第9話『お持ち帰りしたいです-後編-』
それからも、カウンターでの接客業務を中心にバイトをしていく。たまに、テーブル席に座っている優奈と井上さんの様子を見ながら。
優奈と井上さんは購入したドーナッツやドリンクをいただきながら談笑している。自分の買ったドーナッツを一口交換するときもあって。美味しいのか、2人とも可愛い笑顔になっていて。癒やされるなぁ。
優奈と井上さんが可愛いからか、男女問わず店内にいるお客様のうちの何人かが2人のことを見ている。ただ、さっきの俺とのやり取りを見ていたのか、2人に絡むような人はいない。
2人が来店してから、時間の進みが早くなった気がする。ふと、店内にある時計に視線を向けると、午後4時半過ぎになっていた。そのとき、
「こんにちは、長瀬君」
カウンターの前に、スラックスとノースリーブのブラウスを身に纏う長身の女性が立った。整った顔立ちと綺麗なセミロングの黒髪が特徴的だ。この女性が誰なのか俺は知っている。
「こんにちは、
「そうね」
女性……由佳さんはそう言って微笑む。
この女性は佐伯由佳さんといって、佐伯さんのお母さんだ。佐伯さんの家で中間試験対策の勉強会をしたとき、由佳さんと初めて話したのだ。それまでにも、このお店で接客したことがあったけど、佐伯さんのお母さんだと認識して話したのはあのときが初めてだった。
「さっき、千尋の三者面談を受けてきたよ」
「そうでしたか。そういえば、佐伯さんが今日が三者面談だと言っていましたね。お疲れ様でした」
「ありがとう。中間試験は赤点もなくて、この調子でいけばスポーツ系の学部の内部進学も大丈夫だろうって夏実先生から言われたよ」
「そうですか。良かったです」
中間試験の勉強会での休憩中に進路の話題になり、佐伯さんはスポーツ健康学部に進学したいと具体的に話していた。だから、このままいけば内部進学可能だと分かって嬉しい気持ちになる。
「勉強の話題のとき、試験勉強では長瀬君にも分からないところを教えてもらったって千尋が言っていて。千尋の好きなドーナッツを買うだけじゃなくて、長瀬君にお礼が言いたくてここに来たの。千尋から、長瀬君は放課後にバイトがあるって聞いたから」
「そうでしたか」
「長瀬君。千尋に勉強を教えてくれてありがとう」
そうお礼を言うと、由佳さんは俺に向かって頭を下げた。
佐伯さん……面談中に俺に勉強を教えてもらったと言ったのか。優奈よりも質問される回数は少なかったけど、佐伯さんのためになれて嬉しい。
「いえいえ。俺も佐伯さんに教えていい勉強になりましたし。それに、スポーツ系の学部に行きたいと佐伯さんから聞いていましたので、内部進学が大丈夫だろうと分かって嬉しいです」
「そう。母親として嬉しいよ。ありがとう」
由佳さんはニッコリとした明るい笑顔を向けてくれる。その笑顔は娘の佐伯さんと重なる部分があって。佐伯さんの持ち前の明るい笑顔は由佳さんから受け継いだものかもしれない。
「本当に長瀬君は素敵な男の子だね。優奈ちゃんは幸せ者ね」
「そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます。あと、妻の優奈は井上さんと一緒にあちらのテーブル席にいますよ」
右手でテーブル席にいる優奈と井上さんの方を指し示す。
俺と由佳さんが話していることに気づいていたのか、優奈と井上さんはこちらを向いていて。由佳さんがテーブル席の方を向くと、2人は軽く頭を下げる。
由佳さんは優奈と井上さんに向けて軽く頭を下げると、再びこちらを向いた。
「いたね。じゃあ、ドーナッツを買ったら声を掛けるよ」
「きっと2人も喜ぶと思います」
「ええ」
由佳さんは目を細めながら笑った。
その後、由佳さんは佐伯さんの大好きなオールドファッション系やチョコレート系のドーナッツを計10個購入し、テーブル席に座っている優奈と井上さんのところへ向かった。2人に何やら話しかけると、少し深めに頭を下げていて。きっと、試験勉強の際に佐伯さんに教えたことのお礼を言っているのだろう。優奈はもちろん、井上さんが教える場面もあったから。
3人で談笑していると、井上さんが席から立ち上がり、由佳さんのことを抱きしめて胸に顔を埋めていた。佐伯さんの母親だけあって、由佳さんも結構スタイルがいいからなぁ。井上さんと佐伯さんは中学時代からの親友同士だし、中学生の頃から由佳さんの胸を堪能していたのかもしれない。
昨日の母さんのように、由佳さんは優しい笑顔で井上さんの頭を撫でていた。
少しして、井上さんは由佳さんの胸から顔を離す。そのときの井上さんはとても幸せそうに見えた。
由佳さんはうちのお店の持ち帰り用のケースを持って、再びカウンター席にやってくる。
「2人と話してきたよ。あと、萌音ちゃんに胸を堪能された」
「そうですか。井上さん……女性の胸が大好きですもんね」
「ええ。中学時代から変わらないよ。本当に可愛い子」
ふふっ、と由佳さんは楽しそうに笑う。俺の予想通り、井上さんは中学時代から由佳さんの胸も堪能していたか。
「優奈ちゃんも奥さんになって、長瀬君と一緒に住んでいるからか大人っぽくなった感じがする。より素敵になった」
「そうですか。妻のことをそう言ってもらえて嬉しいです」
「ふふっ。優奈ちゃん愛されてるなぁ。じゃあ、私はこれで。残りのバイト頑張ってね」
「ありがとうございます」
俺がお礼を言うと、由佳さんは俺に向かって小さく手を振ってお店を後にした。
その後もバイトをしていき、シフト通りにバイトを上がることができた。
男性用の更衣室に行き、優奈と井上さんにバイトが終わったとメッセージを送り、バイトの制服から学校の制服に着替えていく。その際、左手の薬指に結婚指輪を付けて。この瞬間、今日もバイトが終わったのだと実感する。
着替え終わったときに、スマホが鳴る。優奈と井上さんからメッセージが来ており、お客様用の出入口の近くにいるという。2人に了解の旨の返信をした。
スタッフルームで休憩している方達に挨拶して、俺は従業員用の出入口からお店の外に出る。朝と変わらず雨がシトシトと降り、ジメッと蒸し暑くて。この時期らしいな。
お客様用の出入口の方に行くと、優奈と井上さんが待ってくれていた。
「優奈、井上さん、お待たせ」
「お疲れ様です、和真君」
「お疲れ様、長瀬君」
「ありがとう。……あと、優奈。お待たせしました。私をお持ち帰りください」
「はいっ」
楽しげな様子で言うと、優奈は自分の傘を閉じて、俺の傘の中に入ってくる。その際、優奈は傘の柄を持つ俺の右手を掴んで。いつもよりもしっかりと掴んでいる。
「お持ち帰りできるからか、とても嬉しそうね、優奈」
「そうですね」
「ふふっ、可愛いわ。じゃあ、帰りましょうか」
俺達は駅の方向に向かって歩き出し、帰路に就く。
午後5時過ぎという時間帯だから、歩いている人はそれなりに多い。俺達のように制服姿の人も見受けられる。
「ドーナッツやミルクティーも美味しかったし、まさか由佳さんの胸を堪能できるとは思わなかったから最高の時間だったわ」
「由佳さんが来たとき、萌音ちゃんはとても嬉しそうでしたもんね」
「久しぶりに会えたし、由佳さんの胸も結構いいから」
「ふふっ、そうですか。良かったですね」
「理由はどうであれ、うちのお店で楽しい時間を過ごせたようで嬉しいよ。店員として」
ただ、今の井上さんの様子だと、ドーナッツやミルクティーよりも由佳さんの胸が一番良かった感じがするな。それも井上さんらしいか。
お店からでも見える場所にあるので、それからすぐに高野駅の北口の前に到着した。
「じゃあ、私はこれで。優奈、今日はとても楽しかったわ」
「私もとても楽しかったです。また明日です、萌音ちゃん」
「また明日な」
「ええ、また明日」
ニコッと笑ってそう言うと、井上さんは俺達に小さく手を振り、駅の方へ向かっていった。
俺達は住んでいるマンションに向かって歩き始める。
「和真君。夕食は何を食べたいですか?」
「今夜は優奈が当番だったな。そうだな……肉を食べたい気分だ」
「お肉ですか……では、バンバンジーはどうでしょう? 冷たい料理ですし、鶏肉はもちろんお野菜も食べられますから」
「バンバンジーいいな! 蒸し暑いから、冷たい料理は心惹かれる」
「ふふっ、そうですか。では、バンバンジーにしましょう。確か、お野菜は家にありましたから、鶏肉を買って帰りましょう」
「そうだな」
その後、マンションの近くにあるスーパーでバンバンジーに使う鶏肉を購入してから、俺達は帰宅する。帰りの途中で食材を買うと、優奈と一緒に住んでいるんだなって実感できていいなって思う。
「ただいま」
「ただいまです。……和真君、おかえりのキスをしてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
「ありがとうございますっ」
優奈は嬉しそうに言うと、俺におかえりのキスをしてきた。好き合う関係になってからは、家に帰ってきたときにおかえりのキスをすることが多い。
優奈の唇の柔らかさや温もりが気持ち良くて。だから、学校やバイトの疲れが取れていく。ドーナッツの甘い匂いや紅茶の香りも感じられるのもいいな。あと、普段と違って、お持ち帰り注文されているからドキドキもしてきて。
10秒ほどして、優奈の方から唇を離す。優奈は恍惚とした笑顔で俺のことを見つめている。そのことにドキッとする。
「とてもいいおかえりのキスでした」
「そうだな、優奈」
「あと……お店で和真君をお持ち帰り注文したのもあって、キスしたら結構ドキドキしてきました」
「俺もだよ」
「和真君もなんですね。……結構ドキドキしていますから、えっちしたい気分になっています」
優奈は俺の目を見つめながらそう言ってくる。そのことでドキドキが強まり、体が熱くなっていく。
「できれば、制服を着たままの制服えっちで。これまで服を着たまましたことがありませんし……」
「……確かに。これまでにしたのは夜にお風呂から出た後だったもんな」
「ですね。……服を着ながらするのってどんな感じなのか前から気になっていまして。高校生ですから、制服を着たまましてみたい気持ちもあって。も、もちろん和真君が疲れていなければでいいですから! 学校だけじゃなくてバイトもした後ですし……」
「あまり疲れていないよ。バイト中は何度か休憩したし、井上さんと一緒に優奈が来てくれたからな。むしろ、可愛くて大好きな優奈からえっちをおねだりをされて元気が出てきたくらいだし」
「良かったですっ」
優奈はニコッとした笑顔を見せてくれる。
それにしても、制服を着たまま肌を重ねることに興味があり、それをおねだりしてくるなんて。優奈って結構えっちな一面があるよなぁ。
「じゃあ、買ってきたお肉を冷蔵庫に入れたら、俺の部屋のベッドでするか」
「はいっ。制服を汚さないように気をつけないといけないですね」
「そうだな」
明日も学校があるし、着たら毎回洗うワイシャツやブラウス以外は汚してしまわないように気をつけないとな。
鶏肉を冷蔵庫に入れた後、俺の部屋に行き、主にベッドの中で優奈と肌を重ねた。
全裸の優奈と肌を重ねることもドキドキしたけど、制服を少し脱がして、部分的に露出した優奈とするのも結構ドキドキする。高校から帰ってきて、クラスメイトの女の子としているんだと実感できて。
また、蒸し暑い中帰ってきたので、優奈からは汗混じりの甘い匂いが濃く感じられて。そのことにもドキドキさせられる。
優奈も制服を着ながら初めてすることに興奮しているのか、積極的に体を動かすことが何度もあって。それがとても可愛くて。
また、これまで肌を重ねたときと同じく、優奈といっぱいキスをして、「好き」とか「気持ちいい」といった気持ちを言葉にしてたくさん伝え合った。
「初めての制服えっち……気持ち良かったです」
「そうだな、優奈」
何度か肌を重ねた後、俺はベッドの上で横になりながら優奈と寄り添っている。
肌を重ねる中で少しずつ服を脱がせていき、今は俺はインナーシャツのみ、優奈は制服のスカートのみの状態だ。スカートしか身に付けていない優奈は初めて見るので、結構そそられるものがある。
優奈の着ているスカートや、これまでに脱いだ俺達の制服を見ると……うん、特に汚れていなさそうだな。良かった。
「制服はもちろん、服を着ながらするのも初めてだったので、そこに興奮しました」
「良かったよな。一部分だけ肌が露出している優奈が凄く可愛かった」
「照れますが嬉しいですね。あと、陽が出ているうちからするのは初めてでしたから、そのことにも興奮しましたね」
「そっか。今までは夜遅くにしてたもんな」
ちなみに、始めたときには明るかったけど、今はかなり外が暗くなっている。
「蒸し暑い中帰ってきましたし、ここは和真君のベッドですから……和真君の匂いが濃く感じられて凄くいいなって思いました」
「そっか。嬉しいな。俺も……これまでとは違って、優奈の汗混じりの匂いが濃く香ってきたのがいいなって思ったよ」
「嬉しいです。以前、私の汗の匂いが好きだと言ってくれていましたもんね。夕方に家に帰ってきてするえっちもいいですね」
「そうだな」
夜にすることにも、夕方にすることにもそれぞれの魅力がある。
「これからもたまに……帰ってきたらするか」
「はいっ!」
優奈はとても明るい笑顔で元気良く返事をしてくれた。どうやら、放課後に制服姿で肌を重ねることがとても気に入ったようだ。
「……今は7時近くですか。シャワーを浴びて、着替えたら、夕食の準備をしましょう」
「ああ。夕食楽しみだ。俺はシャワーを浴びたら、その後に風呂掃除をするよ」
「お願いします」
「うん。優奈の作るバンバンジー楽しみだな。優奈と一緒に運動したからお腹空いたし」
「私もです。ドーナッツを食べましたから、いい運動になりました」
「ははっ、そっか。じゃあ、シャワーを浴びに行くか」
「はいっ」
俺達はベッドから起き上がって、一緒にシャワーを浴びに行くのであった。
ちなみに、優奈の作ってくれた夕食のバンバンジーはとても美味しかった。蒸し暑い季節だから、冷たいのがまた良くて。もちろん完食した。ごちそうさまでした。
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