第10話 ナイフを振り回す鬼瓦
さて。俺が鬼瓦を連れてやってきたのは俺の家の近くの路地裏。
え、なんで路地裏なのかって?そんなの決まってるだろ?……なんか決闘って路地裏で起こってるイメージがあるから。
イメージだぞ?イメージ。そんなのに憧れを抱いてる俺もどうかと思うが。
それに、きょうは自分の拳を使う気はないからな。言葉のナイフは使うかもしれないが。
「……で、おい。殴りかかってこねぇのかよ、藤本。まぁ殴ってきたところで痛くも痒くもないだろうが。」
はっ。いきなり言ってくれるじゃねぇか。それはこっちのセリフなんだよなぁ…。
「そうだな、俺は殴るなんて手荒な真似はしたくないんだよ。スキル未所持の鬼瓦。」
まずは一発、絶対にわからないはずの事を言ってみて反応を伺う。
まさかこれで怒って殴りかかってくるなんてことはないと思ってるが…。
「……おい。スキル未所持だと?俺が?」
あっ。震えてる。ワナワナ震えてやーんの。早くねぇか?まだまだこれからだってのに。
「あぁ。そうだよ。【プロフィール透視】で確認したからな。間違いないだろ?」
「………ッ。」
「へぇ…。図星かぁ…。マジだったのかよ。まじで笑えてくるな。ハハッ!!おもしれぇ。お前ただのカスじゃねぇかよ。鬼瓦君が、スキル持ってないの、なぁぜなぁぜ?」
「お前何だとっ…!俺がカス、だと…?」
……え?反応するとこそこ?普通は煽られたのに怒り狂うか、【プロフィール透視】に何か噛み付くとこじゃなくてか?
まぁいいや。すでになんか結構ダメージ受けてるっぽいし、このまま煽り散らかしといたらいいか。
……ってか『なぁぜなぁぜ?』ってあんまり聞こえてなかったのか?俺なら絶対怒ってたんだが…。
「あぁ。スキル未所持だからカスだろ。」
「スキル未所持だとしても…!俺にはこの顔がある…!お前なんかよりはだいぶイケメンな顔がな!」
……あらまぁ。自分からこの話題を振ってくれるなんて。
俺からどうやって整形の証拠出すのに持っていこうかなぁ…。って思ってたんだが、まさか自分からそれを言ってくれるとは。
助かった助かった。さっきプロフィール透視されてるってわかったはずなのに、整形がバレてないとでも思ってるんだろうか。
みっともないにもほどがある。
「そうだな、整形って偉大だよな。」
「は?俺の顔が整形だっていいてぇのか?ウケるw」
……これは馬鹿を極めていらっしゃいますね。お疲れさまでした。
なんて思いながら、俺は鞄の中から【コラ画像生成】で作った証拠画像を見せる。
「これ、整形の証拠じゃあないか?これでも認められないのかぁ…。」
すると鬼瓦は顔が青ざめ、先程よりも体が震え、俺から証拠画像を奪おうとしてくる。
「クソっ!そんなもの!捨ててしまえばいいんだろ……!」
なんて言って、俺に襲いかかってきたが……
「お前は、そんなにノロマなのか」
鬼瓦の攻撃なんぞ、俺には少しも効かない。スキル未所持のカスだからな。こいつ。
【身体強化】を持ってる俺には到底適うはずもない。
だから、俺は鬼瓦の攻撃をひらりと躱し、逆に鬼瓦の手を掴んで拘束した。
「なぁなぁ、鬼瓦。俺から奪い取るんじゃなくて、まずはいろいろ認めて、俺をいじめてたことを謝るんじゃあないのか?俺がなんでもなくこんな事をするわけ無いだろ?恨みだよ、恨み。謝罪が大切だ。」
「……謝るわけないだろう!そもそも!陰キャで髪がボサボサ、友達の一人もろくにいないお前なんかが俺に謝れって言ってるのがおかしいんだよ!!いくらでも言え!俺には父さんがいるからな。」
……陰キャ、ねぇ。それの何が悪いんだ?友達の一人もろくにいない。それの何が悪いんだよ…!
別にいいだろ、一人でいたくていたんだ。何が悪い!
あーイライラしてきた。もう終わらせよう。
「……その父さんが、今大ピンチだって言ったらどうするよ。」
「あん?」
「……そのままだ。贈賄罪、財閥の息子なら意味位はわかるよな?」
「………」
やっと理解したのか、鬼瓦は動きが止まり、何かを考えているようだ。
お父さんという後ろ盾がいなくなることに対する恐れか、もしくは父親に対する怒りか。
もっとも、俺が【コラ画像生成】を使って画像を作っただなんて考えてもいないだろうし、そもそも画像を見せてすらないんだけどな?
けど、そんなことには気づかないほどに焦っているらしい。
「お前、ぶっ殺してやるよ。そしたらこれらのことがバレる心配もないもんなぁ…!」
といい、制服の胸ポケットから取り出したのはナイフ。
………は!?ナイフ、?
「こういうときのために、ナイフ持っておいてよかったよ。藤本、ぶっ潰す」
……まずいって。【身体強化】を持ってる俺でも、流石に刃物に勝てるのかなんてわかんねぇって。
っていうか多分勝てねぇ。まずいまずい……誰か、いや、早くきてくれよあの人。あの人がきてくれないといろいろできないから【転移】で逃げようにも逃げられないんだ。
………主に自分の復讐のためだからほんとにやばくなったら逃げるけれども。
「おい、いいのかよ、本格的に犯罪者になるぞ??」
「いいよ、お父さんだって贈賄罪、だっけ?じゃあ俺だって一緒に堕ちるとこまで落ちてやる。その前に!お前だけは、絶対潰す。……それに、最悪どうにかしてでも揉み消せばいいんだろ?」
……鬼瓦は、そう言うと大きく振りかぶってナイフを振り回しながら俺に向かって突進してきた。
もちろん、俺は武芸をやっていたわけではないので超人的な見切りで躱すとか、そんなことはできない。
けどな、
「なぁ、スキル未所持。【身体強化】って強いよな。」
【身体強化】の力で、鬼瓦の腕を掴むことくらいはできる。
………あー良かった。【身体強化】の効果がつよくて。弱かったら俺は今頃刺されてたな。
「クソっ!クソっ!!」
鬼瓦、そんなふうに力ずくで刺そうとしてきたって、この状態からじゃあ逆転はできねぇよ。
そして、膠着状態が続くこと一分くらい。
そろそろ決着をつけようと思った時に、俺の待っていた人が来た。
「鬼瓦君。この戦いの証拠は取った。もう諦めなさい。」
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