第9話 更なる幸福
人の欲とは深いものだ。金で全てが手に入ると思っていた俺が、それでは満たされることのない器が自分にあることを知る。この家を得てから数カ月といったところか、とても充実していたし、生活は満足していた。だが、妙に孤独感を感じるのだ。これは凄く厄介なもので、人への関心が微塵もない俺は、人と触れ合うような欲も一切なかったのだ。なので俺は自分の孤独の由来を形にできていなかった。そして近頃気が付いた。俺は儀式が恋しいのではないかと。いや、悪魔そのものに対してだろう。人に興味もなく、そんなもので欲を満たせない俺は、絶対的な存在である悪魔というものに対して強く焦がれ初めていた。俺が最終的に至った結論は幻影でもいいから悪魔に実態を持たせることだった。
「久しぶりだ。まさか、またやることになるとは。」
くだらない願いだが、一度考えだしてしまえばもう止まらない。孤独に引っ張られ、趣味や生活に没頭できないのだ。何でも叶うと知ってしまった俺は、何もかもを叶えなければいけないという強迫観念に囚われてた。
俺は数カ月ぶりの、今回は充実した装飾が施された儀式の間にて、儀式を行う。儀式の施行からは離れていたものの、儀式そのものからは離れられず、何度もこの部屋を訪れては経典に目を通すことを行ってきていた。久方ぶりの再開で心がときめく。会いたかった靄は前と変わらずそこにあった。しかし、やはり物足りぬ。
「やあ、人間。久しぶりじゃないか。分かるぞ。言いたまえ。」
流石に以心伝心で、契約に取り掛かってくれる。悪魔の声はそのままでいいかもしれない。要は姿かたちだ。
「その。お前に実態が欲しいんだ。拠り所として確かなのもであって欲しいという願いだ。」
少し恥ずかしかった。お互いに契約の関係以上のものはないと最初は思ったが、こいつは頼りがいがあるのだ。
「面白いではないか。それもまた一興。だが我々に決まった姿かたちはない。お前の想像がそのまま映ることになるが良いか?」
悪魔は否定もせず、受け入れてくれる。異論はなかった。そこに確かにあるという認識さえあればその見た目はどうでも良い。俺は頷き、祈祷をする。
得たものだけが俺を貫く。俺の目の前にあった靄は悪魔らしい造形に形を変えたが、その本質を認識できないことに変わりはなかった。それでも俺は満足だった。そこに居るというのは確実なものになったし、確信にも変わってくれたからだ。それに安心し、また一つ願いを叶えることができた。
「素晴らしいぞ。なあ、不躾だが契約なき時も呼び出して構わないか?」
今までは契約やその他の儀式の意思がないと呼ぶことは出来なかった。俺は目の前の靄に愛着がより深くなり、契約とは関係のないお願いまですることにした。
「それは契約内容ということで良いのか?」
肯定してくれると思ったが、この悪魔には理解できないことらしい。しかし、その案でも良いと感じる。呼び出して話ができるのなら良いではないかと。
「もし成立して、契約なしに呼び出した時は話し相手になってくれるのか?」
孤独を埋めてくれるかということを聞くことにした。呼び出せるだけでは孤独は満たせないのだ。
「分からんが。望むようにはなるだろう。」
悪魔は汲み取ることはしないが、問題ないということも今までを通して理解できた。失ったものは然りだが、得たものも確実なものには違いなかったからだ。
「では追加で頼む。お前が俺の孤独を枯らすように、契約以外でも呼び出せるように。」
また衝撃、そして確かな改変が起こる。この快楽だけは他の何にも劣らない。何度でも味わいたいと思う。俺は今後、この悪魔に対して日常的に干渉することも可能となり、自分にとって大切な存在であるというものが、確かな形を持って安心を与えてくれた。俺はまたしても何を失ったかは知ることが無かったが、孤独を埋めるという大きな心の悩みも取り除くことができた。
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