばかりをメインにするダンジョン攻略部はいつだって部員不足。今年も新一年生たちを他の運動部に根こそぎ奪われて廃業気味なのだとか。


 ちなみに、一応俺もダンジョン攻略部ではある。幽霊部員だが。友人としての付き合いだ。


「でさ、よければ廉隅さんもダンジョン攻略部に――」

「だめだ」


 さて、そうだろうと思って待っていれば、当然の如く芥を勧誘しに来た愛代。その勧誘の手を、俺は手刀で断ち切った。


「えーなんでさ」


 保護者のように立ちまわる俺をうっとおしそうな目で見る愛代に対して俺は言った。


「映えないからだめ」

「えー……?」


 俺の言葉に文句を垂れながらも、愛代は仕方ないと、大人しく引き下がるのだった。



 

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