第8話 伝説の目論見


「あー……っと」


 改めて、芥のステータスを見ていこう。


 まずジョブ。


〇ジョブ

 〈槌士〉Lv.1

 補正値

 STR補正:D

 VIT補正:D

 AGI補正:-F


 〈槌士〉近接武器系統の前衛ジョブで、身体能力系のステータスの中でも、STRとVIT《耐久力》に高い補正を持つジョブだ。


 個人で運用することも、チームで運用することもできる比較的万能な立ち回りができる、癖のないジョブだ。強いて言うならば、若干のAGIにマイナス補正がかかってしまうところが気になるだが、現段階では然したる問題ではない。


 そしてステータス。


〇ステータス

STR:36

DEX技術:22

AGI速度:19

VIT耐久力:35

DEF装甲:27

POW精神力:50

MP魔力:25

LUC幸運:■■■


 いったんLUC幸運のことは措いておこう。

 そうしてこうしてステータスだが、STRとVITが他に比べて高いのは、〈槌士〉のジョブの影響だろう。


 余談だが、補正値は最低値となるGから始まり、規格外のEXを除いてSが最高値として、そのランクごとにステータスを増加させてくれる。しかし、マイナスの補正値も存在し、こちらもまたG~Sのランク分けがされており、そのランクに合わせてステータスが下がってしまう。


 そのため、群を抜いてAGIが低い原因は、〈槌士〉のジョブのせいだ。ただ、妙に高いPOW《精神力》が気になるな。これは精神的な力を示す数値であり、幻覚や精神操作などへの抵抗力などに影響する――と言われている。


 まあ、あの親の元でいろんなことを我慢してきた芥だからこそ、なのだろう。


 そして、最後にスキル。ここが一番の問題だ。


〇所有スキル

 -ジョブスキル

〈武器召喚〉〈アースクラッシュ〉〈土魔法:初級〉〈レジスト:インパクト(小)〉

 -固有スキル

 〈豪運〉


 ジョブスキルは、まあ問題はない。前衛系のジョブ共通の、武器を召喚する〈武器召喚〉に、必殺技〈アースクラッシュ〉。それと、おまけ程度の〈土魔法:初級〉と、常に効果を発揮する衝撃吸収のスキル〈レジスト:インパクト〉と、これらはすべて〈槌士〉を獲得すれば自然と付属するスキルだ。


 問題は、固有スキルの方。


 なんだこの〈豪運〉って。LUCの意味不明な表示を見る限り、これはステータスに影響する常在型のスキルであることは明らか。しかし、ステータスが見えなくなるスキルなど、俺は聞いたことも見たこともない。


 これはあとで調べておくとして……。


「なんで槌士にしたんだ?」


 俺は、シンプルに気になることを芥に訊いた。女子に人気なジョブといえば、弓士や魔術士あたりの魔物に近づかない遠距離ジョブであり、近接系のジョブは比較的選択されずらい。


 もちろん、変なことではないのだが――こういったところを明確にしていった方が、今後のプロデュースにも活かすことができる。


「えっと……憧れ、かな?」

「憧れか。そういや、お前の親のせいで忘れてたけど、廉隅プロはダンジョンアイドルをプロデュースする会社だったな」

「う、うん! そうだよ。それで、昔のお父さんの知り合いの人の中に、かっこいいお姉さんがいて。その人がハンマーを使って、バッタバッタと敵をなぎ倒してて、それがかっこよかったから……」

「なるほど。いい理由だ」


 憧れた人が居たから。ありきたりな理由だが、悪くはない選択動機だ。それに、俺の憧れの人も、ハンマーを使って戦っていたしな。


「憧れの人間がいるのはいいぞ。少なくとも、戦い方の参考にすることはできるからな」

「そ、そう? それならよかったー」

「おいおい、まだ安心するのは早いぞ、芥」

「……嫌な予感」


 はへーと一仕事を終えたような息を漏らした芥だったが、これはまだ準備の準備だ。冒険者のスタートラインに立つ準備を終えただけであり、スタートラインにすら立っていない。


 俺は時計を確認する。時間は午後二時半。ゴールデンタイムには、まだ早い。


「よし、芥」

「なにかな?」

「一旦解散だ。夕方六時半に、お前の家に行くからまたここに来るぞ」

「えぇ!? な、なんで……?」

「そりゃ、借金返すために決まってるだろ」

「いや、そうなんだけど……そうなんだろうけど! なんで六時半なの? ダンジョンに潜るなら、別に今からでもいいんじゃ……」

「配信機材を揃える必要があるからな。それに、武器はスキルで召喚できるが、防具はそうともいかない。そういうのは自腹で買わなきゃならんからな」

「え、えと……配信機材……?」

「ああ、そうだ。配信機材だ」


 そういえば、俺の目論む返済計画を彼女には話していなかったな。肝心なことを忘れていた。俺の悪いところだ。反省反省。


 反省も十分に、俺は改めて彼女に言った。


「要約すれば、芥にはアイドルをやってもらう。お前の父親が昔そうしたように、俺がプロデュースをして、お前が躍る。それをネットに乗せて、ファンを獲得する。それが、俺たちの借金返済計画だ」

「……え?」

「安心しろ。お前は顔もよければスタイルもいい。性格も俺が太鼓判を押してやるし、何よりも愛嬌がある」

「えぇ!?」


 俺の言葉に呆ける彼女を、追撃を仕掛けるように褒めたたえた。しかしながら、残念なことに、そして素晴らしいことにすべては事実だ。


 昔から、そして今もなお様々なダンジョン配信者を追いかける俺が言うのだから間違いない。


 ただ、顔がいいだけじゃだめだ。性格がいいだけじゃだめだ。話題性がなければいけない。流行りを作るには、視聴者を捕まえるとっかかりを作らなければいけない。


 だからこそ、今しかできないスタートダッシュを決めるしかないのだ。


「始まりは、そう――『ダンジョン初見女子の日和見ダンジョン観光劇!』ってところか?」


 配信タイトルを考えながら、俺は夢想する。彼女ならば、やってくれると。


 なにせ、幸運なことにこのダンジョンは難易度B。難易度Bといえば、初心者キラーと呼ばれる、中堅と新人を隔てる大きな壁なのだから。


 芥には悪いが、ここは大きな壁にぶつかってもらう。


 それが、その方法こそが、彼女の魅力が最大限に惹きだされるはずだから――

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