第4話 囮調査 後編

「あった、これだ」


資料庫の奥で、ジンが目的のものを発見する。

出資先の者やその所属組織、その日付。他にも出資と引き換えに結ばれた、双頭の番犬に対し敵対する様な旨が記された契約書。これがあれば、襲撃者の正体を掴むための標となりうる物であった。

シュ、と突如風を切る音が聞こえた。

次の瞬間、豪快に部屋が揺れる。


「あ?外したか」


そこには、大きな斧を振り下ろした男が居た。

が、斧の先にジンの姿はない。


「んじゃあそこだな」


男はそのまま振り向きざまに斧を大きく振るう。

周囲の棚を巻き込み、豪快に吹き飛ばす。

しかし、そこにもジンはいない。

部屋は暗く、物が散乱し埃が舞う。

男は周囲を見回すが人影一つ見当たらない。

静まった部屋の中、男の背後からキラリと輝く一閃が襲う。

キィン、と甲高い金属音が響いた。


「後ろからとはあぶねぇことするなぁ」


間伸びした男の声が響く。

男の首を狙うジンの短刀と、背から出した男の鉈がジリジリとせり合う。

そのまま男の背を蹴り、ジンが距離をとる。


「おめぇーが侵入者かぁ、ここを狙うなんて何考えてやがんだぁ?」


言葉を発し、そのまま鉈を投げつける。

素早くそれを躱しつつ、ジンがナイフを投擲する。

男もゆらりと避け、斧を抱え上げる。

が、視線の先にはジンの姿は無い。

再び辺りを見る。が、その瞬間部屋中に閃光が走った。


「やべ――」


男の声よりも早く、轟音と強風が続く。

部屋が爆発に包まれたと気づいた時には既に遅い。

屋敷に大きな振動が響き渡り、レイスを追う警備員達もその異常に気付く。


「な、なにが起きた!?」


足を止める者、レイスを追いつつも動揺を隠せない者。

レイスもその音に気付く。


(合図!)


急遽、進路を変え屋敷の裏口へと向かう。

そして一枚の札を床に置き、そのまま外へと出た。

瞬間、再び轟音と共に屋敷の裏口から土塊が突き出した。


「これで時間は稼げるな、このまま撤退だ」


足早にその場を去る。

屋敷に残された警備員は何が起きているかも分からず、ただ慌てふためくだけであった。




双頭の番犬、第2諜報部。

部屋の中には、レイスとジンの姿があった。


「ありがとうレイス。奴らに見つかりはしたけど、目的の達成はできた」

「え、見つかったって大丈夫なのか?」

「顔は見られてない。けど、強い奴だ」


資料庫で戦闘になった男について話す。

諜報員とはいえ、ジンはSランクの実力がある。それも、Sランクの中で上位に入るほどの。


「まぁ、目当てのモンが手に入ったならいいか」

「ああ。いつも世話になる」

「いいって、他のやつらはともかく、マスターや部長、お前に対しては信用もしてるし感謝もしてる。俺が力になれるならいつでも協力する」

レイスは優しい表情を浮かべる。

第3人事担当部以外では滅多に見られないものだった。


「詳細、わかったらすぐ伝える」

「ああ、よろしくな」


レイスが部屋を出ようとしたとき、ジンはふと思い出した様に口を開く。


「そういえば、最近ダンジョンの入り口でレイスを見たって話、聞いた」


ピクリ、とレイスの足が止まる。

背を向けたまま、ぽつりと言葉を返す。


「・・・ああ、やっぱダメだったわ」


その一言で、何かを察した。


「そう。無理しなくていい」

「ありがとな。まぁ、気長に行くわ」


そのままレイスは部屋を後にする。

視線を外へ向けたまま、ジンは小さくため息をついた。

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