第7話 親友は雑魚だったようだ(雅史side)
いくらなんでもひどすぎる。なんでなんだ。運も縁も勘もステータス振りされてないからって、スライム相手にこんなに苦戦することあるか?勇気が青いスライムにベトベトにされていく様子を草むらの影から見ながら、俺はため息をついた。
運のステータス振りがMAXだったせいか、俺は勇気のすぐそばで転生することができた。勇気が起き上がるのを待って、声をかけようかと思った。しかし、起き上がった勇気は何かに必死な様子で前にずんずん進んでいくものだから、声をかける暇さえなかった。
膝丈ほどある草がどんどん色濃くなり、背も高くなり、腰ほどになった時、勇気がようやく止まった。ちょっと屈んで、何かをしようとしているように見えた。声をかけようとしたら、さっきの有様だ。
何も考えずに行ったな。
俺は近くにあった木の棒を引っ掴む。ここで俺が出て行ったら、あいつのレベルを奪いかねない。こういうのはサポーターが大事なんだ。
筋力とかも振っておけばよかった。でも、仕方ない。とりあえずぶん投げる。すると運のいいことに、勇気の近くにポトリと落ちた。
運に振っておいたの正解すぎるってばよ。
勇気がその棒を掴むまで、俺は様子を伺う。どんどんスライムは勇気の体を這い上っていく。必死に避けようとちぎっては投げを繰り返している勇気に頭を抱えそうになった。
思い出せ、異世界転生系だと、主人公は何で戦っていた? ほら、お約束だろ?
勇気はまだ、必死にもがいている。尻餅をついて、無様に粘液状のそれを足で蹴ろうとして、蹴れずにいる。
それはそうなんよ。だって粘液だからさ、個体じゃないからさ、蹴ってもなんもならんのよな。
声をかけたい。でも、きっと勇気はレベル1だ。ここで狩れなかったら、勇者なんて夢のまた夢だ。ここで、最初のモンスターを狩ってもらわないと。
頑張れ、頑張れと応援する。勇気は、頑張っているのだ。言いたくないけど、本当に言いたくないけど……
「雑魚すぎるって……」
木の棒に気づかないのは、絶望的すぎる。どうしよう。手に当たるようにすればいいんだろう。ちょっと手には届いてなさそうだ。木の棒を移動できればいいのだが、どうするか。
自分のステータスを確認する。風魔法が使えそうだった。まだレベル上げしていないから、そよ風程度の威力っぽいが、とりあえず、長く続けられれば、きっと木の棒にも届くだろう。
俺は少し移動する。木の棒と、勇気と、俺がまっすぐ一直線になるところを見つける。ちょうど草の背が高くて、俺が見えづらい位置だ。手をかざす。多分俺も雑魚だから、詠唱しないといけなさそうだ。
「風の
風の塊が、木の棒に当たる。勘が鋭いと、こういうこともお茶の子さいさいなのである。すると、やっぱり運よく、勇気の手に木の棒が当たる。
ナイス〜〜〜〜!!ナイスすぎ〜〜〜〜!!
そこから勇気の動きは早い。すぐに木の棒を引っ掴んで、一発、スライムの核の部分を殴った。ナイスだぜ……。
スライムからゴロリと何かの鉱石が出る。異世界っぽさを感じ取ってしまう。すごいな。あれいっぱいとれば、商売になりそうな気がする。勇気についていきながら、モンスターハントしてもいいだろう。夢が広がる。
勇気は、その後、川でベトベトの体を洗っていた。服も自分の魔法で乾かしている。あいつ、無詠唱でやってやがる。勇者のステータスが、活きているようだ。俺は俺で、モンスターハントをするべく、勇気の周辺にいながら、スライム狩りをしまくっていた。レベルは順調に上がっていると思う。よくわかんないけど。
森の中を歩く。そういえば、この世界の住人にあっていない。ここまで来ると、世界には勇気と俺しかいないのではないかと疑いたくなる。川を下っていけば、きっと街はあるだろうが、どうしよう。モンスターハントに夢中になっていたけど、今が勇気に声をかけるチャンスだったんじゃないか。スライムを木の棒でぶん投げながら、後悔を始めた。いや、今から川に戻って、それで勇気に声をかけよう。そうしよう。それで二人で冒険を始めよう。
ところで、俺のジョブってなんだろう?
ステータスを表示させようとしたところで、俺は異変に気づく。か細い女性の声。女性の声?! これは、勇気に会わせてあげないといけない! 俺は声の方向に走る。
そこには、青いスライムに襲われている金髪碧眼のシスターがいた。縁がありすぎる。こんなところで。
というか、絶対にヒロイン枠だ。間違いない。これは、勇気に会わせないとダメだ。そうだ。俺は決めたのだ。あいつに、俺TUEEのご都合主義展開をお見舞いしてやるってーー。
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