第13話『優奈の親友』
朝礼が終わるとすぐに、友人や男子生徒を中心に取り囲まれ、優奈とのことについて矢継ぎ早に質問される。
「実は隠れて交際していたのか?」
「結婚したってことは、いずれは優奈ちゃんと一緒に住むの?」
といった恋愛や結婚絡みの質問から、
「有栖川とはどこまでいったんだ?」
「あの大きな胸に触ったのか? 揉んだのか?」
などという優奈との進展具合や身体的な質問も多かった。そういった質問については、西山や女子生徒達から「何てことを訊くんだ」とフォローしてくれたけど。ただ、優奈とは手を繋いだくらいなので、そういった質問にも正直に答えた。
中には男子生徒を中心に俺のことを睨んだり、舌打ちしたりするクラスメイトもちらほらといるけど。きっと、優奈と結婚したのが気に入らないのだろう。
また、優奈の方をチラッと見ると、優奈は女子中心に多くのクラスメイトに囲まれていた。その中に井上さんと佐伯さんもいる。たまにこちらを見ているので、優奈も俺との結婚についてたくさん質問されているのだろう。
お互いに多くの人に囲まれていたり、朝礼から1時間目の授業までは5分ほどだったりしたので、この時間に優奈と話すことはできなかった。
そして、1時間目の授業が始まる。ちなみに、科目はコミュニケーション英語。
矢継ぎ早に受けた質問に答えたのもあり、休み時間よりも授業の方がゆっくりできるという逆転現象に。授業中に優奈と目が合って、優奈に微笑みかけられることで癒やされて。
また、俺と優奈が結婚したのを知ったからか、担当している女性教師は俺達に視線を向けることが何度もあった。優奈に問題の答えを訊くときも「有栖川さん」と言っていた。今は有栖川さん呼びでも違和感がないけど、いつかは抱くようになるのだろうか。
1時間目の授業が終わって、10分間の休み時間に。
朝礼後の休み時間のときには優奈と話せなかったから、この休み時間では話したいな。そう思って自分の席を立ち上がった瞬間、優奈が井上さんに手を引かれながらこちらに向かってくるのが見えた。また、佐伯さんが2人についてくる。
「和真君。1時間目お疲れ様です」
「やあ、長瀬君」
「やっほー、長瀬」
「あなたのお嫁さんを連れてきたよ。朝礼後の時間では2人が話せなかったからね」
「ありがとう。さっきは優奈と話せなかったから、優奈のところに行こうと思っていたんだ」
「そうだったんですね。私も和真君とお話しできたらなと思っていました。ありがとうございます、萌音ちゃん」
「いえいえ」
と言いながらも、井上さんは嬉しそうにしている。そんな井上さんのことを優奈と佐伯さんが頭を撫でている。
優奈と俺が結婚したことを明かした理由の一つは、学校でもこうして優奈と話すためだ。だから、井上さんが優奈をここまで連れてきてくれたことが嬉しい。
「あ、有栖川が結構近くまで来ている……」
後ろから西山がそう言うので振り返ると、西山は頬をほんのりと赤くし、ちょっと緊張した様子で優奈のことを見ていた。少し遠くから見ていたい西山にとって、この距離だと緊張してしまうのかも。優奈の方から来たし。
「井上さん、佐伯さん。朝礼で結婚報告をしたとき、俺達の結婚に肯定的なことを言ってくれてありがとう。優奈の友達が言ってくれたのが嬉しかったし、教室の雰囲気も少し和んだ感じがしたから」
「私も嬉しかったですし、心強く思いました。2人とも、ありがとうございます」
「いえいえ。あたしは思ったことを言っただけだよ」
「私も。長瀬君はバイトの接客とかでも雰囲気がいいし、優奈に告白してきた男子達よりもいいなって思ったし」
井上さんと佐伯さんは微笑みながら言ってくれる。優奈が言うように心強い気持ちになる。
「でも、教室の雰囲気を良くしたのは萌音やあたしよりも西山の方じゃない? 結婚おめでとうって言って拍手もしたんだから。それをきっかけに、多くのクラスメイトが拍手したし。その中で萌音やあたしみたいにおめでとうって言うクラスメイトもいたし」
「そうだな、佐伯さん。……あのときは本当にありがとう、西山」
「ありがとうございます、西山君」
「いえいえ。長瀬の親友として、有栖川のファンとして思ったことをぶちまけただけさ」
俺達にお礼を言われて照れくさいのか。それとも、推しの優奈からお礼を言われたのが嬉しいのか。西山の笑顔は頬を中心にかなり赤くなっている。
「それにしても、有栖川にお礼を言われちまった。すげえ嬉しい……」
とても嬉しそうに言うと、西山の顔がさらに赤くなる。それを見られるのが恥ずかしいのか、両手で顔を隠した。普段はかっこいいとよく言われる西山だけど、今は可愛いな。そんな西山のことを優奈と井上さんと佐伯さんは微笑ましそうに見ていた。
「あのとき西山が言ったように……長瀬。結婚したんだから、夫として優奈のことを幸せにしてよ。長瀬も優奈を幸せにするって言ったけどさ」
「言ってくれましたね。あのときの和真君、かっこよかったです……」
そのときのことを思い出しているのか、優奈の笑顔がほんのりと赤くなっている。妻にかっこいいと言ってもらえて嬉しいな。
「確かにかっこよかったね。有言実行してよ、長瀬。優奈は高校で出会った一番の親友だから。優奈を傷つけたり、悲しませたりしないようにね」
「千尋の言う通りね。優奈のことを幸せにして、大切にして、支えていって」
「もちろんだよ、佐伯さん、井上さん」
2人の目を見ながら、しっかりと返事した。そのことに優奈は嬉しそうにしている。
俺に向かって幸せにして、大切にして、支えていってと言えるとは。佐伯さんと井上さんが優奈のことを大切に想っているのが凄く伝わってきた。
「ただ……今のは優奈にも言えること。結婚は2人ですることだから。優奈も長瀬君のことを幸せにして、大切にして、支えていかないとダメだからね」
井上さんは優奈に向けてそんな言葉を送る。静かな口調だけど、井上さんの声は力がこもっている感じがして。井上さんが俺のことを優奈に言うとは。何だか意外だ。優奈に向ける視線も真剣そうだし。
「分かりました、萌音ちゃん」
「うん。長瀬君と一緒に幸せになってね」
井上さんは微笑みながらそう言うと、優奈のことを抱きしめる。また、その流れで優奈の胸に顔を埋める。
「……あぁ、優奈の胸気持ちいい」
「ふふっ」
優奈はいつもの優しい笑顔で井上さんの頭を撫でている。優奈が井上さんに胸に顔を埋められる光景は何度も見ているけど、この様子からして優奈は嫌だとは思っていなさそうだ。
「……そうか。結婚したから、私の大好きな優奈の大きな胸が長瀬君のものになるのか」
独り言ちるように言うと、井上さんは優奈の胸から顔を離して、俺に視線を向ける。井上さんの表情も目つきも真剣そのものだ。
「今後は、優奈の胸を私との共有物にしてもらえないかな?」
「共有物って」
思わずオウム返しのように聞き返してしまった。まったく、みんなの前で何てことを訊くんだか。
また、俺達のやり取りがツボを突いたのか、佐伯さんは「あははっ」と楽しそうに笑う。
胸のことを俺に問いかけているからか、優奈はちょっと恥ずかしそうにしている。俺と井上さんのことをチラチラと見ていて。
それにしても、井上さん……どう答えればいいのか難しい問いをしてくるなぁ。そもそも、結婚したからって優奈の胸は俺のものとか、好き勝手していいとか思ったことないし。
「……まあ、親友の井上さんだし、優奈がいいって言うなら、今までのような感じで優奈の……む、胸に触れていいんじゃないか」
井上さん達にしか聞こえないような小さな声でそう答えた。
さっき、井上さんに顔を埋められたときも、優奈は優しい笑顔になっていたし。優奈さえ良ければいいと思っている。
「今までと同じような感じであれば、これからも私の胸を楽しんでいいですよ」
はにかみながらも、優奈は小さな声で井上さんにそう言った。
これからも胸を楽しんでいいと優奈本人に言ってもらえたからか、井上さんは物凄く嬉しそうだ。優奈の胸が本当に好きなのだと分かる。
「ありがとう、優奈。長瀬君もありがとう。心の広い旦那さんで助かった」
「優奈の嫌がることはしないようにな」
「了解」
井上さんは微笑みながら俺にサムズアップして、優奈の胸に頭をスリスリし始めた。時折、井上さんの幸せな表情が見えて。さっそく、優奈の胸を堪能できているようだ。
その後、5人の間で連絡先を知らない人と交換した。優奈の連絡先を手に入れた西山は、
「俺のスマホの連絡先に有栖川の名前が入る日が来るとは……!」
と、物凄く感激していた。良かったな、本当に。
それから程なくして、2時間目の授業が始まるのを知らせるチャイムが鳴った。
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