第3話 親友も転生したようだ(雅史side)

 さて、異世界転生である。


 ktkr。にはならない。マジでどこかわからん。

 さっき死んだのだ。交通事故で、親友の勇気と仲良く。

 これで、ジ・エンドと思ったのだが、眠りから醒めるように、目が覚めたのである。ワタのような、白い空間。あ、知ってる。ご都合主義、異世界転生あるある、天国に飛ばされて、神様と対話するやつ。履修済みだ。


「どこに行きたい?」


 知ってる〜〜〜これ知ってる〜〜〜〜。

 ヒゲのおじいちゃんが出てきて、あるいは見目麗しい女神が出てきて、どっかに飛ばすんでしょう? 知ってる知ってる。知りすぎている。

 声がした方を見れば、おじいちゃんでも、女神でもなく、役人みたいな男が立っていた。それは、知らない。七三分けのメガネの男が、直立で、綺麗に立っている。少し、面食らう。でも、質問はせねばなるまい。


「選択肢はありますか」


 男は首をひねる。面白い、とでもいうようだ。


「お前、男と死んだろ」

「親友と、はい、そうですね」


 くすくすと、男は笑う。さっきの仏頂面はどこに行ったんだ。なんなら馬鹿にされているような気持ちにもなる。何? 童貞だって言いてえのかてめえ。


「親友ね、転生してるよ」

「え、本当ですか」


 勇気も、転生していた。ああ、よかった。もしかしたら、会えるかもしれない。全く知らない人のところで環境に適応していくのは、非常に疲れる。よくわかんないこと言ってくるやつが多すぎて、勇気くらいしか、話し相手がいなかったのだ。


「あの、彼は、どこに……」

「そこに行きたいか」

「まあ、はい、そうですね」


 男は相変わらずくすくす笑っている。今度は口に手を当てて笑い出した。いよいよ本格的に笑い出している。なんやねん。何がおかしいんよ。そこで、ふと疑問に思う。


「彼は、自分で選択して、転生したんですか」


 男は首を振る。


「彼は結構深く眠っていたからね。ランダムで選ばせてもらったよ」

「そうですか……」

「君たちが好きそうな世界というべきかな」

「好きそう?」


 そう、と口角をあげる。メガネをクイッとあげて指を鳴らす。すると、ボワっと映像が映し出された。きっと、これからいく世界の説明でもしてくれるのだろう。


「魔王と勇者がいる世界。それぞれスキルやジョブが付与されて、レベルを上げていく。装備は中世ヨーロッパ風。科学の代わりに魔法が発展している世界だ。ちなみにスマホはない」


 そこまで言われたら、納得する。要するに俺TUEE系の世界観ということだ。おけおけ、任せろ。得意だ。最近はそんなアニメしか見てなかったし、予備知識は十分だ。ただ、落とされる場所によっては、勇気に一生会えないパターンも考えられる。例えば、ブラジルと日本くらい離れているとか、そういう距離的なハンデ。


「勇気の近くに落としてください。あとはどうにかします」

「いいだろう」


ちなみに、と男は言葉を付け加えた。


「転生者には、ギフトを与えている。まあ、転生はいわば我々のお遊びに近いからな、協力してくれる人にお礼を渡すのは当然だろう」

「ギフト」

「勇気には、勇者のジョブをギフトを渡した」


おい、俺TUEEじゃねえの。


「だがな」

「はい」

「勇者としての運を付け加えるのを忘れた」

「運……」

「勇者は素質のみでなれるものではない。運の強さがものを言ってくることもある」

「その時代に魔王がいないとかそういうことですか」

「少し違う。魔王は必ず誕生する。しかし、勇者のジョブは多くの人が持っている。そのジョブをどのように活かすかによって、歴代の勇者に並ぶか否かが変わってくる」


 つまり、ジョブは素質に近い概念ということらしい。その素質を活かすも殺すも、運のステータスによってくる。しかし、この男ときたら、その運のステータスの譲渡を忘れたということである。何してくれてんの。俺TUEEにならんやん。


「だから、君に、運のステータスをふる。勇気を勇者にしたいなら、まあ、頑張れ」

「もう一つおねだりしていいですか」

「なんだ」

「縁にもステータスはありますか」

「ある」


 ああ、と男は頷く。


「そうだな、縁のステータスも降ってやろう。上手く使え」

「ありがとうございます」


 男が手をかざすと、俺の額が白く輝く。暖かな光が自分の中に入り込んでくるかのようだった。全ての光を吸収する。すると、ぶおん、という音と共に、四角い画面のようなものが目の前に出てくる。いわゆるステータス表示みたいなやつである。

 ジョブ欄は???になっている。運はレベルMAX、縁もレベルMAX、勘という項目もレベルMAXになっている。


「この勘ってなんですか」

「おまけだ。適切なタイミングやそう言ったものが測れる概念だな」


 はあ、とうなづく。なんかよくわからんけど、勘がいいやつというのは重宝されるような気がする。運と縁と勘、全てが良いのであれば、どうにかなりそうである。


「準備は整ったな」

「はい」


 俺は決意する。

 待ってろ、勇気。俺ぜってえ俺がお前に異世界転生、俺TUEE、ご都合主義展開にさせてやるからな。


 男がポンと俺の肩を押す。

 

 加速がつく。ジェットコースターよりひどい。

 意識を手放す。眠りにつくように、するりと。



 そして、今。

 異世界転生を、完了させた。

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