第2話『お嫁さんはあいつも怖い』
「挙式って、教会や神社でやるタイプだけじゃなくて、お寺で結婚式を挙げる
「色々な挙式のタイプがあるんですね」
夜。
今日の授業で出た課題や明日の授業の予習が早く終わったので、俺・長瀬和真の部屋で、優奈と一緒に俺のノートパソコンを使ってどんな挙式のスタイルがあるのかを調べている。
結婚式については、家族や友達やお世話になった方達を招待していつか挙げたいと考えている。その際、俺がタキシード、優奈がウェディングドレスを着て。その意向は、先日、優奈と俺のそれぞれの母親に直接伝えた。また、母親達からそれぞれの家族に伝わっている。
ただ、ざっくりとしたことしか考えられていないので、結婚式に関して優奈と一緒に少しずつ調べているのだ。
ネットで調べてみると、様々な挙式のスタイルがあると分かった。
「和真君がタキシード、私がウェディングドレスを着るとなると、教会式や人前式が候補になりますね」
「そうだな。
「嬉しいです。私も和真君のタキシード姿を見たいです。あと、これまでに何度か親戚の結婚式に出席したことがありますが、新婦さんのウェディングドレス姿が綺麗でしたので憧れもあります」
「そうなんだ。可愛いな」
俺がそう言うと、優奈は「ふふっ」と嬉しそうに笑う。そんな反応をする優奈も可愛らしい。
ノートパソコンにある結婚式についてのメモ帳のファイルを開く。結婚式のスタイルなど、これまでに調べた内容が書いてある。
メモ帳に挙式のスタイルについて記入していく。教会式や人前式が現状の候補であることも。
「優奈がそう言うのも分かるな。俺が出席した結婚式でも、ウェディングドレス姿の新婦が綺麗だったし」
「そうでしたか」
出席した結婚式はどれも、ウェディングドレス姿の新婦が綺麗だったり、新郎新婦が幸せそうだったりしたことを覚えている。
ただ、出席したのは俺が小学生とか中学生の頃だったので、披露宴で出された料理が凄く美味しかったとか、新郎新婦の友人達の余興が面白かったということの方が鮮明に覚えている。
「挙式には様々な形があるのだと分かりましたね」
「そうだな。今日はこのくらいにしておく?」
「そうですね。普段は今くらいまでの時間にお風呂に入っていますし、そろそろお風呂に入りたいです」
「分かった。今後も結婚式について調べていって、少しずつでも俺達のやりたい挙式や結婚式について具体的に考えていこう」
「そうしましょう。あとは、いつ挙げるのかも考えていきましょう」
「そうだな」
いつ挙げるのかも大切だな。結婚式をする人気の時期とか、やりやすい時期とか、時期によって招待したい人達の出席のしやすさの違いもあるだろうし。やりたい時期によっては、できる結婚式の形式も限られてくるかもしれないし。
今のように優奈と一緒に調べたり、話したりして、結婚式や挙式について具体的に考えていきたいと思う。時にはお互いの家族や友人達に相談して。
「では、一緒にお風呂に入りましょうか」
「ああ。優奈が夕食を作ってくれている間に浴室の掃除とお湯張りをしたから、すぐに入れるよ」
「ありがとうございます。着替えを用意して洗面所に行きましょう」
「ああ」
優奈は寝間着や替えの下着を用意するために、俺の部屋を後にした。
俺も着替えを用意しよう。寝間着は……昨日替えたから今日も同じものでいいかな。あとはパンツとインナーシャツだな。
タンスからパンツとインナーシャツを選び、寝間着も持って自分の部屋を出たときだった。
「きゃあっ!」
優奈の部屋から優奈の悲鳴が聞こえてきたぞ!
「どうした、優奈!」
優奈が悲鳴を上げることなんて滅多にない。なので、緊急事態だと判断し、俺はノックをせずに優奈の部屋の扉を開けた。
「か、和真君……」
扉を開けると、目の前には怯えた様子の優奈が立っていた。顔色も悪い。
「優奈、何があったんだ?」
「あ、あそこに……大きなクモがいまして……」
そう言うと、優奈は部屋の中を見て、人差し指で勉強机の方を指さした。そちらの方に視線を向けると……勉強机の近くの壁にクモがいる。パッと見た感じ、足を含めて10センチほどだろうか。
「見つけた。なかなか大きいクモだな」
「……はい。寝間着と替えの下着を用意して部屋を出ようとしたら、あのクモを見つけて。私、クモが苦手で。しかも大きいですから大きな声が出てしまったんです」
「なるほどな。確かに、あの大きさだと、見つけたらビックリしちゃうよな。怖かったんだな」
少しでも気持ちを落ち着かせるために、俺は優奈の頭を優しく撫でる。
そういえば、ゴールデンウィークにこの家に引っ越した直後、洗面所で優奈がゴキブリを見つけたとき、優奈はクモも苦手だと言っていたっけ。あのとき、優奈はお風呂上がりの下着姿で綺麗だったな……って、そんなことを思い出している場合じゃないな。
「優奈。前にゴキブリを見つけたときと同じように、俺がクモを退治するから安心してくれ。俺、クモも平気だから」
「お願いしますっ」
依然として優奈の顔色はあまり良くないけど、口角はちょっと上がっている。きっと、俺が退治すると言ったからだろう。
「殺虫剤を使って退治するか」
「それがいいですね」
ゴールデンウィークが明けた頃、「これから暑い時期になるし、虫と出くわすことが増えるかもしれない」ということで、ゴキブリ用の殺虫剤とクモやムカデなど用の殺虫剤を購入したのだ。防虫剤も購入した。それらは玄関に置いてある。
防虫剤を定期的に撒いているから、家の中で虫は全然出ていなかったんだけどな。撒いた防虫剤の効果が薄くなってきていたのだろう。
俺は玄関に行き、クモなどに効果がある殺虫剤のスプレー缶を手に取る。実家で使ったことがある殺虫剤だ。あのクモはデカいけど、これを使えばイチコロだろう。
俺は優奈の部屋に戻る。
「優奈は扉の近くにいてくれ」
「分かりました」
「あと、ローテーブルに置いてあるティッシュを使うから」
「はい」
俺はローテーブルに着替えを置き、ボックスからティッシュを2、3枚取り出す。
窓の方に視線を向けると……今も勉強机の近くにクモがいるな。クモが逃げてしまわないようにそっと近づいて、
「それっ」
――シューッ!
クモにめがけて殺虫剤を吹きかける。殺虫剤はクモに命中した。
吹きかけた直後、クモはその場から動き出す。ただ、殺虫剤の効き目がさっそく現れたようで、すぐに動かなくなり、床の上にポトッと落ちた。
俺は床の上で動かなくなったクモをティッシュで包み込んだ。
「よし、処理完了。あとは、ビニール袋に入れてゴミ袋に捨てればOKだ」
「ビニール袋はリビングにあります。持ってきます」
「ありがとう。捨てるし、俺もリビングに行くよ」
俺は優奈と一緒にリビングに向かう。
リビングに着いてすぐ、優奈はビニール袋を持ってきてくれた。
優奈からビニール袋を受け取り、俺はクモを包んだティッシュを袋に入れ、袋をしっかりと縛った。その袋はリビングにある一般ゴミ用のゴミ箱に捨てた。
「これで大丈夫だな」
「そうですね。クモを駆除してくれてありがとうございます! ゴキブリだけでなくクモも平気で、落ち着いて対処できるなんて。かっこいいです!」
目を輝かせて俺のことを見ながらそう言うと、優奈は俺にキスしてきた。
まさか、クモを駆除したお礼の流れでキスされるとは。相当嬉しかったのだろう。あと、こういうことでも、大好きなお嫁さんからかっこいいと言ってもらえるのは嬉しい。
2、3秒ほどして優奈の方から唇を離した。すぐ目の前には優奈の可愛い笑顔があった。
「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。実家にいた頃も夏中心にクモが出ていたからな。慣れっこだよ。俺と父親で駆除してた」
「そうなんですね。私も実家にいた頃は、何度もクモに出くわしているんですけどね。毎回怖くなっちゃうんです。さっきのような大きなクモだと特に……」
「そっか。クモによっては、かなり大きい奴っているもんな」
「ええ。驚きもあって、さっきは叫んじゃいました」
「なるほどな。今回みたいに、俺が家にいるときにはすぐに駆除するから安心して」
「はい。ありがとうございます!」
優奈はニコッと可愛い笑顔でお礼を言った。この笑顔を守るためにも、俺が家にいるときはすぐに駆除していきたい。クモと出くわしてしまったときの優奈は怯えている様子だったし。
「クモが出たし……家の中を一通り防虫剤を撒いてから、お風呂に入るか」
「そうしましょう!」
クモが出たのもあってか、やる気になった優奈が家の様々な場所に防虫剤を撒いていく。これでまたしばらくの間は虫に出くわすことはないだろう。
それから、俺達は一緒にお風呂に入る。
クモ駆除という形で、優奈の恐怖を取り除けたからだろうか。いつも以上にお風呂が気持ち良く感じた。
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