第9話 村に到着したようです
アリアの後ろをついていって、ようやくしかいなかったのに!!! 結局、村に着くまでに、10体ほどのスライムを倒したので、順調にレベル上げができた。
ユーキ Lv.13
HP 55
MP 75
攻撃力 120
防御力 120
特殊効果:全属性魔法攻撃力アップ+12
レベル13程度でこんなことになる??? なんかおかしい気がするけれど、まあいいかと、ステータスを閉じる。そう、自分のステータスはどうでもいい。
アリアの後ろをついていって、ようやく村に着いたのだ。いっぱい人がいる!!! さっきまであんなに草とスライムしかいなかったのに!!!
中世ヨーロッパ風の田舎町といった風貌の村は、子どもたちも外で遊んでいるし、屋台が立ち並ぶほどには、活気づいていた。あちこちで、客引きの声がする。洋服やおやつ、宝飾品、武器、いろんなものが売られている。
「珍しいですか?」
アリアに問われて、いや、と思わず言ってしまう。何せ自分に起こった事情を話していない。珍しいと言うのも気が引けたし、何より、アリアがきょとんとこちらを見ているのが気まずかった。なんやその顔、かわよいんですけど。キレそう。
「後でまた案内してくれます? ちょっと気になるんで」
そういうと、アリアはまたにっこりと笑って、「いいですよ」と鈴の音のような、小鳥の囀りのような可愛らしい声で、言ってくれた。耐性がない俺には、致死量すぎるって。勘弁して。俺は頭を抱える。アリアの可愛さに。
ふう、と一息ついて、アリアの後ろをついていきながら、街を見渡す。治安もそこまで悪くなさそうだし、村というには発展しているような気さえする。ガヤガヤと人の話し声さえ、嬉しくなってしまう。家々は手入れが行き届いているようで、ベランダに干されている洗濯物や、プランターで育っている色とりどりの花々が美しい。たぶん、本当に豊かな村だ。
「ユーキ、見てください」
アリアが止まる。ここは、気づけば、広場の真ん中。ローマの噴水さえ思い出す。歴史的建築物を思い起こさせる。なんて、にぎやかな憩いの場。アリアが嬉しそうに手を広げた。
「ここが私のいるグランツ村です」
ザバン、と噴水が勢いよく水を噴出させる。綺麗に弧を描いて、たらいに張った水のようなそれの中に吸い込まれていった。虹色の輝きの隙間から、村の人たちの活気がまた見え隠れする。大道芸人が広場の真ん中で、球を回す。近くの出店では、サンドイッチのようなものを食べている人もいる。子どもたちは、風車のようなおもちゃを持って、噴水の周り走り回り、それを母と思しき大人たちが追いかけていた。ここは、絶対にいい村だ。
「そこまで豊かな村ではないのですが、農業が盛んで、特に果物が有名ですね」
「果物ですか! いいですね」
「高級果物のグゥアバーナはうちの名産です!」
はい、わからない単語が出てきました。グゥアバーナ? 突っ込むのが面倒になったので、「へー」と適当に相槌を打つ。これは、俺の悪い癖である。雅史にも、もっとなんかあるだろって言われていたことを思い出す。
「先を急ぎましょう。司祭様がきっとお待ちです」
「わかりました」
もう少し、広場にいたい気持ちだったが、何せゲストである。呼ばれた人についていくのが、ゲストの義務なのである。
道なりに進んでいくと、石造りの大きな教会が聳え立っていた。サクラダファミリアよりは、少し小さいけれど、それでも、荘厳という名に相応しい。
「グランツ村、唯一の教会、聖ミラルカ教会です」
「ここが」
「先代魔王がいた時に建てられた教会なので、1000年前くらいの建物になりますね」
「1000年?」
劣化もほとんどない。10世紀もの間、ここに君臨していたとなると、相当頑健だ。ただ見上げるしかない。
いくつもの塔が聳え立ち、一つ一つの塔に細やかな彫刻が施されている。見れば見るほど、サクラダファミリアの縮小版のようだ。扉には細やかな文字が彫られている。何が書いてあるかはわからないが、きっと尊い教えというものなのだろうな、と思う。何を祀っているのかもわからないその施設は厳かにも程があったし、萎縮もしてしまう。それでも、アリアが隣で微笑んでくれるから、うっかり足を進めてしまうところがあった。俺って意外とゲンキンなやつだったんだな。
アリアが、扉を押し開ける。グググと大きな扉が重さを持って徐々に開く。
一度、俺はキリスト教の教会に行ったことがある。目の前の大きな通路。ぎっしりと並ぶ席。ステージのような台の上には恭しく飾られた磔刑のイエスが項垂れている。そういう、施設だった。妙に静かで、居心地悪く感じていた、その場所とは、何もかもが違う。
大きなステンドグラス、高い天井。逸話に残された勇者や魔王の物語をなぞったレリーフ。整然と並べられた柔らかな椅子。舞台の如く用意された机には、古く重く神々しい尊い教えが描かれているであろう書物が一冊、ずっしりと置かれている。ステンドグラスから流れ込む、様々な配色の光が、中央に置かれた書物に差し込み、まるでスポットライトのようであった。きっと村に開放されているであろう、この施設には、思い思いに人々が祈りを捧げていた。
俺は、天井を見上げる。柔らかな光を感じる。きっと、シャンデリアに灯された一つ一つの火の光が、暖かいせいだ。
「ようこそ、ユーキ」
アリアは、また、聖女のように微笑んだ。
「我が家へ」
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