第7話 伝説のクリスタル
ダンジョン。
それは約三十年前に突如として世界各地で発見された、モンスター蔓延る地下迷宮のことを示している。現代物理学では説明できないような説明不可能な方法で発生したこれらは、三十年経った現在でも解明されていない謎が多い。
それでもこの未知の構造物が社会に受け入れられているのは、それが安全であるから。――というよりも、安全に取り扱う方法が確立されているからであり、そして確実に人類側に利益があるからだ。
日本だけで大小さまざまなダンジョンが100近く存在するとされており、それらは内部に居るモンスターを定期的に間引くことで、内部のモンスターが外へと飛び出すのを防ぐことができる。
そして、それらモンスターを駆除するたびに、倒した人間がどんどんと強くなっていくのだ。それは明確にステータスという形で反映され、ダンジョン内部に存在するステータスクリスタルを利用することで、自分の強さがどれほどのものなのかを確かめることができるようになっている。
「ほほぉ……これが例のステータスクリスタルというモノかぁ」
さて、俺は日本に100近くあるダンジョンの内、最も最寄りの難易度Bのダンジョン、彩雲町『極彩街道』の入り口――第一層に来ていた。
「芥はまだ冒険者じゃなかったよな」
「うん、全然知らない!」
芥は今時珍しい、冒険者としてダンジョンに潜ったことのない若者だ。どれだけ珍しいかといえば、スマホにSNSアプリを入れてないぐらいには珍しい。
もちろん、年齢層が高くなれば冒険者経験のある人間は少なくなってくるのだが、それは逆に言えば若者の多くは、一度は冒険者としてダンジョンに潜ったことがあるということでもある。
なにしろ、ダンジョンに潜っている姿を配信することが、人気コンテンツとしてネットを騒がしているような時代だ。流行りものに敏感な若者ほど、冒険者としてダンジョンに飛び込んでいくというモノだ。
それもこれも、ダンジョンでは死ぬ心配がないというのが理由だろうけど。
「まず知っておくことその1。これはよく覚えておけよ。このステータスクリスタルは、自分の強さを確かめたり、ジョブを設定したりする以上に、
「
「そう。一層より下のダンジョンは不思議な理が働いていて、現実世界とは全く違う法則に
「え、それって死体がこっちに来るってこと!?」
「いや、それは違う。どちらかといえば、死ぬ前の状態でこちらに転送される。つまり、ダンジョン内部じゃ人は死なないってことだな」
例外はあるけどな。
まあ、例外は例外だ。ここで話す必要はないだろう。
「ほへー、便利な装置だことで」
「そう。だから、基本的に死んで覚えることが、ダンジョン攻略の肝になってくる」
その死ぬ過程でトラウマを負って、冒険者を引退する奴も多いんだけどな。痛いのは嫌だ、臨死体験は嫌だ、って言うのは、持っていて当然の感情で、それを否定することなんて誰にもできない。
「さて、んで次に知っておくことその2だ。それはジョブだ」
「ジョブ?」
「ああ、ジョブだ。これはいうなれば、その人間の成長の方向性を定める称号とでも思ってくれればいい」
「えっと、つまり現実みたいに、それができるからその仕事に就くんじゃなくて……その仕事に就いたから、それができるようになるってこと?」
「いや別に、出来なくても仕事には付けるぞ。覚えればいいんだからな。……いやまあ、そんな理解で問題はないか」
例を挙げれば、『槍士』というジョブに付けば、槍を使う技能が向上し、素早さが上昇するといった感じだな。もしそれが『弓士』であれば、弓矢の技能と共に、『遠見』という文字通り遠くを見るスキルを獲得する。
そうして、それぞれに合った戦闘スタイルを見つけて、ダンジョンを進んでいくのが冒険者だ。
ちなみに、冒険者になるのに資格は入らない。冒険者という名称も、『ダンジョンを潜る人』というものを、ゲームに
「んで、ジョブにはジョブレベルというモノがある。これはモンスターを討伐すると、その強さに比例して獲得できる経験値によって、上がっていくステータスだ。これが高ければ高いほど強い、みたいな基準で考えてくれれば構わない」
「つまり、強くなるにはレベルを上げるのがいいわけだ」
「その通り。理解が早くて助かるよ」
まあレベルを上げるほかにも、ダンジョンで発掘される『遺物』を収集したり、スキルに頼らない技術を磨いたりとできることは他にはあるが――とはいえ、レベル上げが一番手っ取り早いのは確かなので、修正する必要はないだろう。
「そして、レベルが上がれば上位ジョブに変更できるようになる」
「おお!」
「平たく言って、下位よりも強いジョブってことだな。純粋なスキルのパワーが上がるほか、様々なことができるようになる。例えば、剣を持ったまま魔法が仕えたりするようにな」
「すごい!」
こいつ、本当に理解してるんだろうか……? いやまあ、成り行きで覚えていけばいいか。
「本当は、一か月ぐらいかけて芥に合ったジョブを見つけるのが一番いいんだけど、生憎と俺たちには時間がない。だから、芥。ステータスクリスタルに出てくるジョブの中で、直感でお前に合ったものを選択しろ」
「え、いきなり!?」
「ああ、いきなりだ。そしてこれからもいきなりはたくさんお前に訪れる。だが安心しろ。どんな時でも、俺がお前の隣で助けてやるから。なんたって俺は伝説だからな」
「わ、わかった!」
わかった、と言った彼女は、俺に教えられるがままにクリスタルに触れて、開示されたステータスのジョブを決定する。
ステータスとは素質だ。もちろん、努力によって上げることもできるが、極稀に生まれ持ってのスキルを持っている奴もいる。かくいう俺もその一人だった。
だから、芥にもそんなスキルがあれば、と。これから彼女に待ち受ける
「よし……これに決めた!」
そう言った彼女は、最後の確認に、と俺に対してステータス画面を見せてくる。
そこに描かれていたのは――
―ステータス開示
名:廉隅芥
齢:16
〇ジョブ
〈槌士〉Lv.1
補正値
STR補正:D
VIT補正:D
AGI補正:-F
〇ステータス
〇所有スキル
-ジョブスキル
〈武器召喚〉〈アースクラッシュ〉〈土魔法:初級〉〈レジスト:インパクト(小)〉
-固有スキル
〈豪運〉
「……なんだこれ」
表示された彼女のステータスを見て、俺は頭を抱えた。
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