04神北 水桜 02

「ありがとうございます。しょうゆらーめん一つ入りました、ました!」



 珍しい。そう思った。こんな時間に、この場所に客だなんて。観光客か? いや、こんな田舎町どこを観光するっていうんだ。見どころも、見るところもない。


 私が機械的に作業を始めると、裏に入ってきた祈鈴が動作に合わせて喋りだす。



「えーっと、まずはお湯が沸いているのを確認して、麺を冷蔵庫から出して、自動マシンにいれて、ええと、それから、しょうゆ! このしょうゆをうつして、スープ入れて、マシンできたら、勝手に湯きりしてくれるのを見守って、うん、あとはもりつけ~。できた、できた!」


 


 しょうゆらーめんをお盆に乗せて、祈鈴が運んでいく。



「おまたせしましたー、しょうゆらーめんです、です!」


「いただきます」


「はい!」



 お客はらーめんを食べ始めた。ずるずると食べた。おいしい、おいしい、と食べた。そして泣いていた。なぜ泣くのだろう。なんで泣いているのだろう。泣くほど美味かったのかな、そうかな、美味しかったかな。



「神北、そこにいるんだろ」


「なによ、まずかったから返品とかお断りなんだからね」


「いや、最高においしいよ。想い出になるような味だ」


「だったら、なんで泣いてるのよ」


「それは神北もだろう。神北こそ、何で泣いてるんだよ」



 泣いている? あたしが? 何で、ホントだ、泣いている。涙がこぼれている。溢れている。あふれている。溢れている。なんで、何が悲しくて泣いているのよ。何が嬉しくて泣いているのよ。どうしてわたしが、わたしが涙を流さないといけないのよ。



 同じく泣いている



「神北、俺やっぱりつらいわ。お前たちを敵にするとか、つらい。悲しい。女の子を斬るとか、苦痛だ。苦しいことでしかない。この剣は、そんなことのために俺はこの剣を手にしたわけじゃなかったはずなんだ。前任者から成り行きで渡された剣だけど、それを手にした俺にもちゃんと意志はあったはずなんだ。俺は死んだ後、彷徨っていたんだ。生きていた世界と、死後の世界の間を。だからずっとバスに乗って旅をしていた。そしてこの街に来る前に剣を渡され、手にして、そしてこの街に着いた。戀風祈鈴に出会って、そして神北水桜に出会った。秘密基地で桜坂六合東に会って、教室で天野海星にも出会った。お前らと共に過ごして、そして全員が大切な知り合いになった」


「でも、青宿は死神だった。私達の敵だった」



 私は言う。



「そうだ。だけど、違う」


「違う?」



 私は問う。



「死神としての俺は世界の従事者で、透明少女のお前らの敵だ。だけど、青宿悠人としての男は、誰の敵でもなかった。透明少女の敵でもない。世界の敵でもない。死神の敵でもない。誰の敵でもないんだ。味方でもないんだ。俺はただ、俺はただーー」



 泣きながら彼は言った。



「まだ生きていたかった。死にたくなんてなかった。そうだろう。死ぬほどつらい人生だったとしても、死にたくなるような事しか無い人生だったとしても、俺はやっぱりちゃんと生きて、生き抜いて、生きてから死にたかった。俺を自殺まで追い込んだ理由は、今となっては思い出せない記憶喪失の中だ。死神の手帳にも自殺としか書かれていなかった。今となっては後悔しかない。死んでから、そう思うよ」



 いつの間にか、彼の隣には六合東がいた。反対側には海星がいた。彼の正面には祈鈴、その奥には私、神北美桜。



「だったら。それなら、最後にさ」



 私は言った。



「せめてもの救いをちょうだい」


「ああ、分かった」



 私と六合東さんと、海星ちゃんとそして祈鈴。それぞれが胸から空気の球を取り出し、青宿に差し出す。彼はそれらを一つずつ受け取り、手の中に吸収した。そして全てが一つになった時、空気が一つになった時、彼は光の中に包まれていった。


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