1.召喚された莉葉と最弱魔法使いルナとの出会い

「……ここは」


 莉葉は目を開けると、見知らぬ場所に立っていた。周りを見回すと、そこは沢山の木が生えている様な場所だった。


 そして、莉葉の前には古びた茶色の薄い本を開いて、木の杖を持つ、見たこともない制服を着た少女が立っていた。


 その少女の髪はショートモブヘアーで、金髪が太陽の光を受けて輝いている。彼女の瞳の色はとても綺麗な真紅色をしていた。


 彼女の姿は、青いジャケットに包まれ、白いワンピースを内側に着ており、胸元には緑のリボンが飾られていた。


 突然の事でお互いに固まる莉葉と金髪少女は驚きの表情を浮かべ、言葉が出てこない状態が続いた。


 莉葉は異世界人であり、ルナはこの世界の住人でお互いに知らない存在であり、どちらもどんなことを話せばいいか分からなかった。


 しかし、このままお互い固まったままじゃあ何も解決しないと感じた莉葉は周りの状況を見て色々と確認する事にした。


「見たことのない森に、私とは違う可愛い制服を着る杖を持つ金髪少女か、魔法使いかしら? だとすればここは……」と推理しながら、莉葉は自分が異世界にいることを理解した。


 (どうして私が異世界に転移してしまったのか)


 難しくそう考えた莉葉は周囲の状況を知っていそうな金髪少女に話しかける。


「あのう」


 そう話しかける同時に、莉葉に金髪少女は驚いた様子で我に返り、古びた本を閉じて、持っていた杖をホルダーに刺した。


 そして、金髪少女は少し戸惑いながらも、冷静な顔をしながら、莉葉に話しかけた。


「あっ、あなたは誰? 見た事もない服を着ているけれど……」


 突然、金髪少女に名前を聞かれた莉葉は少し考えながら、素直に自分の名前を答えた。


「えぇっと、私は高波莉葉よ……」


「タカナシリツハ?……聞いた事のない名前。何処から来たの?」


 莉葉の名前を聞いてもピンと来ない金髪少女は何処に来たのかとそう尋ねる。


「……分からないわ。神社でお願い事をしたら、いきなり魔法陣みたいな物が現れて、私はその光に包まれて、目を開けたらここに……」


「……神社が何か分からない。けど、莉葉は魔法陣が現れて、その光に包まれて目を開けたらここにいたって事だよね」


 話を聞いた金髪少女は少し不安そうな表情をしながら、莉葉にそう尋ね、彼女はうんと頷いた。


「まさか」


 それを聞いた金髪少女は、声を漏らしながら、ショックを受けた様な感じで落ち込んだ表情を浮かべた。


 そして、金髪少女は肩を落とし、ゆっくり地面に座り込み、暗い表情を浮かべ、莉葉を見つめてこう口にした。


「私…別世界の人間を召喚してしまったの? もし、そうだとすれば、私は取り返しの付かない事を」


「取り返しのつかない事……」


 そして、金髪少女は落ち込みつつも冷静さを装って莉葉に向かって、こんな質問をした。


「あの、莉葉さんでいいんだよね?」


「うん」


「あなたが住んでいる町には魔法はあるの?」


「いいえ、私が住んでいる町には魔法なんて存在しないわ」と莉葉はそう応えた。


 やっぱりと瞬時に考えた金髪少女はまた落ち込んだ表情を見せる。そして、金髪少女は座ったまま、下を向きながら少し涙を流した。その後、金髪少女は顔を上げて、莉葉を見て、頭を下げて謝った。


「ごっ、ごめんなさい」


「えっ、何?」


 突然、金髪少女に謝罪された莉葉は戸惑いを見せ、金髪少女の流していた少し涙が多くなり、顔が崩れるくらい落胆し悲痛な感情を抱きながら、莉葉に向かって謝る。


「くすっ、ただ、私はこの本に書かれていた召喚の書を試しだけなの。まさか、別の世界の人間を召喚してしまうなんて、思っても見なかった。本当にごめんなさい」


「本って……その薄っぺらいの……?」


 莉葉は金髪少女が持っている古びた本を指差して言うと彼女はうんと頷いた。


 《へぇ、そんな本があるんだ。しかし、金髪少女は泣く後悔している。だが、私は異世界に召喚されて、迷惑だとは一切思っていない。むしろ喜んでいるわ。異世界へこれて)


 そう思った莉葉はとても悲しい顔で泣いてる金髪少女に近づき、優しく軽く頭を撫でた。


「……そんなに落ち込まないで、私は気にしていないから……。むしろ喜んでいるわ。異世界に来られたのだから……」


「えっ、本当に……?」


「あぁ、本当よ」


 それを聞いて安心したのか金髪少女は胸を撫で下ろして涙を拭い、莉葉に向かって笑顔を向けた。


「あっ、ありがとう。莉葉さん」


 初めて会った金髪少女にお礼を言われて少し照れながら、笑顔を向けて莉葉は左手を差し出して、握手を交わす。


「さんはやめて、私の事は莉葉でいいよ。これからよろしくね」


「はい、莉葉。あっ、そういえば、まだ名乗ってなかったね。私は魔法学園の一年、ルナ・アルナ15歳、こちらこそよろしくね。莉葉」


 ルナは莉葉の差し出した手を握り、握手を交わした後、莉葉はこれからの事をどうするかルナに聞く事にした。


「それでルナ、これからどうするの?」


「……うーん、そうだね。まずは魔法学園のハクア理事長に相談かな。この召喚の書の事もあるしね」


 ルナは異世界召喚させてしまった莉葉の事を魔法学園のハクア理事長に相談し、黒い本の事を調べてもらおうと考えた。


「ねぇ、ルナ。魔法学園のハクア理事長って、どんな人なの……? 」


 莉葉は魔法学園のハクア理事長がどんな人か知らず、少し興味が湧いて、ルナに聞いてみる事にした。


「ハクア理事長は魔法学園一凄い強い魔法使いなんだ。なんたって六属性で最強の魔法使いだから……」


「へぇ、そうなんだ」


 自慢げでいうルナに莉葉は魔法学園の理事長の何が凄いのか分からない顔をして、六属性で最強の魔法使いってものがどんなの凄い力を持っているのか気になった彼女はルナに聞いた。


「ねぇ、ルナ。最強と言われている六属性の魔法使いって何?」


「あっ、そっか知らないよね。教えてあげるね。この世界の事と魔法の事を……」


 魔法の事を教えてくれるルナに莉葉はお願いしますと返した。


「それじゃあ、話すね……」とこの世界と魔法の事を話そうとしたその時……。


 ドカーン


 突然、森の北側あたりでとてもつもなく大きな爆発音が響く、それは不穏な気配を掻き立てる様なとてつもなくひどい音だった。


「「きゃあ」」


 大きな爆発音に私とルナは驚き、思わず、耳を塞いで身を屈めた。


「何? 今の音は……」


 不審な爆発を聞いたルナはゆっくり立ち上がって、莉葉も続いて立ち上がる。


「…ちょっと、私、見てくるよ。リツハはここで待ってて」


 いきなり爆発音を聞いて嫌な予感がすると思ったのかルナは黒い本を持ちながら、走って北側の森へと向かう。しかし、その轟音に反応したとんでもない魔獣もそこへ向かっていた。


 そんな事も知らない彼女達。だが、彼女達は、その先に待ち受ける恐怖と戦う事なんて知る由もなかったのであった。

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