失われた心と継がれる青

僕はとても信じられないものを見たんだ

 エストエフ、宇宙空間。情勢が極限まで悪化していても物流を止めることはできず、貨物船の輸送は行われていた。箱の様なものに操縦席を付けた貨物船の前に、複数の人型機動兵器が押し寄せる。手にはライフルを持っており、その銃口を貨物船に向ける。

「待って。貨物を強奪、船は放置で」

 そのうち一機に乗っているのはかつての響、クリュードだ。仲間が今にも発砲しそうな状態であるが、どうにか制止する。パイロット用の体に密着するタイプのスーツとフルフェイスのヘルメットを装着している。これで宇宙空間にも出られる優れものだ。

『目的は殺戮だ! 武器に使えない生活雑貨などいるか!』

「それでも我々の状況は芳しくない。物資はあるだけほしい。それに、こう殺し続けていては宇宙船を操縦できるスタッフが尽きて、強奪もできなくなる」

 仲間は殺意に満ちており、この現状で社会生活を謳歌しているものたちへの憎しみを募らせる。クリュード達、遺伝子編集を受けたデザインベイビーは捕獲次第殺処分されることになる。それは本当に遺伝子編集を受けたかどうかに関わらず、怪しまれたら終わり。受けていない証拠を出すという悪魔を証明する以外に逃れる必要がある。

「みなさん、貨物コンテナのパージお願いします。物資が手に入れば、命まで取りません」

『お、お前ら……デザインベイビーのテロリストか!?』

 クリュードは国際共通チャンネルによる無線で貨物船に呼びかける。貨物船のパイロットたちは怯えるだけで行動しない。テロリストの言うことを聞いたところで、命が助かる保証はないからだ。貨物コンテナを切り離したら用済みとして撃たれる可能性がある。

『いいから殺せ!』

「待て、せめて物資だけでも……」

 他のメンバーが復讐一本で動く中、クリュードは冷静であった。確かに彼も反遺伝子編集のテロで重症を負い、収容所で強化人間手術の実験台にされた。一切の憎しみがないわけではないが、周囲が殺しに来る環境で生き残るにはという思考を巡らせると彼らの行動が悪手だと理解できる。

『うるさい! ぶっ殺せ!」

 だが仲間は止まらず、貨物船にするそれとは思えないほどライフルを乱射する。クリュードの機体には貨物船からの悲鳴が聞こえた。それを彼は切らずに聞き届ける。

「……ごめん」

 本当なら、彼もこんなテロなど乗り気ではない。ただこのグループから離れれば一人、生き残る可能性が低くなる。

 もしかしたらどこかで暴力的な行為をせずにほそぼそと生きているグループもあるだろうが、既にテロに加担した自分が加入することはできないだろう。仕方なく、このテロ組織に参加するしか命を繋ぐ術がない。

 じゃあ死ねよとなるところだが、他人を殺さないために自ら命を絶つと決めるほどクリュードは強くない。

『クリュード! なぜ撃たない! やる気がないのか?』

「連邦軍が来る。無駄撃ちは厳禁だ」

 クリュードはずっと、周囲を警戒していた。貨物船からの救難信号を聞きつけ、哨戒中の連邦軍がやってきた。

「ほら来た!」

 クリュードは早速発砲し、戦闘を開始する。向こうも会敵次第発砲している。

「この!」

 彼としては自身を直接脅かす連邦軍との戦いはちゃんとする気であった。それなら戦う理由も意味もある。それでも、遭難者を装って家族まで殺したのは彼も後悔していた。

(なんでボクは……あんなことを……)

 これまでの消極的な態度が原因で、交渉の材料として売られそうになったからか。殺したくなければ自分が死ねばよかったのか。向こうに捕まっても死ぬとは限らないはず。いろいろな考えが戦闘中に巡ってしまう。

「しまっ……」

 それはまさに命とり。進行方向に突如、輝く幕が現れる。対機動兵器用のエネルギーバリアだ。進路に配置して展開、罠の様に使う装置である。

「がっ……ぁあああああっ!」

 バリアに激突した機体は高圧の電流に飲まれ、クリュードの全身に激痛が走る。機体への負荷も大きく、バーニアが爆ぜる。

「ぐ、う……ぁああっ!」

 コクピット内部も高温になり、コンソールが破損しモニターも黒くなった。生身の人間ならば殺せる出力に設定しているのか、パイロットスーツも熱で溶けて肌に張り付きながら焦げ臭い匂いを放つ。スーツの留め具が破損し、露出する肌を熱が直に焼く。

「かはっ……ぁ……」

 当然強化された人工臓器にも負荷が掛かり、吐き出した血がヘルメットのバイザーを汚す。バリアの展開が終わり、クリュードの機体はどこかに流れていった。誰も拾うことはなく、連邦軍もこれを無視して残党の処分に向かった。


(ボク……どうなって……熱くて、寒い……)

 しばらくしてクリュードは朦朧した意識の中、真っ暗なコクピットにいた。自分を下へ引く重力を背中に感じる。暗いのは機体のカメラが死んだのか、モニターが逝ったのか、壊れたのが義眼の方か判別ができない。

 その時、中に光が差す。誰かがコクピットをこじ開けてきた様だ。

「誰かいるのか?」

 その言葉の意味は分からなかったが、クリュードは伸ばされた手を無意識に取り、破損した機体から取り出される。外は白く、リゾートコロニーや地球でしか見られない雪というものが積もっていた。


   @


「あー、こんな急に暑くなるとは思わなかった」

 遊騎は春特有の急な寒暖差に悩まされていた。昨日寒かったからいいだろうと水筒を持たずに登校したら思いのほか暑く、道中のコンビニで麦茶を買うことにした。

 他の飲料が量を減らしたり値上げしたりする中、テレビでよく見るおっちゃんの描かれた麦茶は年々肥大化の一途だ。ありがたいし頼りになる。ペットボトルカバーに収まらない以外欠点がない。

「ん?」

 麦茶のついでになんか買うか、と思った彼は雑誌コーナーであるものを見つける。常時チョコレートが出るとはいえ、チョコレートしか出ないので他のお菓子は買わねばならない。そんなことを考えていたら見覚えのある顔が飛び込んできた。

「え……?」

 それも雑誌の表紙で。艶やかな黒髪に映える緑の瞳は響のもの。義手が目立つ様に頬杖をつくポーズで、もう本人なのが確定した。

「な、なんで?」

 遊騎は混乱の中、雑誌を手に取る。普段絶対に読まないファッション誌であったがそんなことは気にしていられない。表紙グラビアだけでなく他の写真もあった。

「あ」

 ペラペラページをめくっていると、袋とじまである。これそういう雑誌なんですかね? そんな疑問が遊騎の脳内に巡った。たぶん違う。

 購入が確定した瞬間であった。


「あ、それ今日発売なんだ。髪長いでしょ、三月の撮影だったからね」

 同じクラスで響の友人、緋奈にこの雑誌を見せると発売日なんだくらいの反応が返ってきた。

「へぇ、よく撮れてるじゃない。奏さんがてれびくんとか買うんだけど、いやー児童誌なんて馬鹿にしていたが味わい深かった。こういう雑誌の写真って本当綺麗なのよ」

「で、結局なんで響が雑誌なんぞに?」

 最大の問題は響の写真が載っていることだ。モデルという話は聞いたことがない。雑誌にはある義肢メーカーの提供であることは記されているが、もう一人の右腕と右足を義肢にしている女性と異なり本業でない影響か名前が記されていない。

「ああ、これね。義肢作ってるマニュピレーター.incって会社があるんだけど、そことの共同で義肢の露出に抵抗がない風潮作ろうってね。なかなか義肢使う人かつモデルやる人がいなくて。響の生活用義手もそこのなんだ」

「へぇ、そうなのか」

 緋奈によると所謂社会貢献であった。自分がどうの、というより周りの役に立ちたいという意識が響らしい。しかしこの写真はよく撮れている。プロというのは腕も違うのか。

「気になるな」

 遊騎はハサミで丁寧に袋とじを開ける。ファッション誌で袋とじなんてどういうことなのか。その中身は義手を目立たせるためか、上を脱いで寝そべったポーズをしている。まだ髪が長かった時期で今よりぱっと見が女性的なので、完全にそういうグラビアだ。

「うっ」

「あー、結構大胆なのも撮ったね」

 色気でいえば現在の方が増しているが、そりゃ袋とじになるわ、という劇物だった。肌の露出が増えると、義手の硬さと素肌の柔らかさのコントラストが目立つ。

「ふぅ、何その雑誌?」

 遊騎が雑誌にくぎ付けになっていると、アンジェが教室にやってきた。最初に出会った時の戦闘用義足を使っているため、靴の脱ぎ履きができない。毎回校舎に上がる時、足を拭いているのでなかなか大変そうだ。そもそも屋内で履物を脱ぐ文化が日本特有みたいなものがある。

「あれ? 同じの?」

 そして彼女は自分の持っている雑誌と遊騎のが同じと気づいた。遊騎はどういう意図なのか困惑した。

「なんでアンジェまで……」

 アンジェは寮生なので遊騎みたいに通学中にコンビニで見つけるということはない。

「それがね、マニュピレーター株式会社ってとこから生活用義足の提案が来てね。取り急ぎ足首から先を取り換えられる様にって……。でもそこをよく知らなくてどういう会社なのか調べるために著作物を。義足の互換ユニットとか、半ば軍事機密流すようなものだし」

 マニュピレーター.incは白楼と繋がりでもあるのか、転校する情報を掴んでコンタクトを取りに来た。それでアンジェが考えているというところだ。

「あー、エストエフの頃はジーラインさんに全部考えるパートぶん投げられたけど、今は連絡取るのも大変ね……」

「ジーラインは? エストエフにいるのか?」

「南極。ゲートの管理のためにね。なんかヤバイ山脈あるらしくていろいろ大変なのよ」

「そっかぁ」

 軍人らしく思考を上層部に任せて命令を実行するスタイルがここで仇になった。いくら通信が進んでも南極は交信が困難で、ジーライン個人も忙しいだろう。

「ジーラインさんは私の考えで動けって言ってたけど、義足の互換性にまつわるデータは要相談でしょ」

「でも一応お前がどうしたいかくらいは決めておいた方が相談の時便利じゃないか? 特にジーラインはそういうの聞きそうだし」

 ただ相談すると言っても、遊騎は自身の考えに許可を得る形の方がいいと思った。一から通信でやり取りするより、何ができで何がダメかを明白にしやすい。

「あー参ったなぁ。ほんと私ってジーラインさんに判断投げてきたからなぁ……」

 アンジェは嘆くが、その分ジーラインを信頼していたことが伺える。ふと彼女は遊騎が開けている袋とじを目にする。

「……むかつく」

「え?」

 そしてなぜか苛立ちを隠せない。

「私さ、エストエフ連邦軍入る時に広報部の配属だったのよ。軍のアイドル。負けてられないよね」

「変なところで対抗心燃やし始めた」

 遊騎は「あ、そういう過去なんだ」と意外であった。一方緋奈はあきれていた。

「事務系の職員からよく私ボコすまで強くなったわね」

「義手つける時に強化人間措置もやったの」

 スナック感覚でみんなして肉体を改造しすぎである。とはいえエストエフの技術は桃源世の呪術、ヘルサイトの魔物融合と違って基幹世界の延長みたいな部分がある。

「だったらたぶん響がパイプ持ってるだろうから、話付けて来ようぜ。ジーラインには許可取るだけで済む様に」

「そうね。ていうかあんた妙に事務手続きに詳しい気がするわ」

 遊騎は話を進めることにした。部長をやっているから、というよりだからこそ部長という点が大きい。

「まぁうちお袋がパティシエでな、コラボとかの企画手順とか見て覚えてんだよ」

「へぇ。今度ジーラインさんのお土産にしよっと」

 というわけで響のクラス、十一組に三人は向かった。教室の前では雑誌を女子生徒に差し出されながら、何かを頼まれる響がいた。

「さ、サインですか?」

「お願いします!」

「なんというか……普通に署名することしかできませんよ?」

 なんとサイン。だがよく有名人がやるサインはデザインを考えて練習して……という工程を踏む。響はサイン要求自体が想定外だったのでなんの準備もしていない。

「それでも!」

「ボクすっごい乱筆ですよ?」

「それでもお願いします!」

 そんなわけで響はたどたどしい手つきで雑誌の表紙にサインを書く。アンジェは用事を思い出し、彼に話を持ち掛ける。

「ねぇ響、私もその会社から義足の制作の話来てるんだけど、モデルもやるって話通しておいて。依頼があればOKだって」

「え? あー、そうなんですか。じゃあ調整しますね。直近だと6月に撮影会やるので。スキンケアとか教えておきますね」

 話を聞くなり、彼はサインの時と打って変わってなれた手つきでスマホを使い、連絡を入れる。モデルとして被写体になる以上、体の手入れにも余念がない。

「それ考えると髪切ってよかったのか悩むわ……」

 響を断髪した張本人、緋奈は髪のことを考える。

「ボクらは一般人代表みたいな感じで、むしろ本業さんほどかっちりしないでって依頼です。でもスキンケアして損することはないのでやっておいてもいいかと」

「あー、なんかズッキーニがどうとかでデブったモデルが最近出てるんだけど、そうだよね普通の人っぽさ出すんなら太ってなくてもそんな感じでいいよね」

 たぶん遊騎はルッキズムとか言いたかったのだろう。政治的に正しいとかでそういう風潮が続いているが、普通の人が着てるところを示すなら響の様なスタイルでいいわけだ。

「普通……?」

 しかし響はもとより、アンジェも見た目はいいので普通感がない。

「義肢が世間的に見慣れたものになればいいので」

 響の目標としてはそこにある。ただ遊騎には気になることがあった。

「再生治療とかって進んでないのか? なんたら細胞はありまぁすとか」

「あー、IPS細胞とかの再生治療ですね。あれは臓器みたいな小型で緻密なものを作るならいいんですけど、四肢みたいに大きいものはちょっと……。なので義肢にもまだ出番はあります」

 単純にサイズの問題であった。たしかに手足は大きすぎる。培養に時間もコストもかかりそうだ。

「エストエフはどうなん?」

 響を生んだ世界、アンジェのいたエストエフのことについて遊騎は尋ねる。すると彼女は口を濁した。

「あ……えーっと、遺伝子編集禁止法でデザインベイビー狩りが続いてね、それが終わったら機械義肢や臓器持ってる人を襲い始めたの」

「地獄かよ」

 ドン引きする遊騎。エストエフという世界は人類の悪いところ詰め合わせみたいな部分がある。元々は遺伝子編集した子供が産めるのは富裕層だけで、格差が広がると言って禁止しようという過激な活動が広がった。今度は機械義肢、人工臓器が格差を広げる悪となったのだ。当然エストエフの技術も一足飛びで生まれるのではなく段階を踏む。再生治療が確立する前に臓器の代替として使った者もおり、生まれる時のみお世話になる遺伝子編集とはユーザー数も比べ物にならない。

「フッ、エストエフは愚か……」

「めっちゃ嬉しそう」

 響はエストエフの末路を聞いて満足していた。緋奈でさえここまで満足げな響は見たことない。

「それで私が学校そのものを勉強する、外交を作るという目的で送られてるの」

「待て、学校制度も消し飛んだのか?」

 さすがに学校制度くらいあるだろうと思っていた遊騎だったが、エストエフの惨状は想像以上だった。コロニーがめっちゃ落ちてきていても不思議ではない。

「消し飛んだ……というより歪んだって方が正しいわね。企業の介入で食育とか逝ったし」

 アメリカでは食品メーカーが学校教育に介入した結果、食育が終わったという噂もある。それがマジかつ食育以外の分野にも広がっている状態だ。

「ほんと、母星にコロニーたくさん落ちようがくっそ高い教材買わせるから初等教育さえハードル高くなっちゃって。いくら政府で教育費下げても教材のメーカーが結託して値段釣りあげるのよ」

 自由経済の悪いところ全開であった。教材の費用がアホほど上がった結果、義務教育を受けられない国民が爆増したとさ。

「モルカー人類に愚かさは笑える愚かさだけどエストエフの愚かさは笑えない愚かさ……」

「めちゃくちゃ喜んでる」

 一方で響はその惨状を聞いて楽しげ。自分を追い詰めた社会が自滅同然で崩壊しているので当然であろう。これには緋奈も困惑が隠せない。


「ただいまー」

 その日の授業と部活を終え、遊騎は帰宅した。母はまだ店におり、家では祖母が何かを読んでいる。リビングの椅子に座っているが、彼女は新しいものがあれば抵抗なく試していくスタイル。昔ながらの和室にこだわらず、こっちの方が楽だわと遠慮なく使っていく。

「おかえり」

「その雑誌……」

 なんと、今朝遊騎が買った響が表紙になっている雑誌であった。

「おお、昔馴染みの晴れ姿なのでな……しかしこれ風邪ひかんか?」

 心配が明後日の方だが、誰か知り合いでも出ているのかと遊騎も自分の雑誌を確認する。

「俺も友達が表紙になってるからつい買っちまった。ばあちゃんのダチも出てたのか……」

「友達というより……恩人だな。表紙にもなって、立派になったものだ」

 裏表紙かな、と遊騎は確認するが裏は化粧品の広告で人の写真はない。

「義手を使っている人のためにとは、相変わらず誰かのために頑張っているようだ」

「え? それって」

 まるで響のことをピンポイントで指すような言葉に遊騎はもしやと聞いてみる。

「この表紙、俺のダチなんだけどまさか……」

「お? そうなのかい? この子だよ、遊介をうちに連れて帰ってくれたのは」

 祖母によると、亡くなった遊騎の父、公界遊介の亡骸を送り届けたのが響だったらしい。

「南極に行くってことは、骨も拾えないこともある。私たちが遊介を弔えるのはこの子のおかげ。生きてるか死んでるかもわからないのが一番辛いからね。あの後、いろいろあって会えてないがすぐに世界を救ったそうじゃないか」

 響は当然、ゲートから出てきた都合日本に戻った後に手続きのため遊介の遺体とは別の場所にいた。その直後に起きた世界終焉シナリオの回避に尽力したことで功績を認められて信用を得、日本で暮らすことになったのだろう。

「へぇ、じゃあ明日お礼言っておくよ」

「そうしてくれ。あの子には私もお母さんも感謝してるよ。まさか孫と同じ学校に通っているとは思わなかったよ」

 思わぬ恩人との再会であったが、おかげでお礼を伝えることができる。ただ気になるのは響がなぜ公界家にコンタクトを取らなかったかだ。彼のことだから遊介を助けられなかったことに罪悪感を覚えてだろう、一家の素直な感謝を伝えて響の抱えるものをまた一つ減らせるならやらない理由はない。


 というわけで翌日の部活で遊騎は響に礼を伝えることにした。

「なぁ響。お前俺の親父を連れて帰ってくれたんだって? ばあちゃんに聞いたよ。そういえばエストエフのゲートも親父の職場も同じ南極だったわ」

「え?」

 ただ響はまるで状況をわかっていない。

「もしかして、ゆーすけのこと? 日本に着いてすぐ異世界管理局に連行されてご家族には会えてなかったけど……」

 なんとかそれっぽい状況を思い出すが、やはりあの後の都合で合流できていなかったのか。

「そそ、公界遊介。ばあちゃんもお袋もちゃんと弔えて感謝してるんだ。南極行くって、船とか探査中とか遺体すら回収できない危険も多いし」

 死そのものには祖母も母も覚悟しているところはある。いくら調査が進んだとはいえ過酷な遠方なのはわかり切っている。その上で遺体を連れ帰ったことが重要なのだ。

「そ、そうだったんだ……。……」

「響?」

 響はこれまで気づいていなかったことを知り、複雑な表情をする。

「親父の名前を知ってるってことは、生きてる時に会ったのか?」

「ええ……」

「だったら聞かせてくれよ、親父の話」

 遊騎が一歳の頃に父は死んだという。そうでなくても南極探検隊で留守にしており、ほとんど記憶がない。祖母と母から話は聞いていたが、響の様な第三者からの話は殆ど聞く機会はなかった。

「はい、ボクのでよければ……」

 響は快く応じる。遊介との出会いの話、それは2010年の南極でのこと。

「ゆーすけはチームで、『植物と動物の特徴を同時に持つ化石』を発見したチームの捜索に向かったんです。相当な発見でしたから」

 思わぬ秘密を共有し合い、漫画研究部の絆は深まっていくのであった。

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