第12話 伝説の挑戦
暗転した視界に光が差す。
気が付けば私は、第一層に戻ってきていた。
「これが、死か……」
痛いとか、苦しいとか、そう言うのを想像していた分、あっけなく私に訪れた初の死亡体験に肩透かしを食らってしまった気分だ。
確か……宝石みたいなキラキラした甲羅をした亀と戦ってた時に、横から現れた綺麗な孔雀に攻撃された……のかな?
正直、気が付けば死んでしまっていたという状況なので、何が起こったのかも何をされたのかもなんで死んだのかもわからない。
でも――
「死んでも復活できるって、なんだかゲームみたいだなぁ」
普段動物園で見るような動物たちが、こちらを殺しにやってくる。ちょっと怖いけど、これが死なないゲームだとすれば、その怖さもちょっとだけ楽しくなる。
だから――
「よし、もっかい」
体の調子を確かめるようにゆっくりと立ち上がって、改めて武器を召喚する。一メートルぐらいの金属の棒についた、四十センチ×十五センチ×十五センチの長方形の鉄塊が、私の手に握られるように出現した。
これが私の武器。これを振るうのが私にできること。馬鹿でドジな私だけど、一人じゃ何もできない私だけど、お父さんの抱え込んだ借金をしっかりと返そうなんてしてる私だけど、そんな私にひーくんは巻き込まれてくれたんだ。
だから、例え十億円なんて大金のすべてを返すことができずとも、ひーくんができるって言ってくれたことに、私は全力で答えるんだ。
『どんな状況でもへこたれるな。逆境を楽しめ。笑顔を忘れるな』
「へこたれるな。楽しめ。笑顔が大事」
ひーくんが教えてくれた言葉を胸に、私は二層へと戻った。
「あ、ひー……カメラマンさん! 戻って来たよ!」
二層に戻ってきてみれば、入り口で待っていたひーくんが出迎えてくれる。返事はない。だけど、十億円の返済を私に任せてくれた彼は、ひたすらにカメラマンに徹してくれている。ずっと、見てくれている。
だから、私も頑張るし楽しむ。
二回目の挑戦。極彩色の花道を歩んだ先に居たのは、硬すぎる亀とも、何をしてきたかよくわからなかった孔雀とも違う、カラフルなウサギ。
二足歩行でこちらを見てくるウサギの瞳は何とも
なんて名前なんだろ。七色兎とか? 七色兎でいいか。
ふるふると怯えるように体を震わせる兎のなんと可愛いことか。でも、油断しちゃいけない。ここはダンジョン。行われるのは命のやり取り。死んでも復活できるとはいえ、気を抜いて挑んでちゃ、何年経っても成長できない。
私に与えられた時間は、一年しかないんだから。
「先手必勝!」
ハンマーを振り上げた私が放つのは、私が持つ唯一の必殺スキル〈アースクラッシュ〉
普通に振るよりも高い威力の出るこれなら、さっきの亀ならともかくすごいダメージに――
「……あれ?」
手ごたえがない。というよりも、兎がいない。
「え、ちょっとどこに――うげっ!?」
きょろきょろと兎の姿を探す私は、横合いから突撃してきた七色の毛玉の攻撃に気づくことができずに、そのままわき腹にもろで食らってしまった。
ちょっと痛い。ちょっと痛いけど……ちょっと痛いだけ。
「さっきの孔雀と違って、何されたかわからないってわけじゃないね」
思ったことを口に出す。これはひーくんに教えてもらったことじゃない。これは、私が必要だと思ったこと。
昔憧れたお父さんが関わってた、アイドルたちがやってたこと。
だから私も、彼女たちに近づくために真似するのだ。
「目の前から消えちゃったけど、たぶん早く動いただけなのかな? ただ、早いだけで攻撃力がすごい高いってわけじゃなさそう。少なくとも、突進の一撃で倒されちゃうってほどじゃない。さっきの孔雀とは大違いだね」
本当に、あの孔雀に何をされて私は即死したのだろう。あとでひーくんに録画みさせてもらおうかな。
「やぁ!!」
そんなことを考えているうちに、私は次の攻撃を七色兎に仕掛ける。もちろんこれもすばしっこい七色兎には簡単に避けらてしまう。だけど、これでいいんだ。
「やっぱりきた!」
私の攻撃を避けてから、攻撃を仕掛けてくる。私が先制攻撃を仕掛けるまでこっちを見てきていたのに、私が攻撃を仕掛けて来たら襲い掛かってきて、さっきのようなにらみ合いに戻ったことで、私はこの七色兎の行動パターンを考えた。
だから、私の攻撃を七色兎が避けてから、あの七色兎が反撃に出るこのタイミングで――
「
私は魔法を発動した。
ふふん、どうよこのカウンター。こっちはひーくんに教えてもらった技で、槌士はジョブスキルで土属性の初級魔法を覚えられるらしい。なので、昼間から集合時間までの三時間とちょっとの間に、私はネットで調べて、使えそうな土魔法を少しだけ覚えて来たのだ!
これを使えば、地面から土の壁が生えてくる。その高さ、なんとびっくり二メートル。横幅も二メートルの正方形の壁が突如としてせりあがってしまえば、あの七色兎もびっくりするに違いない。それどころか、あの勢いのまま壁にぶつかって気絶なんてことも――
――ミシッ
「……みし?」
勝ち誇った私の元に届いた、土の壁がきしむ音。それはそのままひび割れに変わり、勢いよくこちらへと突っ込んできた七色兎によって、私が作り出した土壁は木っ端みじんに砕かれてしまったのだ。
「な、なんでぇえええ!?!?!?」
そうして飛んできた兎の攻撃によって、私は二度目の死を迎えることとなる――
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