第8話 ヒロインのようです
彼女は、スライムにまとわり付かれていた。白いシスター服も、青い粘液で妙に艶かしく、スラリとした四肢にへばりつく、シワの一つ一つが妙につややかだ。金色色の髪は絹糸のように細く、太陽の光を一本一本吸収して星の煌めきのような反射を周囲に散らしている。彼女の青い双眸は、まるで快晴の空の如く、どこまでも見透かしているようで、その奥に深い夜空が広がっているようだった。さくらんぼのような小さく赤い唇に目を奪われる。そして、紅潮した頬は熟れたリンゴのように輝かしい。
やばい、呆気に取られる。この異世界に来て、初めての人。そして女性。何かに襲われている。これは、お約束の展開だ!
俺は、邪な気持ちを端っこに置いて、手に魔力を貯める。確か、スライムには核があった。さっき倒した時に気づいたが、中央に球体の何かがあった。そこを狙えば、すぐに鉱石と成り果てる。
青いスライムの弱点になる魔法はわからないが、魔物だから、まあ、光魔法でいけるだろう。光の矢を思い浮かべる。照準を合わせる。
彼女の深い快晴が飛び込んでくる。
彼女のさくらんぼが小さく動く。
「助、け……て……」
両手から、鋭い光の矢。
そして、彼女の体の上に、ゴロリと鉱石が一つ転がった。
◇
「本当にありがとうございます!」
「いや、そんな、マジで何もしてないんで」
「何をおっしゃいますか! あの魔物を無詠唱で倒すなど、とんでもない力ですよ!」
彼女は、アリアと名乗った。先ほどまで俺が水浴びをしていた川に行き、体を洗うことにしたのだ。紳士の俺は、木のかげで彼女の服の洗濯をしている。もちろんさっきと同じ要領で。
ステータスを表示する。
ユーキ Lv.3
HP 20
MP 40
攻撃力 25
防御力 25
特殊効果:全属性魔法攻撃力アップ+2
驚異的に上がってる気がする。これが勇者というジョブのせいか? 目の前でアリアの白い服が目まぐるしく宙を舞う。汚れはだいぶ落ちたし、乾きもしている。そのまま風魔法で河辺の近くまで落とす。もちろん、俺は木の陰にいるままだ。当たり前だ。そんな、彼女の近くに行くなんてね。そんなね。
アリアは近くの村の教会に勤めている聖女らしい。修練として、時折森に入っては、レベル上げに勤しんでいるらしい。
「でも、一度も倒せたことがないんです」
「一度も?」
「はい」
ざぶん、と水の跳ね上がる音がする。多分、彼女が川から上がったのだ。多分。知らんけど。彼女は続ける。
「私、魔物を倒すのも可哀想に思えてしまって、ちょっと躊躇ってしまうんです」
「へ〜……」
「だから、うっかり……なんというか……隙ができてしまって」
だろうな、と思う。俺も最初は大概だったけど、あの霰もない感じは、まあ、そうだろうなって。
「もしよろしければ、我が教会にいらっしゃいませんか」
「えっ」
アリアはすっかり着替えて、俺の顔を覗き込んだ。また、あの深い快晴の色が俺の目を捉えて離さない。見れば見るほど綺麗な顔をしている。俺は、この感覚を、確かに知っているのだ。
「お礼もしたいですし、ぜひ!」
お願いのポーズをされてしまったら、もう敵わない。俺はもう、アリアの教会についていくしかない。俺は鼻をかく。照れ隠しである。
「じゃあ、よろしくお願いします」
アリアの満面の笑みが眩しい。わあ、なんて言われた日にゃ、泣きそうになる。そんなに喜んでくれるな。レベル3の男だぞ。勇者だけど。
ところで、と彼女は俺の目の前に躍り出る。俺は、よっこらしょ、と立ち上がる。ああ、160センチくらいか、などと、どうでもいいことを考える。
「お名前を教えてください。まだ、お伺いしてなかったものですから」
あれ? と俺はあからさまに首を傾げる。知ってる、この展開。アニメで、俺は、本当によくみてたんだから。
「言ってませんでしたっけ? ユーキです。よろしく」
「よろしくお願いします、ユーキ」
アリアは絶対にヒロイン枠だ。
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