第5話 ジョブは勇者のようです

 運よく、浅い川にぶち当たった。改めて着ている服をみると、白シャツに黒パンツ、茶色の革ブーツと、いかにもレベル1といった装備だ。

 川周辺には木が茂っており、体を隠しながら着替えるにはもってこいだ。シャツとスボンを枝にかけ、川の中にざぶざぶと入っていく。底まで見えるほど、透き通っており、色鮮やかな小魚たちが泳ぎ回っていた。興奮状態だったから気づいていなかったけど、川の中が気持ちいいと感じるくらいには暑い日だ。なんか楽しくなってきたから、全身つかってみる。こんなことをするのは小学生以来だ。

 周りを見てみる。そよそよと木が唸るばかりで、人の声は全くしなかったし、少し舗装された道を通っても、誰にも出会わなかった。


 いや、おかしくない?

 異世界転生したら、絶対案内人に会うやん。


「なんでだあ……」


 前途多難すぎる。スライムにベトベトにされるし、唯一の服だって、これから洗濯して乾かさないといけない。


「あ」


 異世界転生したら、なんか魔法とか使えるのでは? さっきなんかスライドみたいな映像みたいなの出ていたし、もしかしたら使えるスキルがあるかも。

 火とか水とか、そういうのが使えれば、あっという間に乾かせるでしょう!天才かあ???

 でも、どうやってさっきのやつを出せばいいかわからない。


「ステータス、オープン!」


 ……なんもならん。おかしい。アニメだと、これでなんか見られてたりしたじゃん。いや、やっぱり勝手が違うのかもしれない。とりあえず、体は洗ったから、服を取ってこようと思って、川から出る。

 すると、ぶおん、と扇風機が周り出した時の音に近い音が鳴った。目の前に、さっき出ていたような映像が出てくる。合ってた!!!!

 急いで服を取りに行って、洗いながらステータスを確認していく。


ユーキ Lv.1

HP 10

MP 10

攻撃力 20

防御力 20

特殊効果:全属性魔法攻撃力アップ


 結構恵まれているような感じがする。特殊効果が結構強い。どうやら次のページがありそうなので、めくってみる。所持品や、謎のステータスふり、そしてジョブが書かれていた。

 所持品はさっき拾った木の棒のみだった。謎のステータスは「運」「縁」「勘」「魔力量」「筋肉量」「精神力」となっており、いまいちよくわからない。魔力量と精神力がえぐいのはわかる。あとはどっこいどっこいな感じだ。

 そして、燦然と輝くジョブを見る。


ーー勇者。


 洗っていたはずの服は、ずっと濡れたまま。川のせせらぎだけが、静かにそこを通っていく。

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