第11話『アイス』

 優奈と俺は、俺の父さんと優奈の父親の英樹さんへの父の日のプレゼントを買うために、駅前にある商業施設の高野カクイへ。

 優奈と俺は自分の父親がどんなものが好きなのかを教え合い、優奈は双方の父親へのプレゼントを、俺は英樹さんへのプレゼントを購入した。

 ちなみに、俺から父さんへのプレゼントは、マスタードーナッツのドーナッツだ。父さんがオールドファッション系を中心にドーナッツが大好きなのもあり、これまでに何度もプレゼントしている。バイトを始めた高1からは毎年である。できたてをプレゼントしたいので、ドーナッツは当日に俺の実家へ行く途中で購入する予定だ。

 高野カクイの中を歩いてお腹が空いたことや、時刻も午後3時を過ぎていることから、おやつでアイスを食べることになった。カクイのフードコートにアイス屋さんがあるので、俺達はフードコートに向かう。

 フードコートに到着し、アイス屋さんに行くと……お店の前には10人程度の列ができていた。今日も蒸し暑いし、おやつ時だからアイスを食べたい人が多いのかな。

 俺達は待機列の最後尾に並ぶ。優奈、俺の順番で。


「ここのアイス屋さんは美味しいアイスがたくさんあるので、列ができていて良かったです」

「ははっ、優奈らしいな。優奈の言う通り、美味しいアイスがいっぱいあるよな。そういえば、ここのアイス屋さんに優奈と一緒に食べに来るのは初めてか」

「そうですね。これまで萌音ちゃんや千尋ちゃん達とは来たことが何度もありますし、和真君とはお家で食後やおやつにアイスを食べますから、何だかちょっと不思議な気分です」

「これまでに何回か来た感じがするよな」


 家で、優奈と一緒にアイスを美味しく食べているからだろうか。

 地元民なので、これまでに家族や友達と一緒にたくさん来たことがある。なので、優奈の言う通り、ここのアイス屋さんには美味しいアイスがいっぱいあることは分かっている。今日は何を食べようかな。


「う~ん……迷いますねぇ」


 と、優奈はメニュー表を見ながらそう呟く。優奈はこういうときに迷うことが多いもんな。可愛いな。


「俺は……チョコミントにしようかな。好きなアイスはいっぱいあるけど、チョコミントは特に好きだから」

「チョコミントですか。美味しいですよね。私も何度か食べたことがあります」

「そうなんだ。美味いよな」

「ええ。和真君は特に好きなアイスにしましたか。では、私もそうしましょうかね。なので……ストロベリーアイスにしようと思います」

「おぉ、ストロベリーか。甘酸っぱくて美味しいよな」

「美味しいですよね! 大好きなアイスですっ」


 大好きなアイスのことだからか、優奈は弾んだ声で話す。それもまた可愛くて。

 何のアイスを食べようか考えていたのもあり、気付けば優奈の番まであと2人になっていた。

 それから程なくして、優奈、俺の順番になり、優奈はストロベリーアイス、俺はチョコミントアイスをカップで購入した。

 おやつ時になっているけど、フードコートの中にあるテーブル席はいくつか空いていた。俺達は2人用のテーブル席を確保し、向かい合う形で椅子に座る。

 優奈のお願いで、購入したストロベリーとチョコミントをスマホで撮影した。その写真をLIMEで送ってもらった。


「写真撮らせてくれてありがとうございます、和真君」

「いえいえ。写真くれてありがとな。じゃあ、食べようか」

「はいっ。では、いただきますっ!」

「いただきます」


 俺はチョコミントを一口食べる。

 口に入れた瞬間、ミントの爽やかな香りが口いっぱいに広がり、鼻に抜けていく。この爽快感がたまらない。

 ミントの爽快感もあるけど、チョコやミルクの甘味もしっかりしていて。とても美味しい。


「チョコミント美味しい」

「ストロベリーアイスも美味しいです!」


 そう言うと、優奈はストロベリーをもう一口。美味しいのか、満面の笑顔で「う~んっ!」と可愛らしい声を上げて。大好きなアイスを食べているから幸せそうにも見える。本当に可愛いお嫁さんだよ。ますます好きになる。

 優奈の笑顔を見ながらチョコミントをもう一口食べると、一口目よりも美味しく感じられた。


「和真君。ストロベリーアイス、一口どうですか?」

「ありがとう。いただくよ。じゃあ、俺のチョコミントも一口あげるよ」

「ありがとうございますっ」


 優奈は嬉しそうにお礼を言う。違うものを注文することが多いので、外で何か食べるときは一口交換するのが恒例だ。

 優奈はスプーンでストロベリーアイスを一口分掬い、俺の口元までもっていく。


「はい、和真君。あ~ん」

「あーん」


 優奈にストロベリーアイスを食べさせてもらう。

 いちごの甘酸っぱさとミルクの甘さのバランスが良くて美味しいな。ただ、これまでにストロベリーを何回か食べたことがあるけど、今回が一番甘く感じられた。優奈が口をつけたスプーンで食べさせてもらったからかな。


「ストロベリーも美味いな」

「美味しいですよね」

「ありがとな。……じゃあ、お礼にチョコミントを」


 スプーンでチョコミントを一口分掬い、優奈の口元まで運ぶ。


「はい、優奈。あーん」

「あ~ん」


 優奈にチョコミントを食べさせる。

 チョコミントも美味しいからか、さっきと同じく優奈は「う~んっ」と声を漏らしながら食べる。食べさせたのもあってとても可愛く見える。


「チョコミントも美味しいですっ!」

「美味いよな」

「ストロベリーを食べた後だからか、ミントがとてもスーッとしますね」

「ははっ、そっか。ミントが爽やかだから、今みたいに暑い時期はチョコミントを食べることが多いんだ」

「そうなんですね。ミントの爽やかさといえば……今はチョコミントが好きですが、小さい頃はミントの香りが苦手であまり食べられなかったですね」

「そうなんだ」


 ちょっと意外だ。以前、食事のメニューを考えるとき、苦手な食べ物はないかと優奈に訊いたら「特にないです」と言っていたし。だから、小さい頃から優奈は苦手なものがあまりないと思っていた。


「和真君はどうですか?」

「俺は小さい頃から大好きだな。ただ、真央姉さんが昔は苦手で、俺がチョコミントアイスを食べるときは一口ちょうだいって言われることは少なかったな」

「そうだったんですね。陽葵も昔はあまり好きではなかったですね。萌音ちゃんはチョコミントが好きですが、千尋ちゃんは苦手な方と言っていました」

「そうなんだ。西山は好きだって言っていたな。あと、チョコミントって好き嫌いが分かれるよな。友達の中でも好きな奴もいれば、嫌いな奴もいるし」

「私の友達の中にも、チョコミントが好きな子もいれば、嫌いな子もいますね」

「そうか」


 ミントの爽やかさが苦手な人がいるのかな。あとは、ミントの風味とチョコの甘味が同時に感じられるのが苦手とか。アイス以外にも、チョコミント味のお菓子は色々とあるけど、ものによってはミントの風味がかなり強いものがあるし。


「好き嫌いが分かれる食べ物もあれば、2つの食べ物でどっちが好きか分かれるのもありますよね」

「あるある。どっち派ってやつか」


 家族や友達の間でも話題になったことが何度もある。


「はい。アイスを食べていますので、すぐに思いつくのは甘いもので『あんこはつぶあんか? こしあんか?』とか」

「ああ、つぶあんこしあんか。それも分かれやすいかも。優奈はどっちだ?」

「どちらも好きですけど、私はこしあんですね。なめらかな舌触りと、つぶあん以上に甘いですから」

「なるほどな。こしあんはとても甘くて美味しいよな」


 理由が甘い物好きの優奈らしくて可愛い。


「和真君はどっち派ですか?」

「俺もどっちも好きだけど……どっちかって言われたら、つぶあんかなぁ。甘味もあるけど、小豆の食感とか皮の風味も感じられるし」

「なるほどです。つぶあんも美味しいですよね。食感がある分、つぶあんの方が食べた感じがしますし」

「だよな」


 あんこについては、優奈と好みが違ったか。ただ、俺達はどちらのあんこも好きなのもあり、優奈と好みが違っても嫌な気持ちは全然ない。優奈も同じように考えているのか、彼女の顔には柔らかな笑みが浮かんでいる。

 これまでにこの手の話題を話すことが全然なかったのもあり、優奈とどっち派なのか話すの……結構楽しいな。優奈の好みも分かるし。


「どっち派かっていうと、アイスにもあるよな。お店でアイスを買うとき、カップにするか、コーンにするかとか」

「ありますね。家族や友達数人で行くと分かれますね」

「分かれるよなぁ。今回はカップで買ったけど……優奈はどっち派?」

「どちらも好きですが……私はカップ派ですね。パクパクと早く食べる方ではないので、コーンだと溶けて垂れてきてしまうことがあって。甘くて香ばしいコーンも好きですが」

「そうなんだ。俺もどっちも好きだけど、カップ派だな。溶けることを気にせずに食べられるから」

「そうなんですねっ。和真君と一緒で嬉しいですっ」


 好みが合ったからか、優奈は言葉通りの嬉しそうな笑顔を見せる。


「俺も優奈と一緒の好みで嬉しいよ」

「ふふっ、そうですか。和真君の好みを知りたいので、もうちょっとこの話をしたいです」

「ああ、いいぞ」


 その後も「紅茶派? コーヒー派?」「犬派? 猫派?」など、2つのうちどっち派なのかという話題で話が盛り上がりながら、アイスを楽しんだ。優奈と同じなのもあれば、違うものもあって。どちらでも、優奈のことを知っていけるから嬉しくて。

 アイスを食べ終わった後はカクイの中にある本屋や音楽ショップなどに行き、放課後ショッピングデートを楽しむのであった。

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