第4話 初めてのモンスターのようです
見渡す限り、草原が広がっていた。チクチクと頭に細かな葉先が刺さる。空を見上げると、どこまでも青く澄み切っていた。
さっき死んだのに、おかしな話である。事態が飲み込めないまま、取り合えず立ち上がる。お尻についた土を払い落として、伸びをすると、確かに生きていることを実感した。
雅史、大丈夫だったかなあ。
多分一緒に死んでしまったと思うのだが。でもこうして、前の記憶を持ったまま、よくわからんところに寝転んでいたことを思うと、きっと雅史もどこかで、俺と同じような感じになっているのではないかなと思う。できれば、同じ世界にいればいいけれど。
とりあえず、何か、目印になるものがないかと思って、散策することにした。とは言っても、本当に草原が広がりすぎて、何が何だかわからない。
膝丈ほどある葉ばかりが、遠くから近くから波打っている。風は鳴り止まない。
そろそろ景色にも飽き出した頃、不自然に少し先の葉が揺れた。動物だろうか? 動かず、向こうから現れるのを待つ。
「キュイ!」
飛び出てきた。スライムが。
「えっっっ」
スライムだ。え、スライム、だよね?
球体。艶やかな青色。透明。
あ、そうだね、スライムですね。
と言うことは、なんだ? ここは、異世界転生でよくある、ああいう世界観ってこと? ゴブリンとか、オーガとか、そう言う魔物がいる世界ってことなんだ。なるほどなるほど……。
足元のスライムが妙な動きをつけてこちらににじり寄ってくる。
ワンチャン、テイムができるかもしれない。
「ほら、怖くないよ、怖くないよ〜」
犬を撫でるときは、確か、目線を下げて、下から手を出すのが定石、って雅史が言ってた。膝をついて、敵意をなくす。スライムはニュルリニュルリと聞いたこともないような音でにじり寄ってきた。
順調と思っていたのも束の間。気づけば、スライムは俺に突進してきた。
どん、と強い衝撃を感じる。ベタリとスライムの体が俺の体に張り付いてくる。粘液のような、嫌なじっとり感に嫌気がさす。何より、捕食しようとしてない?
「え、待って待って待って」
捕食はまずい。転生して、スライムにあっただけだ。この世界がなんなのか、よくわからないまま、また死ぬの? 俺?
ジタバタとスライムを弾きちぎっては投げ、引きちぎっては投げを繰り返すが、スライムはベタリベタリとその粘液の範囲を広げるだけだった。
俺は、諦めない。また童貞のまま死にたくない。いや、そこはどうでもいい。この起死回生のチャンスを逃したくない!
奇声を発しながら、ばたつく。すると、手に何かが当たった。
多分、木の棒のようなものだ。ラッキーだ。武器だ!
それを引っ掴み、スライムめがけて突き刺す。
「キェエエエエエエ」
スライムは見事に萎んでいった。ああ、よかった。スライムに打ち勝てた。
ピロン、とどこからか電子音が鳴る。スライムがサラサラと体を無くし、そこから得体の知れない鉱石のようなものがゴロンと出現した。
目の前にスクリーンのようなものが浮かんだ。「スライム鉱石」と書かれている。燃料として使えるものと、説明書きもされている。
「本当に異世界転生したんだ……」
俺はその青い鉱石を太陽にかざす。水晶のように光って、反射する。呆然と立ち尽くす。風がゴウとなって、葉が舞う。服を見れば、粘液がべっとりと全身を覆っていた。
「とりあえず、まずは体を洗おうかな」
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